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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第9話:勇者の誓い

賢者の石があった聖域のさらに奥。


底の見えない巨大な縦穴からは、ユグドラシルの悲鳴のような、湿った風が絶えず吹き上がっていた。


 アルドの圧倒的な一撃で散らされたはずの闇は、深層に潜む「本体」と繋がり、再び迷宮を侵食し始めている。


「……お兄さん、少し休もう。お兄さんも、さっきのは疲れたでしょ?」


 リナが心配そうにアルドの顔を覗き込む。


アルドは「少し肩が凝ったかな」といつものように笑ったが、その瞳の奥には、邪神が潜む深淵への鋭い視線が残っていた。


 一行は聖域の隅に魔法の灯火を灯し、一時の休息を取ることにした。


「……クソッ!!」


 静寂の中、カイルの罵声が響いた。


 彼は壁を拳で叩き、自らの愛剣『黒曜』を床に投げ出した。


「何が勇者だ……何が『お兄さんを守る』だ! あんな泥みたいな奴に剣を絡め取られて、リナを守るどころか、自分の剣すら引き抜けなかった……!」


 カイルの肩が激しく震えている。


 彼は、アルドが見せた「黄金の瞳」の威圧を忘れることができなかった。


あれは、自分が一生かけても届かないような高み。


お兄さんはあんなにも遠い場所にいるのに、自分は足元で震えているだけだった。


「カイル。……己の未熟を嘆くのは、死力を尽くした者のみに許される特権。貴殿は、まだその剣の『真価』を引き出していない」


 シオンが静かに歩み寄り、投げ出された『黒曜』を拾い上げた。


「この剣は、初代領主様とマスター以外に使い手がいなかった、魂を喰らう黒鋼。……貴殿が『お兄さんに守られたい』と願っているうちは、この剣はただの重い鉄塊に過ぎんぞ」


「先生……っ、分かってるよ! でも、どうすればいいんだよ! お兄さんみたいに、あんな風に……」


「俺みたいになる必要はないよ、カイル」


 いつの間にか背後に立っていたアルドが、カイルの隣に腰を下ろした。


「カイルは、俺の代わりになろうとしなくていい。……俺は、薪を割ったり、悪い虫を追い払うのは得意だけど。……誰かの『希望』になることはできないんだ。それは、真っ直ぐな心を持っているカイルにしかできないことなんだよ」


 アルドは、カイルの手をそっと取り、その掌に刻まれた剣のマメを見つめた。


「カイルの剣は、誰かを傷つけるためのものじゃない。大切な人を守り、導くための光なんだ。……俺がこの木の『病気』を診ている間、隣でリナを、シオンさんを、そして俺の背中を守ってくれるかい?」


「お兄さん……」


 カイルの瞳に、再び火が灯った。


 アルドの言葉は、魔法のような力を持っていた。


劣等感という闇を、温かな期待という光で塗り替えていく。


「……分かった。俺、もう迷わない。お兄さんが戦いに集中できるように、俺が……俺が、絶対にお兄さんの後ろは通らせない!」


 カイルが『黒曜』を握り直すと、これまでにないほど強く、閃光のような光が刀身を駆け抜けた。


それは剣が、ようやくカイルを「真の主」として認め始めた兆しだった。


 一方、地上では――。


 王宮の地下通路を、ミラと四天王たちが音もなく進んでいた。


「ミラ様、あちらです。……長老たちの影に隠れ、邪神に栄養を送っていたネズミたちの巣窟が」


 ベラドンナが、壁に隠された秘密の扉を指差す。


「ええ、片付けますわよ。……アルド様が下で、未来の義弟カイルを導いていらっしゃるのですもの。ワタクシも、姉(?)として恥ずかしくない働きをしませんと」


「……計算によれば、敵の数は三十八。……ミラ様、お手を汚すまでもありません。ゴルド殿と二人で、三秒で終わらせます」


 ゼクスが冷酷なまでに整った魔力計算を終える。


「ガハハ! 三秒もいらねえよ! アルド殿に『地上は平和だよ』って報告するのが、今の俺様の最大の任務だからな!」


 ゴルドが扉を蹴り破り、中に潜んでいた教団の残党たちへ、文字通りの嵐となって突っ込んでいった。


 地上の闇が四天王によって着々と「お掃除」される中。


 地下では、カイルという名の新たな光を得た一行が、ついにユグドラシルの深層――『アビス』へと、第一歩を踏み出そうとしていた。


「よし。……みんな、行こうか。……この木の、一番深いところまで」


 アルドのその言葉と共に、迷宮の奥から、邪神の嘲笑を掻き消すような力強い足音が響き渡った。



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