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未来は僕らの手の中に  作者: たろいも
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6/8

敗北の記憶

それは、“自分”だった。


 顔も、声も、立ち方も。


 すべて同じ。


 ただ一つ違うのは――


 その目に、何も残っていないことだった。


⸻


「……あなたが」


 言葉がうまく出ない。


⸻


「未来の、私」


⸻


「うん」


 あっさりと肯定される。


⸻


「で、君は過去の私」


 未来のアズサは、わずかに首を傾けた。


⸻


「毎回ここで同じ顔するよね」


⸻


 その言葉に、背筋が冷える。


⸻


「毎回……?」


⸻


「うん、毎回」


 淡々とした声。


⸻


「で、毎回負ける」


⸻


 空気が、歪んだ。


⸻


 次の瞬間には、距離がゼロになっていた。


⸻


「――っ」


⸻


 衝撃。


 何が起きたのか理解する前に、体が吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


 息ができない。


⸻


「遅い」


 未来のアズサが言う。


⸻


「判断も、理解も、全部」


⸻


 視界の端で、リサが動こうとする。


⸻


「動かないで」


 未来のアズサが、そちらを見ずに言う。


⸻


 その一言で、空気が凍る。


 リサの足が止まる。


⸻


「……なんで」


 アズサは、かすれた声で言う。


⸻


「なんで戦うの」


⸻


 未来のアズサは、少しだけ考えるように間を置いた。


⸻


「簡単だよ」


⸻


 一歩、近づく。


⸻


「君が、同じことするから」


⸻


「同じこと……」


⸻


「リサを救おうとする」


⸻


 その言葉に、胸が締め付けられる。


⸻


「それの何が悪いの!」


⸻


 叫ぶ。


⸻


「何回やっても、ダメだから」


 即答だった。


⸻


「救えるよ!」


⸻


「救えたよ」


⸻


 その一言で、思考が止まる。


⸻


「……え」


⸻


 未来のアズサは、初めて少しだけ感情を乗せた。


⸻


「一回だけ」


⸻


 その目に、ほんのわずかに何かが宿る。


 後悔か、執着か、それとも――


⸻


「でも、そのあと壊れた」


⸻


 静かな断言。


⸻


「世界が?」


⸻


「違う」


⸻


 一瞬の間。


⸻


「リサが」


⸻


 音が消えた気がした。


⸻


「存在が安定しなくなって」


 未来のアズサは続ける。


⸻


「時間の外に落ちた」


⸻


 理解できない。


 けれど、直感は理解している。


⸻


「だから私は」


⸻


 未来のアズサは、ゆっくりと手を上げた。


⸻


「その前で止める」


⸻


 その瞬間。


 アズサは動いた。


⸻


 考えるより先に、体が動いていた。


⸻


 手を伸ばす。


⸻


 リサの方へ。


⸻


「リサ!」


⸻


 その手を、掴む。


⸻


 温度があった。


 確かに、そこにいる。


⸻


 それだけで十分だった。


⸻


「……離して」


 リサが小さく言う。


⸻


「ダメ」


⸻


「離して、アズサ」


⸻


 その声は、震えていた。


⸻


「このままだと――」


⸻


「それでもいい!」


⸻


 言い切った。


⸻


「何回でもやり直す!」


⸻


 その言葉に。


⸻


 未来のアズサが、初めてはっきりと感情を歪めた。


⸻


「それがダメなんだよ」


⸻


 低い声。


⸻


「“何回でも”が、一番壊す」


⸻


 次の瞬間。


 再び衝撃。


⸻


 視界が弾ける。


⸻


 そして――


⸻


 鐘の音。


⸻


 朝。


⸻


 また、この日。


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