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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第8話:龍因の片鱗

聖域を支配していた絶望的な沈黙を、アルドの冷徹な声が切り裂いた。


「……リナと、カイルを……俺の家族を『餌』って言ったのか?」


 その瞬間、世界が震えた。


 アルドの全身から立ち昇るのは、単なる魔力ではない。それは、存在そのものが「世界の法」を書き換えてしまうような、黄金の波動だ。


『……ガ、ギィ……!? こ、この気配……何だ、何が起きている……!?』


 邪神の泥が、恐怖に震えるように激しく波打つ。


アルドの瞳は、普段の穏やかさを完全に失い、黄金に輝く「縦に裂けた瞳孔」が、冷たく邪神を射抜いていた。


 アルドが一歩、無造作に足を踏み出す。


 ――バキィィィィィィィン!!


 物理的な衝撃ではない。


アルドの周囲数メートルに展開されていた邪神の「闇の領域」が、より上位の存在によって否定されるように、音を立てて粉砕されたのだ。


カイルたちの剣を絡め取っていた黒い粘液も、アルドの存在に触れることすら叶わず、蒸発するように消えていく。


「お兄さん……?」


 自由になったカイルが、思わず立ち竦む。


目の前にいるのは確かに、自分たちを慈しんでくれる「兄」だ。


しかし、その背後に透けて見えるのは、天を突くほどの巨躯を持つ、古の神話すら凌駕する「何か」の影。



『……お、おのれぇ……! 龍の……末裔か! だが……この器(賢者の石)を壊せば、南の大陸は死に絶えるぞ!』


 窮した邪神が、人質である『賢者の石』を自らの闇で締め上げる。


石に亀裂が入れば、世界樹は死ぬ。


卑劣な勝ち誇りの叫びが響こうとした、その時。


「……五月蝿いよ」


 アルドが、くうを掴むように右手を軽く握った。


 刹那、邪神が掌握していたはずの「黒い泥」が、アルドの意思によって強制的に凝縮プレスされた。


『……ギ、ギャアァァァァァァッ!?』


 悲鳴を上げる暇もなかった。


賢者の石を覆っていた泥の大部分が、アルドの純粋すぎる魔力によって一瞬で「浄化」され、消滅した。


 しかし、邪神もまた執念深かった。


消滅する寸前、核となる最深部の闇が、賢者の石の「割れ目」からさらに奥――ユグドラシルの根が網の目のように広がる、迷宮の「深層アビス」へと逃げ込んだのだ。


「……逃げたか」


 アルドの瞳から黄金の輝きが引き、元の茶色い瞳に戻る。


同時に、周囲を威圧していた重圧も消え失せた。


「お兄さん! 大丈夫!?」


 リナが駆け寄り、アルドの手を握る。


アルドは少し疲れたように微笑み、彼女の頭を撫でた。


「ごめんね、リナ。怖がらせちゃったかな。……あいつ、この木の一番深いところに潜り込んじゃったみたいだ。あそこは木の根が複雑すぎて、僕の力で一気に除去しようとすると、木そのものを傷つけてしまうかもしれない」


「深層……。長老たちが『禁足地』と呼び、エルフの歴史でも誰も辿り着けなかった、ユグドラシルの最奥ですね」


 シオンが『薄墨』を納め、険しい顔で闇を見つめる。


「……あいつ、そこを苗床にして、世界樹の根そのものを自分の体に作り替えようとしてるんだ。……時間をかけて、じっくりと、この木を毒していくつもりだね。……本当に、欲張りな虫だ」


 アルドの言葉に、カイルが拳を握りしめた。


「お兄さん。……俺、次はもっと役に立ちたい。あんな奴に、お兄さんの家族を『餌』なんて呼ばせない。……絶対、俺たちの力で引きずり出してやるよ!」


「……うん。頼りにしてるよ、カイル。……シオンさんも、リナも。……ここからは、丁寧な『診察』が必要だ。一歩ずつ、悪いところを切り取っていこう」


 アルドは、自らの中にある「龍の因子」が、まだ静かに脈打っているのを感じていた。


 完全な覚醒。


それは、もはや「人間」としての暮らしに戻れなくなるかもしれないほどの、巨大な力。


 それを解き放つのは、まだ先でいい――。


「……さて。地上の皆も、心配してると思うからね。少しだけ休憩して、それから本格的な『お掃除』の準備をしようか」


 一行は、邪神が逃げ込んだ、命と死が交差する深層迷宮の入り口を見据える。


 一方、地上では、アルドが放った一瞬の「威圧」により、王都の魔物たちが全て気絶するという、異常な事態にミラたちが頭を抱えていた。


 南の大陸の運命を決める戦いが、ここから幕を開ける。



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