表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/135

130. 相殺

 ずるりと。

 力が抜け、意識を消失した玲が私に凭れるように倒れかかる。


「玲!」


 舞の魔を祓う力を自分に使うことは禁忌。

 私の脳裏に、ベッドタイムトークのときの翡翠の言葉が閃く。


 どうしてこんなこと……!


 慌てて玲をベッドに寝かせる。息が浅い。身体もつめたい……どうしたら。

 そのとき、胸の奥に荒獅子の声が流れ星みたいに輝いた。


"おまえの炎で少し傷あとをなぞれ"


"光と闇は相殺できる"


"神官の光を闇の炎で相殺する"


"過剰に入った光を相殺することで神官は助かる"



 炎で、傷跡を……?

 私はおそるおそる、左手の掌に、水色の炎を出す。

 その時、玲の手が、ベッドの脇に手をついていた私の右手首をきゅっと握った。


 瞬間、声が。

 玲の声が、頭の中に流れ込んできた。


(怖い)


 震えるような玲の声。

 同時に浮かんだのは、雪が舞う中で遠くなる、白っぽい着物姿の誰かの背中……龍樹さん?


(また、俺の前からいなくなる。)


 ああ、と、私は悟るような気持ちになった。

 浄化の滝で、玲が私に言ったこと。


『俺は薫と父さんには、めっちゃくちゃに期待する。それでこういうことになった時に心底腹立つし絶望する。意味わかるか?』


 私はぜんぜんわかっていなかったのだ。


 私がひとりで浄化の滝に行って、悪夢を見て探しに来た玲の目には、無人の速水邸が映った。

 その私の行動が、幼い頃に感じた玲の恐怖を、呪いと一緒になって蘇らせてしまったのか。


 それはおそらく、玲が、彼の心の奥深くに隠している消えない傷みたいなものだった。

 幼い彼が見た映像と共に流れ込んできたその声は、ふりしぼるような響きで私の心に迫ってきた。ちょっと忘れられないかもと思うくらいに。


 なるほど、と納得しながら私は思う。

 だから、龍樹さんと一緒に住んだら楽しそう、と私が言ったときに、反応できなくて固まった。


 どれほどひとりでがんばって、ここまで生きてきたんだろう、と思った。

 玲の傍には夏野がいた。滝もいた。神殿の僧医の玄奥さんや清涼さんもいた。

 それでも埋められない、はかりしれないほどの孤独。


 それを、ほんの少しでも、私が埋められていたとしたら?


 そこまで考えて私はひとつ頷き、掌に小さく発現した水色の炎で、荒獅子が言ったように、玲の腕にほんのうっすらと残っていた呪いの傷跡を、撫でるように触れた。


 ちりっと傷跡がひかり、玲の呼吸が目に見えて楽になる。

 私は少しだけほっとして息をつき、玲の耳元に囁きかけた。


「玲、待ってて。すぐ、夏野と朱鷺子さんを呼んでくる」


 私は、夏野がいるはずの青の間に駆け出す。

 私だけでは駄目だ。


 皆で、このひとを、この切なくいとおしいたったひとりを、絶対に助けなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ