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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第2話:沈黙する世界樹

王都ルミナスの城門前。



 南の大陸を統べるハイエルフの長老たちは、まるで汚物を見るかのような冷徹な視線をアルド一行に投げかけていた。


「王太子殿下、繰り返します。この北の人間……それも、出所も知れぬ『自称・賢者』などという者を、霊樹の聖域へ招くなど、正気の沙汰とは思えませぬ」


 杖を強く突き、一歩前へ出たのは筆頭長老のガルアスだ。


その耳は長く、透き通るような肌は確かに美しいが、その言葉には猛毒が含まれていた。


「アルド殿は私の命の恩人であり、この大陸を救い得る御方だ! 失礼な物言いは慎め!」


「ふん、命を救われた? それこそが罠だとは思わぬのですか。殿下、霊樹ユグドラシルが枯れ始めたのは、まさにこの者たちが北を発った時期と重なるのですぞ!」


 長老たちの心ない糾弾に、カイルが「なんだって!」と剣の柄に手をかける。


シオンもまた、殺気を孕んだ瞳で長老を射抜こうとしたが、アルドが静かにそれを制した。


「……あの、すみません。長老さん」


 アルドは、まるで近所のお年寄りに道を聞くような気負いのない態度で、ガルアスの前に立った。


「僕たちが来たから木が病気になった、って思ってるんですね。……それは、ごめんなさい。でも、原因が僕たちにあるかどうかも含めて、一度ちゃんと木を診てあげたほうがいいと思うんです。さっきから、あの大きな木が、すごく苦しそうに咳をしてるみたいで」


「……咳だと? 何を世迷言を。数百年を生きる我らハイエルフにすら聞こえぬ霊樹の声が、貴様のような人間に聞こえるはずがなかろう」


 ガルアスが鼻で笑った、その瞬間。


 ――ゴォォォォォン……!


 大地を揺らすような、低く重い響きが王都全域を駆け抜けた。


 世界を支える大樹ユグドラシルが、まるで見えるはずのない悲鳴を上げたかのように激しく震え、その黄金色の葉が一斉に、ハラハラと色を失って落ち始めた。


「なっ……霊樹様が!? 活動を完全に停止されたというのか!?」


 長老たちが泡を食って狼狽する中、アルドだけは悲しげに巨大な幹を見上げていた。


「……あ、止まっちゃった。呼吸がうまくできてないみたいだ。これじゃあ、お腹が空くどころか、苦しくて動けなくなっちゃうよ」


 アルドの言葉を裏付けるように、王都を流れる聖水がみるみるうちに濁り、豊かな魔力の風がピタリと止む。


 沈黙。世界が窒息するような、不気味な静寂が南の大地を包み込んだ。


「これを見ろ! やはり異端を招き入れたから大精霊様がお怒りになったのだ! 衛兵、この者たちを捕らえよ!」


 ガルアスの叫びに、周囲の騎士たちが困惑しながらも槍を向ける。だが、王太子と、その奥から現れた一人の女性がそれを一喝した。


「控えよ、ガルアス! 余の客人に指一本触れることは許さぬ!」


 現れたのは、南の支配者、霊樹皇セレナだ。


彼女は慈愛に満ちた瞳をアルドに向け、深く頭を下げた。


「アルド殿、無礼を許してください。……そして、お願いします。貴方のその『声を聞く力』で、我が母なる樹を……救ってはいただけませんか」


 アルドは、不安そうに自分を見つめるリナと、期待に満ちた眼差しのカイル、そして頬を赤らめて(なぜか気合を入れている)ミラを順番に見て、力強く頷いた。


「分かりました。……とりあえず、根っこまで行ってみます。あそこが一番、苦しそうな音が聞こえるから」


 「不浄の者」と蔑む長老たちの怒号を背に、アルド一行は、死の静寂に包まれたユグドラシルの根元――未知の深淵へと足を踏み入れる決意を固めるのだった。



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