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未来は僕らの手の中に  作者: たろいも
4/8

観測者

その少年は、最初からそこにいた。


 気づいていなかっただけで。



 教室の隅。


 窓際の席。


 どこにでもいるような顔。


 けれど――


「ねえ、それ何回目?」


 アズサにだけ聞こえる声で、そう言った。



「……何が」


 反射的に返す。


 だが、心臓が嫌な音を立てる。



「“やり直し”だよ」


 少年は頬杖をついたまま、こちらを見ない。


 なのに確信している声だった。



「君、昨日いなかったよね」


「いたよ」


「いなかった」


 即答だった。



 アズサは、言葉を失う。


 このやり取り自体が“おかしい”。



「まあいいや」


 少年は小さく笑う。


「どうせまた消えるし」



 その言葉は、軽すぎた。


 この世界で一番重いはずの現象を、あまりにも雑に扱っている。



「……誰なの」


「観測者」


 ふざけているようで、ふざけていない声。



「名前は?」


「いらないでしょ」


 少しだけ視線を向けてくる。


「どうせ覚えられない」



 ぞくりとした。


 この少年は、理解している。


 この世界の“仕組み”を。



「君だけだと思ってたよ」


 少年は続ける。


「戻れるの」



 その瞬間。


 空気が、わずかに張り詰めた。



「……他にもいるの?」


 アズサの問いに、


「いるよ」


 あっさりと答える。



「というか、本命はそっち」



 嫌な予感が、形になる。



「誰」


「君」



 一瞬、意味が分からなかった。



「正確には、“先の君”」


 少年はようやくこちらを見た。


 その目は、感情が薄い。


 ただ事実を観測しているだけの目。



「君、最後はそっち側に行くよ」



「……何言ってるの」


「未来の君が、今の君を殺しに来る」



 あまりにも静かな断言。



「理由は簡単」


 少年は窓の外を見る。



「リサを救わせないため」



 息が止まる。



「……なんで」


「さあね」


 興味なさそうに肩をすくめる。



「でもさ」


 少しだけ笑った。



「もう一回考えた方がいいよ」



「何を」



「“救う”って、本当にいいことなのか」



 その言葉は、リサの言葉と重なった。



 ――誰を消すか



 同じ構造。


 違う立場。



 そのとき。


 教室の扉が開いた。



 リサが立っていた。



 一瞬だけ、空気が歪む。


 クラスの全員が、わずかに視線を逸らす。


 “認識しないようにしている”動き。



 だがアズサだけは、はっきりと見ていた。



「来て」


 リサが短く言う。



 アズサは迷わず立ち上がった。



 教室を出る直前。


 ふと振り返る。



 少年は、こちらを見ていた。



 そして、口だけでこう言った。



「もう遅いけどね」


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