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118/119

118. 呪いの鎖 ー玲ー

玲視点です。

 あの時。


「「ジョウカ、ナド、サセヌ」」


 ぞっとするような(シワガ)れ声が、不吉に響いた。砂壁で囲まれた西の砦の儀式部屋。

 浄化の儀式を始めてすぐのことだった。


「……薫、目を覚ませ。大丈夫、おまえは呪いなんかに飲み込まれてしまわない」


 俺ができるだけいつも通りに声をかけると、生気が消えて濁ったようになっていた薫の大きな瞳、それが一瞬、いつもの強い光を取り戻したように見えた。


「……あきら、……わたし」


 薫の声。

 その鈴みたいな響きに俺が一瞬ほっとした、その直後のことだった。


 操られた薫が西羅(サイラ)の短刀を奪い、その切っ先は俺の腕をかすめ、血がにじんだ。すぐに(ハヤセ)がそれを払ったが、俺の動きが数瞬遅れたことも、怪我を負った一因だった。


 原因は、北の森で薫に流れ込んでいた、風狼(カゼオオカミ)の王と呼ばれていた巨大な呪いの獣だった。

 その後、おどろおどろしい声が薫の唇から再び流れ出した時、内心で俺の怒りは振り切れていた。徐々にその声は小さくなり、薫自身に戻るように優しく声をかけていたが、心の内では。


 勝手に薫を乗っ取り、身体を動かした挙げ句、声まで奪った。

 そして薫の手で俺を傷つけるということが、どういうことなのかわかっているのか?


 薫自身に、その心に、消えない傷をつけていいとでも思っているのか。



 俺は、自分の母さんの最期がどういう風だったか知らない。

 当時の予見で、父さんと一緒に北の森へ、翡翠の母のための薬草を採りに行き、そこで呪いに生命を奪われたとしか聞いていない。



 ただ、そのことで父さんがとんでもない傷をその心に負ったことは、幼かった俺の目から見ても明らかだった。


 だから俺は、六歳で神殿に預けられ父さんが去って行った時も、十歳のときに数日戻ってきただけで、通算六年もアイツが戻ってこなかったことも、ある程度仕方ないと自分を納得させていた。


 納得させていたつもりだが、"呪い"というものに対するどうしようもない怒りは、俺の舞に現れていたと思う。


 母さんの命を消したことに対して、そして父さんをやばいくらい傷つけたことに対しての私怨も、勿論ある。そして、数代前まで続いていたという、この国の神官家系から、誰か一人を贄として捧げてきたという、ぞっとするほど不快な歴史のこともある。


 いつか見つけ出して、必ず倒す。


 それは俺の心の奥に、誰にも言わずに、知らず知らずのうちに生まれていた、強い感情だった。

 そしてそれは、薫に入った風狼(カゼオオカミ)の王だけの問題なのかということも、俺が知りたいことだった。



 操られた薫から受けた傷は、翡翠がすぐに癒しの光を流してくれて塞がった。


 浄化の後、意識を失った薫はしばらく眠っていた。ひどく傷ついただろうと思っていたが、案の定、気がついた後で子どもみたいに泣くから、言葉を尽くしてなぐさめた。


 あのとき薫に伝えた、おまえ以外考えられないということも、存在価値なんて考える必要ないってことも全部本心で、嘘なんかひとつもない。

 薫と出会って、俺がすくい上げられるように助けられたことは、本当だったから。


 だが、翡翠も自分の癒しの光は万能じゃないと言っていたが、パキパキパキと音がするような感じで、身体の奥に、灰色の結晶みたいなくすんだ何かが少しずつ降り積もるような感覚も、俺はたしかに感じていた――。



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