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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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【幕間:剣聖の休日、南への極秘遠征】

北の聖域、その朝はあまりにも平和すぎた。


「マスター、今日の薪割りはそれがしが済ませておいた。新しい刀『薄墨』の鳴らし込みに丁度良かったゆえな」


「あ、ありがとう、シオンさん」


「お兄さん! 狩りは俺が行ってくるよ。黒曜と一緒に、一番いい獲物を仕留めてくるからさ!」


「……気をつけてね、カイル」


 さらに、溜まった洗濯物に手を伸ばせば。


「ダメだよお兄さん! 掃除と洗濯は私の担当。お兄さんはいつも頑張ってるんだから、今日くらいは座ってて!」


 リナにまでピシャリと「仕事」を取り上げられ、アルドは手持ち無沙汰にログハウスの縁側に座り込んだ。


(……やることが、なくなっちゃったな)


 いつもなら「お掃除(魔物退治)」や薪割りで一日が過ぎるが、今日に限っては皆が甲斐甲斐しく働いてくれている。


 ぼんやりと南の空を眺めるアルドの脳裏に、昨日のティータイムの光景が蘇った


ふと、昨日聞いた「リナの婚約」という言葉が、アルドの胸をざわつかせた。


 アルドにとって、リナは大切な家族だ。それをどこの誰とも知れない男に任せられるか……。


(よし、ちょっと様子を見に行こう。南の王太子さん、どんな人なんだろう)


 アルドは腰に、村人の護身用にしては無骨すぎる一振りの剣――聖剣『星凪』を差し、誰にも言わずこっそりとログハウスを抜け出した。


 アルドにとって、北から南までの距離など、少し隣の村までお使いに行くようなものだ。


 風のように山を越え、谷を抜け、彼は南の大地へと足を踏み入れた。


 そこでは丁度、南の騎士団が凶悪な魔獣の群れに包囲され、絶体絶命の危機に陥っていた。


「まだだ!皆、諦めるな!!」


 先頭に立って剣を振るうのは、輝く金髪をなびかせた青年。


 アルドは戦場のど真ん中へ、まるで近所の散歩道に迷い込んだような足取りで近づき、青年に声をかけた。


「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが……」


「なっ!? 君、危ない! 下がっていなさい!」


 青年が叫ぶが、アルドは構わず話を続ける。


「この辺りに『王太子』さんという方がいらっしゃると聞いたのですが、ご存知ありませんか?」


「……私が、この国の王太子だが。……君、一体どうやってこの魔獣の包囲網を?」


 青年――南の王太子が驚愕して固まる。


アルドは「ああ、よかった」と安堵の表情を浮かべた。


「あなたが王太子さんでしたか。ちょうど良かった! ……実は、うちのリナ……あ、リナを任せるに足りる方かどうか、確認させて欲しくて来たんです」


「リナ……!? 確認? ちょっと待ってくれ、話の整理をさせてくれないか! なぜ君がリナ嬢の名を……そもそもこの魔獣の群れはどうするつもりだ!?」


「ああ、お掃除・・ならすぐ終わりますから」


 アルドは腰の『星凪』をすらりと抜いた。


 ただの村人が持つには不釣り合いなほど美しく、神々しい輝きを放つ刃。


 アルドがそれを軽く一閃させると、王太子を苦しめていた魔獣たちが、まるで春風に吹かれた枯れ葉のように、一瞬で塵となって消え去った。


「…………え?」


 王太子が絶句する。


アルドは剣を納めると、改めて深々と頭を下げた。


「お騒がせしました。俺は、北の村で暮らしているアルドといいます。リナの……まあ、兄のようなものです。今日はあなたの『薪割り(実力)』を見せていただこうと思いまして」


「北の、アルド……。まさか、あの……。いや、それより君、今さらっと何千という魔獣を消し飛ばしたな!?」


 ここから数時間。


南の国境付近では、混乱する王太子と、真面目に「リナを任せられるか」の面接(物理)を開始するアルドの、噛み合わない激闘……もとい「抜き打ち稽古」が繰り広げられた。


 夕暮れ時。


 ボロボロになりながらも、アルドの規格外の剣技を目の当たりにし、新たな世界を開かれたような顔をしている王太子を後に、アルドは満足げに北へ戻った。


(うん、根性はありそうだな。少し鍛えれば、リナを守れるくらいにはなるかもしれない)


 鼻歌まじりにログハウスに戻ると、そこには鬼のような形相のミラ、心配で泣きそうなリナ、そして抜剣しかけているシオンとカイルが待ち構えていた。


「「「「アルド様(マスター/お兄さん)!! どこへ行っていたのですか!!」」」」


「あ、ハハハ……。ちょっと、散歩にね」


 アルドの隠密(?)行動は、南の国に「最強の兄」の伝説を刻み込み、王太子の人生観を180度変えてしまうという、とんでもない騒動となって幕を閉じるのだった。



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