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未来は僕らの手の中に  作者: たろいも
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5/8

選択権

森の奥は、静かすぎた。


 風もない。

 音もない。


 ただ、世界が“止まっている”ような感覚だけがあった。


⸻


「ここから先は、あんまり見せたくなかったんだけど」


 リサが言う。


 いつもより少しだけ、声が低い。


⸻


「……何があるの」


「仕事」


⸻


 その言葉は短かった。


 だが意味は重かった。


⸻


 少し進むと、開けた場所に出た。


 円形の空間。


 地面には、奇妙な模様が刻まれている。


 規則的で、どこか人工的な線。


⸻


「これが“調整点”」


 リサが言う。


⸻


「ここで、ズレを戻す」


⸻


 アズサは息を呑む。


 理解してしまったからだ。


⸻


「……誰かを、消すってこと?」


⸻


 リサは少しだけ黙った。


 そして、


「消す、っていうより」


⸻


「なかったことにする」


⸻


 訂正するように言った。


⸻


 そのとき。


 空間の中央に、誰かが“現れた”。


⸻


 小さな男の子だった。


 見覚えがある。


 同じクラスの――


⸻


「やめて」


 アズサの声が反射的に出る。


⸻


「この子、まだ――」


⸻


「うん」


 リサは遮らずに聞いた。


 ただ、表情が動かない。


⸻


「でも、このままだとバランスが崩れる」


⸻


「だからって!」


⸻


 叫びかけたその瞬間。


 リサがこちらを見た。


⸻


 その目は、静かすぎた。


⸻


「じゃあ代わりに、誰を消す?」


⸻


 言葉が詰まる。


⸻


 何も言えない。


⸻


 リサは、ゆっくりと手を伸ばした。


⸻


 男の子の額に触れる。


⸻


「待って!」


⸻


 アズサがその手を掴む。


⸻


 強く。


⸻


 初めてだった。


 リサの“仕事”を止めたのは。


⸻


「……この子じゃなくていい方法、あるでしょ」


⸻


「ないよ」


 即答だった。


⸻


「じゃあ私が――」


⸻


 その言葉は、最後まで言えなかった。


⸻


「それはダメ」


 リサが強く言った。


 初めて、感情が乗っていた。


⸻


「あなたは、消せない」


⸻


「なんで!」


⸻


 一瞬の沈黙。


⸻


 そしてリサは、小さく息を吐いた。


⸻


「……消したくないから」


⸻


 その言葉は、あまりにも静かだった。


⸻


 時間が止まったように感じた。


⸻


「私は、“管理側”だから」


 リサは続ける。


⸻


「本当は、誰を消してもいい」


⸻


 淡々とした事実。


⸻


「でも」


 ほんの少しだけ、声が揺れた。


⸻


「あなたは、選べない」


⸻


 アズサは、何も言えなかった。


⸻


 そのとき。


 頭の奥で、何かが軋む。


⸻


 知らない記憶。


 でも確かに“自分のもの”。


⸻


 何度も繰り返した光景。


 同じ場所で、同じ選択を迫られて――


⸻


 そして毎回、同じように叫んでいる。


⸻


 ――やめて


⸻


 ――その子じゃない


⸻


 ――リサを助けたい


⸻


⸻


「……ああ」


 思わず声が漏れた。


⸻


 理解してしまったからだ。


⸻


「私、何回も……ここに来てる」


⸻


 リサの目が、わずかに揺れた。


⸻


「……気づいたんだ」


⸻


 その声は、少しだけ悲しそうだった。


⸻


「遅いよ」


⸻


「え?」


⸻


「もう、だいぶ後半」


⸻


 その言葉の意味を考えるより先に。


⸻


 空気が、変わった。


⸻


 圧力。


 存在そのものが空間を歪めるような感覚。


⸻


「……来た」


 リサが呟く。


⸻


 その声は、恐怖ではなく――


 諦めに近かった。


⸻


 振り返る。


⸻


 そこに、“アズサ”が立っていた。


⸻


 自分と同じ顔。


 同じ目。


 ただ一つ違うのは――


⸻


 感情が、完全に摩耗していること。


⸻


「やっと来たね」


 未来のアズサが言う。


⸻


「もう何回目か、数えるのやめたけど」


⸻


 その視線は、まっすぐリサに向いていた。


⸻


「そろそろ、終わりにしようか」


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