幕間1:体術師範の一日とコルン村の様子
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ルブランの街にある体術道場。
その広い土間に、屈強な体術師範・シーブラの声が響き渡っていた。
「お前ら!体術家の武器はその全身だ!ただ腕を振るえばいいんじゃない!心を込める必要もない!自身の体に流れる力を掴み、正確な動作で撃ち込むのだ!」
「ハイ!!」
弟子たちが気合を入れて稽古を続ける中、シーブラはふと空を仰いだ。
どこか物寂しげな溜息が漏れる。
「……最近の若い奴らは骨がねぇ。昔はいたんだがな、己の力で道を切り拓こうってやつらが――」
やれやれと嘆くシーブラは、そういえばと一人の少年を思いだす。
数カ月前からいつも顔を出していたのに、ここ数日姿を見せないことに首を傾げる。
「シズルの奴はどうしたんだ?……お前ら!誰かシズルが今何してっか知ってるか!」
稽古中の弟子に自身の疑問を問いかける。稽古を中断した弟子たちは顔を見合わせて少し考え、その内一人が答え始めた。
「シズルさんは確か2日前にあった成人式に参加する為、しばらくの間休ませてもらうと言っていました」
「……あー、そうだったか?そういえばそんなことを言ってた気もするな」
シーブラは弟子に指摘されて苦笑いをしながら頬を掻き誤魔化した。
シズルは成人式まで世話になるというようなことを初めて道場に来たときにも話していた。
冒険者になるとも聞いた覚えがあるので、今頃は忙しくしているのだろう。
「稽古を止めて悪かったな!」
場を締め直すように、シーブラは腰に手を当てて大きく声を張り上げた。
弟子たちは稽古の再開を感じとり構える。
「――よし! 気を抜くなよ! 始めッ!!」
「ハイッ!!」
弟子たちは一斉に返事をして、再び型を打ち込み始めた。
板を打つ音、踏み込みで床が軋む音が道場に響き渡り、先ほどまでの緩んだ空気は一瞬でどこかに消え去った。
シーブラは腕を組み、弟子たちの動きを厳しい目で追う。
「いいか、ただ動きを真似るだけじゃ駄目だ。全身を連動させろ! 腕も脚も胴も一つの武器だと思え!」
弟子の一人が動作を乱すと、シーブラはすかさず怒号を飛ばす。
「そこだっ! 腰を落とせ! 力は腕じゃなく体幹から絞り出すんだ!」
叱責と気合の声が飛び交い、再び道場に熱が戻っていった。
一方その頃コルン村では、ゴブリンの群れの襲撃で生き残った木樵数人が、村外れにある木樵小屋に集まって、何やら怪しげな相談をしていた。
「……あのブツは手に入ったのか?」
「ああ、村長が多めに仕入れてたからな。俺たちも最近不眠症に悩まされてるって相談したら多めに譲ってくれた」
「準備は整ったな」
「うまくいきますかね~?」
「男に囲まれて礼をしたいと言われて断ったりしねえよ。ぜってーうまくいく」
木樵たちの代表は欲情の色を隠さず、一人の旅人の乱れる姿を想像する。
あの美しさは一度見たら忘れられない。
ゴブリンを一掃した強さは恐ろしいが、眠らせてしまえばこちらのモノだ!
「決行は今晩だ!夜は天国だぜ。忘れられねえ一夜にしてやろうじゃねえか……!」
木樵たちは欲望を胸に抱き、今夜が来るのを待ち遠しく思うのだった。
そのまた一方、村人の一部が新たな宗教を広めようとしていた。
「あの方は現人神だ。あの光景を見た皆は分かってるな?」
「ああ、女神様がおれたちを助けるために現れたんだ」
「……神々しかった」
「この世の存在とは思えない」
意見を同じくしている者が集まって何をしているのかというと――
「……新たな女神様を信仰するために何が必要なんだ?」
「神殿は流石にむりだよなぁ?」
「祭壇と偶像が基本だと聞いたことがある」
「――どれも僕たちじゃ用意できないんじゃ……」
言葉ばかりが空回りし、計画は一向に進まない。
職業もなく村で細々と暮らしているだけの彼らには、財力も権力も武力も、元となるものが何もないのだ。
「女神様がずっとこの村にいてくれたらいいのになぁ」
進まない話し合いの中、とある若者がぽーっと呑気にしてそんな言葉を呟いた。
彼は妄想していた。
村で生活している女神様を。
一緒に農業をして、食事をして、楽しく笑いあう。
時には魔物が村を襲ってくるけれど、女神様が村人たちを引っ張って、その脅威を追い払うのだ。
若者の言葉と惚けた様子に、他の者たちも、女神様にこの村で暮らしてもらう方法を考え始めた。
その夢が叶うかどうかは、神のみぞ知る。
そんな村の各々の計画をよそに、冒険者ギルドでは別の動きがあった。
冒険者ギルド長のラゴウは、その筋肉質で逞しい巨体を椅子に沈めて朝から書類を見て溜息をついている。
不意にライオンの耳と尻尾を揺らし、髭面を撫でながら、隣に立つアリシアへと目を向けた。
「……アリシア。昨日報告を受けたゴブリンを一掃した奴には会えるのか?」
「はい? ……そういえば昨日の朝から今まで、一度も部屋を出ていませんね? 外套で姿はわかりませんが、会話したところ優しそうな女性の方でした。まだ会ってなかったんですか?」
ラゴウは口角を上げ、豪快に笑った。
「ははっ、村長に話は聞いたがよ!なんでも絶世の美少女らしいぜ!助けられた奴らはその姿を見てゾッコンって話だぜ!まあオレには関係ない話ではあるがな。けど、強さも本物らしいじゃねえか。おい、アリシア。そいつの泊まってる部屋に案内しろ。流石にもう起きてんだろ!」
「女性の部屋にギルド長をですか?……わかりました。まあ、ラゴウギルド長は女性に興味のないゲイさんですから大丈夫ですよね」
「そうだ!オレは女に微塵も興味なんてないからな!抱くなら筋肉質な男に限るぜ!!それでも、礼くらいは言っておかねえとな!」
二人はギルドの階段を上がり、静流が泊まっている部屋へ向かっていく――
それは、未来で予想外の騒動へと繋がるのであった。
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