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未来は僕らの手の中に  作者: たろいも
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3/8

触れた未来

その手は、離されなかった。


 森の入口。

 立ち入りを禁じられた境界線のすぐ手前。


 リサはアズサの手を握ったまま、じっとこちらを見ていた。


 まるで、何かを確かめるように。



「……離さないんだ」


 アズサが小さく言うと、


「離したら、また消えるかもしれないでしょ」


 リサはあっさりと答えた。


 冗談ではない声だった。



「ねえ、やってみようか」


「何を?」


「未来の改変」


 その言葉は軽かったが、内容は重かった。



 リサは地面に小石を置いた。


「あと五秒後に、これを落とす」


「……うん」


「で、その前にあなたが“戻る”」


 アズサは息を呑む。


 簡単に言っているが、それはつまり――


「意図的にやれってこと?」


「できるでしょ」


 断言だった。



 できるかどうかじゃない。


 “やらされている感覚”が、すでにあった。



「……やる」


 言葉にした瞬間、胸の奥がざわつく。


 嫌な予感。


 けれど、それ以上に確かめたいという衝動が勝った。



「じゃあ数えるね」


 リサの声が、やけに静かに響く。



「五」


 風が止む。


「四」


 世界が少しだけ遠くなる。


「三」


 音が鈍る。


「二」


 視界が歪む。


「一」



 その瞬間。


 アズサは“戻る”ことを強く意識した。



 ――反転。



 鐘の音が鳴る。


 朝。


 見慣れた天井。


 呼吸が荒い。



「……できた」


 体が震えていた。


 だが、確信があった。


 今、確かに“自分の意思で戻った”。



 教室へ向かう。


 同じ流れ。

 同じ景色。


 そして、森へ。



「成功」


 リサはそこにいた。


 まるで最初から分かっていたかのように。



「……石は?」


「落ちてない」


 リサが指さす。


 地面の上。

 小石は、置かれたままだった。



 未来が、変わっている。



 その事実に、遅れて実感が追いつく。


 喉の奥が乾く。


 心臓の音がうるさい。



「すごいね」


 リサが呟く。


「ほんとにできるんだ」



 その声には、ほんの少しだけ感情が混じっていた。


 驚きと――


 安堵。



「これで、選択できる」


「選択?」


「うん」


 リサはアズサの手を、少しだけ強く握る。



「誰を消すか」



 その言葉は、静かに突き刺さった。



「……は?」


「この世界、バランス取ってるの」


 淡々とした説明。


 まるで、当たり前のことを話すように。



「何かを変えたら、その分どこかで“帳尻”が合う」



 嫌な予感が、形になる。



「さっきの石」


 リサが続ける。


「本当は落ちるはずだった」


「……うん」


「でも落ちなかった」


 その意味は、単純だった。



「じゃあ、その“ズレ”はどこにいったと思う?」



 答えたくなかった。


 けれど、もう分かっている。



 そのときだった。


 遠くから、悲鳴が聞こえた。



 子供の声。


 短く、途切れる。



 森の奥。



「……今の」


 アズサの声が震える。



「行こう」


 リサが言う。


 迷いはなかった。



 二人で走る。


 木々をかき分け、音のした方へ。



 そして――



 そこには、何もなかった。



 ただ、地面に残る“引きずられたような跡”だけがあった。



「……誰か、いたよね」


 アズサが呟く。



「うん」


 リサは短く答えた。



「でも、もう“いない”」



 その言い方は、あまりにも冷静だった。



「これが、この世界の仕組み」



 アズサは、その場に立ち尽くした。


 理解してしまったからだ。



 未来を変えるということは、


 誰かの未来を奪うことだと。



 そのとき。


 リサが、そっと手を引いた。



「大丈夫」



 その言葉は優しかった。


 けれど、どこか歪んでいた。



「あなたが選ばなきゃ、誰かが勝手に選ばれるだけだから」



 逃げ道のない優しさ。



「それなら」


 リサは、ほんの少しだけ視線を逸らしたあと。



「自分で選んだ方がいい」



 その横顔は、ほんの一瞬だけ。


 迷っているように見えた

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