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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第17話:凱旋

黄金の雨が上がり、ユグドラシルの葉先から滴る雫が宝石のように輝く王宮の広場。



 世界樹を救った英雄たちの帰還に沸き立つ中、ゴルドが喉を鳴らしながら、ひょいとアルドの肩に腕を回した。


「ガハハ! お帰り、アルド殿! いやぁ、アンタの放ったあの衝撃波、地上にいても鳥肌が立ったぜ。……ところでよ、あの時、一瞬だけ見えた『アレ』……ありゃあ一体、何の冗談だ?」


「アレ? ……あぁ、悪い虫(邪神)を掃除する時だよね」


 アルドは「ちょっと雑草を抜いた」程度の気軽さで、こともなげに答えた。


「なんか、中々しぶとい虫だったからさ。少しだけ気合を入れようと思ったら、光が出ちゃったんだよね。……こんな感じで、ドン!!って」


 アルドが軽く拳を握り、あの時の感覚を再現しようとした、その瞬間。


 ――ゴォォォォォンッ!!


 王都全域の空気が、一瞬にして凝縮された。


 アルドの背後から、黄金の光を放つ巨大な龍の翼が再び爆ぜるように展開される。


 その瞳は神域の輝きを放つ黄金の縦瞳へと変貌し、ただそこに立っているだけで、世界の法則が「アルド」という個体の存在に屈服し、跪く。


 圧倒的な、神をも平伏させる**【龍神モード】**の再臨。


「「「…………っ!!?」」」


 広場にいた全員の思考が停止した。


 特に、論理と計算を司るゼクスは、もはや処理能力の限界を超えていた。


「……あ、あり得ない。……基底現実における魔力密度の臨界を突破し、かつ生命因子の再構成が……いや、これは高次元投影による時空歪曲か……? E=mc^2 どころか、存在論的な 0 と 1 の境界が……あ、ああ……」


 ゼクスは、ずり落ちた眼鏡を直すことすら忘れ、虚空に指で数式を書きなぐりながらブツブツと独り言を漏らしている。


その顔は、未知の真理を目の当たりにした学者の如き陶酔と戦慄に満ちていた。


 一方、ミラはといえば。


 「限界」を迎えていた。


 至近距離で浴びせられる、龍神アルドの圧倒的なカリスマ。


神々しくも、どこか根源的な野性を感じさせるその姿。


「(……っ! ああ……あああああ……っ!!)」


 ミラの頬はこれ以上ないほど朱に染まり、あまりの尊さに、心臓の音が耳元まで響いている。


もはや扇で顔を隠すことすら忘れ、潤んだ瞳でアルドを凝視したまま、魂が抜けたように立ち尽くしていた。


 その様子を横目で見ていたベラドンナが、くすりと妖艶に笑う。


「……あらあら。ミラ様、魂が天に召されていますわよ? 確かに、この色気は毒……。……毒というよりは、もはや致死量のスパイスね。純真な主人には、刺激が強すぎます」


 ベラドンナ自身、その肌に微かな粟立ちを感じていた。


サキュバスとしての本能が、アルドという「究極の個体」に抗いようもなく惹きつけられている。


「……あれ? やっぱり、やりすぎちゃったかな」


 アルドがパッと光を消すと、一瞬で「いつものお兄さん」に戻った。


「あ、ゴルドさん、顔色が悪いですよ? どこか痛いところでも……?」


「い、痛いのはこっちの常識だよ!!」


 ゴルドが腰を抜かさんばかりに叫ぶ。


 そんな喧騒の中、一人の男がアルドの前に進み出た。


 南の大陸の王太子である。


彼は、自国を、そして世界樹を救ってくれた英雄に対し、深い敬意を込めて一礼した。


「……アルド殿。貴公の力、そしてその高潔な魂に、我ら一同、心よりの感謝を捧げたい」


彼は、自国を救ってくれた英雄たちを眩しそうに見つめていたが、その視線は、アルドの傍らで祈りを終えたばかりの少女――リナに釘付けになっていた。


「……聖女リナ殿」


 王太子が、リナの前に静かに跪いた。


広場にいた民衆が、息を呑んでその光景を見守る。


「貴女の清らかな祈りが、濁った賢者の石を浄化し、我が国の生命を繋ぎ止めてくれた。……その尊き姿に、私は魂を揺さぶられた。リナ殿……どうか、我が王妃として、この国を共に支えてはくれないだろうか」


 「えぇぇぇぇーーーっ!?」


 カイルが今日一番の驚愕の声を上げ、ミラは驚きで「かっこいい……」という放心状態から一気に現実に引き戻された。


 当のリナは、目を丸くして固まっている。


「え、えぇっ!? わ、私……? い、いきなり!?お、王妃様……!?」


 その時だった。


 今までニコニコと「お掃除が終わって良かったね」と場を和ませていたアルドの周囲の空気が、スッと、氷のように冷え切った。


「……王太子様」


 アルドが、一歩、リナの前に立ちふさがるように進み出た。


 先ほどの「龍神モード」のような派手な光はない。


しかし、その背後から漏れ出す「絶対に譲らない」という静かな威圧感は、先ほどの邪神すら青ざめるほどに冷徹だった。


「……リナはまだ、遊び盛りの子供ですから。……王妃様なんて重い仕事、俺の妹にはまだ早いと思いますよ?」


 アルドの目が笑っていない。


 世界を救った救世主の「シスコン」が爆発しようとしていた。


 一方、ミラはそんなアルドの「妹を守る凛々しい姿」に、再び胸を撃ち抜かれていた。


「(……っ! 妹を守るアルド様……っ! なんと気高く……なんと頼もしい……ああっ、かっこいいですわ……!!)」


 救国のお祝いムードはどこへやら。


 南の王宮は、王太子の求婚と、それを全力で阻止せんとする最強の兄、そしてそれを見て悶絶する辺境伯令嬢(魔王)が入り乱れる、未曾有の大混乱に突入しようとしていた――。



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