126. 誕生日ランチを一緒に食べよう。
天藍と紅玉を厩舎に戻し、綺麗に身体を拭いてあげて、玲と二人で翡翠宮に戻ったとき。時間は十一時半すぎ、食堂・白龍亭はランチタイムの時間帯だった。
「朝も食ってないならまずは昼食だ、でもちょっと待って」
玲はそれだけ言って、厨房手前にある翡翠宮の使用人たちの控え室に入って行く。少しして出てきて、
「円に早めに風呂入れてって頼んだから、食ったらおまえは女湯行って」 と言う。
「あっ、でも申し訳ないから帰ってから」
「いいから、いいから」
遠慮する私に玲はあっさりと手を振り、私の肩を無造作に抱きよせるみたいにして、私たちは厨房に向かった。
さっき、結婚してください、って言われたせいか、妙に距離が近いような……。
そっと玲を見ていると、私の視線に気づいて、
「うん?」
と笑う。
「……なんでもない」
呟くみたいに言って昼食のトレイを受け取ると、今日のランチはちらし寿司……そして海老フライとお吸い物、夏みかんのゼリーという、私の好きなものばかりだった。しかも通常、海老はあまり出ない食材だ。
「玲、これ」
「好きだろ?」
だから、昨日からずっと、ランチは一緒にって言ってくれてたんだ。 誕生日だから?
「桐矢さんに頼んでくれてた?」
玲、照れたようにそっぽを向いて、黙って頷く。
「俺は父さんみたいにケーキとかって発想なかったけど……毎日見てて、おまえの好物は割とわかるから……」
小さな声で、恥ずかしそうに言う。 思わず慌てて私は言った。
「ごめん……!」
私は自分の思い付いたことばっかりで、玲のことを考えてるようで実は自分中心で動いていたと、やっとわかった。すると、玲は私を真面目な視線で見つめて言った。
「謝らなくていい。それに俺はおまえを泣かせたいわけじゃない」
厨房近くのいつもの席に座りながらそう言う玲に、私はうんうん頷いた。
「ありがと。めっちゃうれしい。そしておいしい」
ちらし寿司を一口食べて私が涙目で微笑むと、玲はほっとしたように微笑み、そして言った。
「言うの遅くなったけど、誕生日おめでとう」
私も笑って、ありがとうと言った。
◇
デザートの夏みかんゼリーを食べていたら、ちょうど十二時になり、夏野が白龍亭に入ってきた。
「今日は二人とも早い時間に食ってるんだな……なんか、土まみれになってないか?」
私たちの袴は、往復二時間ちょっとの乗馬と洞窟での諸々で、たしかに少し汚れていた。
玲はちょっと苦笑いして。
「今、風呂わかしてもらってる。こいつも入らせる」
と言ったら、夏野は面白そうに笑った。
「一緒にか?」
明らかにからかってる。
「そんなわけねえだろ!」
かっとくる玲に夏野はくすくす笑って去り、自分が真っ赤になっているのがわかって私も俯く。しばらくの沈黙のあと、笑いを含んだような、ちょっといたずらを思い付いたような玲の声が聞こえた。
「……一緒に入るか?」
「結構です!」
私が俯いたまま大声で言ったら、楽しそうに笑う玲の声、耳に響いた。




