↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来は僕らの手の中に  作者: たろいも
PR
3/8

触れた未来

その手は、離されなかった。


 森の入口。

 立ち入りを禁じられた境界線のすぐ手前。


 リサはアズサの手を握ったまま、じっとこちらを見ていた。


 まるで、何かを確かめるように。


⸻


「……離さないんだ」


 アズサが小さく言うと、


「離したら、また消えるかもしれないでしょ」


 リサはあっさりと答えた。


 冗談ではない声だった。


⸻


「ねえ、やってみようか」


「何を?」


「未来の改変」


 その言葉は軽かったが、内容は重かった。


⸻


 リサは地面に小石を置いた。


「あと五秒後に、これを落とす」


「……うん」


「で、その前にあなたが“戻る”」


 アズサは息を呑む。


 簡単に言っているが、それはつまり――


「意図的にやれってこと?」


「できるでしょ」


 断言だった。


⸻


 できるかどうかじゃない。


 “やらされている感覚”が、すでにあった。


⸻


「……やる」


 言葉にした瞬間、胸の奥がざわつく。


 嫌な予感。


 けれど、それ以上に確かめたいという衝動が勝った。


⸻


「じゃあ数えるね」


 リサの声が、やけに静かに響く。


⸻


「五」


 風が止む。


「四」


 世界が少しだけ遠くなる。


「三」


 音が鈍る。


「二」


 視界が歪む。


「一」


⸻


 その瞬間。


 アズサは“戻る”ことを強く意識した。


⸻


 ――反転。


⸻


 鐘の音が鳴る。


 朝。


 見慣れた天井。


 呼吸が荒い。


⸻


「……できた」


 体が震えていた。


 だが、確信があった。


 今、確かに“自分の意思で戻った”。


⸻


 教室へ向かう。


 同じ流れ。

 同じ景色。


 そして、森へ。


⸻


「成功」


 リサはそこにいた。


 まるで最初から分かっていたかのように。


⸻


「……石は?」


「落ちてない」


 リサが指さす。


 地面の上。

 小石は、置かれたままだった。


⸻


 未来が、変わっている。


⸻


 その事実に、遅れて実感が追いつく。


 喉の奥が乾く。


 心臓の音がうるさい。


⸻


「すごいね」


 リサが呟く。


「ほんとにできるんだ」


⸻


 その声には、ほんの少しだけ感情が混じっていた。


 驚きと――


 安堵。


⸻


「これで、選択できる」


「選択?」


「うん」


 リサはアズサの手を、少しだけ強く握る。


⸻


「誰を消すか」


⸻


 その言葉は、静かに突き刺さった。


⸻


「……は?」


「この世界、バランス取ってるの」


 淡々とした説明。


 まるで、当たり前のことを話すように。


⸻


「何かを変えたら、その分どこかで“帳尻”が合う」


⸻


 嫌な予感が、形になる。


⸻


「さっきの石」


 リサが続ける。


「本当は落ちるはずだった」


「……うん」


「でも落ちなかった」


 その意味は、単純だった。


⸻


「じゃあ、その“ズレ”はどこにいったと思う?」


⸻


 答えたくなかった。


 けれど、もう分かっている。


⸻


 そのときだった。


 遠くから、悲鳴が聞こえた。


⸻


 子供の声。


 短く、途切れる。


⸻


 森の奥。


⸻


「……今の」


 アズサの声が震える。


⸻


「行こう」


 リサが言う。


 迷いはなかった。


⸻


 二人で走る。


 木々をかき分け、音のした方へ。


⸻


 そして――


⸻


 そこには、何もなかった。


⸻


 ただ、地面に残る“引きずられたような跡”だけがあった。


⸻


「……誰か、いたよね」


 アズサが呟く。


⸻


「うん」


 リサは短く答えた。


⸻


「でも、もう“いない”」


⸻


 その言い方は、あまりにも冷静だった。


⸻


「これが、この世界の仕組み」


⸻


 アズサは、その場に立ち尽くした。


 理解してしまったからだ。


⸻


 未来を変えるということは、


 誰かの未来を奪うことだと。


⸻


 そのとき。


 リサが、そっと手を引いた。


⸻


「大丈夫」


⸻


 その言葉は優しかった。


 けれど、どこか歪んでいた。


⸻


「あなたが選ばなきゃ、誰かが勝手に選ばれるだけだから」


⸻


 逃げ道のない優しさ。


⸻


「それなら」


 リサは、ほんの少しだけ視線を逸らしたあと。


⸻


「自分で選んだ方がいい」


⸻


 その横顔は、ほんの一瞬だけ。


 迷っているように見えた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。