129. 禁忌
玲の部屋で、
「これ、こっちではカミツレって言うんだけど、カモミールティー。好きだったろ?」
ハーブティーを湯飲みに注いで、玲が私に渡してくれた。私はありがとうと笑って、一口いただく。
「おいしいね!」
私が笑うと、玲もほっとしたように微笑んだ。それを見て、私は気になっていたさっきの夢の話を切り出した。
「……さっきの話、どんな夢だったの?」
玲は、少し視線を逸らして。
「去年の今頃、なんかちょっとぎくしゃくしてたっておまえが言ってたこと、あったろ?」
私は頷く。ちょうど一年くらい前、私はゴールデンウィークに玲と幸せな時間を過ごしたつもりだった。でもその後、なぜか玲が一歩引いたような感じになって、私は自分が何か無意識にいやなことをしたのだろうか、お別れと言われたらどうしよう、と思っていた時期があったのだ。
「あの頃、……正確に言うと、五月の連休の後くらいから……俺がおまえをこっちに連れて帰ってきたら、おまえが刺客にやられるって夢見てて……まあ実際、翡翠は西軍の刺客に狙われたことが過去に何度かあって、それは想定される危険だったんだけど……それで、実はおまえに対する態度が一歩引いてたんだ」
初めて言われて私は驚く。 玲は続けた。
「それで、今朝の夢は……もう戦はなくなったから刺客じゃなくて、おまえが風狼にやられて……。それで、目が覚めて嫌な予感がして、速水の家に行ったらいなかったから……」
私と目を合わせずに、玲ができるだけ軽い感じで言おうとしていることが伝わって、でも、その手が、肩が何か微かに震えてるような感じがした。
私は思わず、玲をそっと抱きしめていた。玲は私の肩に頭を預けるようにして、ふと息をつく。
「だいじょうぶだよ、私、ここにいるから」
私の声に、うん、と玲は頷いた。
◇
身体を離して、私はもう一度カモミールティーを飲み、少し二人で沈黙していた。
そこで、不意に玲が言った。
「でも、もう、おまえのことも泣かせないし、俺も大丈夫にする、から」
「どういうこと?」
きょとんとする私に、そこの台の上に置いてる扇を取って、と玲が言う。
私は、舞の時に玲が使っていた扇、ベッド脇の台の上に畳んで載せられていたそれを、彼に手渡した。
「こうしたらいいって、さっき風呂に入ってて気付いたんだ」
玲、さらっと開いた扇で、自分の腕の傷跡……私が操られて傷つけたそれを一~二度なぞる。
すると、その傷はうっすらとした細い線を残して、ふうっと消えた……。まるで魔法みたいに。
あまりにも驚いて、数秒間沈黙した後で、私は言った。
「なっなんで? どうして消えたの? いま」
呆然と呟く私に、玲はかすれた声で呟く。
「魔を祓う力を、……舞のときの……それを、今、傷に流したから……もう、おまえは何も、気にしなくて……」
言いかけて、だらりと力が抜けて……目の前にいた私にもたれかかるようにして、玲は意識を失った……。




