128. 共生、そして玲の我が儘。
先に円ちゃんが更衣室を出て行った。
ほっと息をついた私、気が緩んだ瞬間、ふわりと掌に小さな炎がひらめく。びくっとしてそれを身体の内に押さえ込んだ。
青……というより、水色が混ざったような色に薄くなっていた。荒獅子が、色が変わったのは私のものに変質したということ、と言っていた。でも、気を緩めたら炎が出て来てしまう……。抑えなきゃと思った瞬間。
"ちがう"
心の奥に、荒獅子の声が響いた。
違う?
"共生せねばならない"
……共生?
少し、私は考えて、立ち上がる。
少し前の夢でも、荒獅子はそんなことを言っていた。そして、私は夢で、荒獅子に勝った。荒獅子は、その後、お前次第だと言った……。
私次第と言ったのだった。
それは一緒に、この風狼の王を身体の中に持ったまま進むことが、できるということだ。
私は怖がらずに、それをやっていけばいいということなのか。
西の砦で私自身が玲に言った。共存ということはできないだろうかと。
そして翡翠が、飼い慣らすことも視野に入れろと言った。
何より荒獅子本体が、共生と言ってきた。
炎が、いつも出てしまうのは生活していく上で困る。
でも、攻撃に使った先人がいる、と玲も言っていた。
怖さは感じなくていいってことだ。
ずっと、気持ちの置き所がわからなくて、弱くなったりそれでも考えようとしたりを繰り返したけど。
共生という荒獅子の一言が、私の心の奥に何か建設的なものとして根を張ったように感じていた。
「よし」
一言呟いて、私は更衣室の扉を開けた。
そこには、壁によりかかって、玲が私を待ってくれていた――。
◇
「あ、ごめん、待たせて」
「……いや、俺もちょっと厠に行ったりして、戻ってきたところ」
玲はそう言って、すっと私の前に小さな包みを差し出す。
「これ、ちょうど呉服屋の柳が持って来てくれたから」
玲と一緒に着物を作りに行ったときに、おまけで作ってもらった巾着の包みだった。
「よかった。今日渡せて」
ふと微笑む玲に、私はありがとうと言って受け取る。
「……その髪飾り、どうしたんだ?」
「あ、なんか、円ちゃんが、誕生日って聞いたからって言って、つけてくれたんだ」
「へえ。かわいいな」
ありがとう、と言いながら見上げた玲の顔色が、やっぱり少し青いように思えて、私はそっと言った。
「ごめんね、玲。まだ本調子じゃなかったのに無理させた……」
私が言うと、玲はちょっと笑う。
「別に問題ない。ちょっと今朝、夢見最悪で、その影響かもな」
「……どんな夢だった?」
廊下を歩きながら聞く私に、玲は少し目を伏せて。
「部屋に行ってから話す」
昔、はぐらかしたい時に目を伏せることは玲の癖だった。でも、本当に今は話したくなさそうだ。
そして、体調が悪いんだったら、休んでもらった方がいいかもしれない。それで私はそっと言った。
「でも調子悪いならまた今度でいいよ?」
「俺が!」
急な玲の大声に、私はびっくりして固まってしまう。そうしたら、玲の声が絞り出すみたいに切なく響いた。
「……俺がまだ、一緒にいたいんだ」
それで、私はわかったと頷いて、一緒に玲の部屋に行った。
ありえない呪いの影響も、その結果が何をもたらすのかも、何も知らずに。




