第5話:ゴブリン討伐と治癒ポーション
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こちらに気づいたゴブリンたちは、木樵らから離れ、新しい獲物とみなした私へと近づいてきている。
警戒せずに喜び勇んで駆け寄ってくる個体もいて、攻撃されることなど考えてもいない様子だ。
武器を持たず満身創痍で豊満な美少女。
ゴブリン視点なら、とんだ褒美でしかないか。
「嬢ちゃんすまん!もう逃げてくれ!」
「やばいっ――、色っぽい姉ちゃんがゴブリンに襲われる!」
「助かった!……えっ?大丈夫なのか!?武器を持ってないぞっ!!」
木樵たちは今更私の心配をしている。
命の危険が遠ざかれば他人事か?
こっちは強行軍で疲労困憊、ヘイトを向けてから心配とはふざけているな……。
心配するなら最初から助けを求めてこないでくれ!
一番近くにいたゴブリンへ、理不尽に対する怒りを込めた一撃を繰り出す。
黒衣を剣に変化させた勢いのままにその体を切り裂いた。
この一晩の戦闘経験で、千変万化スキルを更にスムーズに扱えるようになった。
少し隙があった拙い動作が改善され、村人からはまるで歴戦の剣士に見えるだろう。
惜しむらくは、黒衣がなくなったせいで露わになる美貌と、均整のとれたグラマラスな肉体という奇跡のようなこの身体に目を奪われ、そんな印象など消え失せるということ。
「なっ!?」
「おおっ!? 神よ!!」
「……おれは夢をみているのか?」
「ギャギャッ!?ギャギャギャギャギャ〜!!」
木樵たちが感嘆の声を上げている。
死の淵からのギャップが現実感をなくしているのだろうか?
騒ぐだけなら手助けにくるべきだろ……。
……それと仲間が殺されたにも関わらず、村人と一緒に私の容姿に驚いた様子をみせた偉そうな格好のゴブリン。
捕まえるように指示を出しているのか、何度もぴょんぴょんと跳ねながらこちらを指さしている。
私にゴブリンの群れが一斉に襲いかかる
しかし、ウルフの群れに比べれば動きが鈍く、連携も不足している。
バラバラに突撃を繰り返す様はガキのチャンバラのように感じた。
無駄な動き、粗雑な武器、低身長によるリーチの短さ。
ウルフを散々葬って強くなった私の前では、木っ端に過ぎない。
体に残った力を無駄なく、効率的に一心不乱に振るい続ける――。
――――――――――
「――なんと神々しき姿……」
体力がないからこそ消耗を極力抑えた効率を考えられた静かな剣技。
一振りごとにゴブリンを確実に仕留めていく姿が、まるで伝説に聞く戦乙女のようだと、村人たちは憧憬を感じる。
傷付きながらも村人の変わりに苦難を引き受ける女性の姿。
その圧倒的な強さと併せ、英雄然としていた――
――これでもう、剣を振る必要はないな。
最後の一振りにより、偉そうなゴブリンの首が宙を舞う。
……生き残りはいない。
目の前に映る光景は、まるで地獄の惨状だ。
死に絶えたゴブリンの群れ、そこに独り静かに佇む私の姿に、村人たちが膝を付き手を組んで拝んでいる姿がそこかしこに見られた。
村人からすれば救いの女神だろうが、私はただの旅人。
限界があるからに早く村に入らせてもらえないか……。
もう膝が笑って立っていることもやっとなんだ。
「その、……ありがとうございます。村長のキヨワンと申します。貴方のおかげで多くの命が助かりました。お疲れのようですし、休めるところにご案内します」
初老の気弱そうな男性、キヨワン村長が話しかけてきた。
どうやらやっと休ませてくれるようだ。
疲れ切った身体にムチを打った甲斐があったらしい。
「……頼んだ。早く休みたい」
言葉少なく告げた。
やっとだ!やっと休める!!
あばら家でもなんでも良いから屋根のあるところで横になりたい……。
案内されたのは、村にある冒険者ギルドで、宿屋も併設されているらしい。
キヨワン村長がお礼の一環ということで、全ての宿泊手続きをしてくれている。
余計な体力を消費しないように、黙って後ろで待っていた。
すると、朝から酒をあおっている冒険者のおじさんが、無遠慮にこちらへ視線を向けてきた。
私はすでに黒衣を外套にして纏い、容姿を隠しているため、彼の目にはただの怪しい旅人にしか映らないだろう。
……そのはずなのに、酒を飲みながら体を舐めまわすよう見続けている。
少し気味が悪く感じてしまう。
「手続きはしておきました。ギルド職員が部屋まで案内してくれます。あとこれは冒険者ギルド備え付けの治癒ポーションです。怪我をしているようなのでお使いください」
キヨワン村長は気が利くな
今一番欲しいものをくれる。
「ありがとう。それでは」
お礼を言い若い女性のギルド職員について行く。
階段を上がって突き当たりを右に歩いた所、一番端の部屋に案内された。
「ここで一番良い部屋です。村長に聞きました。ゴブリンの群れを倒して村を守ってくれたと。ギルド長には話を通しておくのでゆっくり休んでください」
「はい、ありがとうございます」
ドアを開けると、木造りの温かな匂いがした質素ではあるが、磨き上げられた床板と分厚い木の梁が重厚感を醸し出している。
壁には素朴な刺繍のタペストリーが掛けられ、窓辺には季節の花が小さな壺に活けられていた。
村の宿屋にしては随分と上等だ。
大きな羽毛布団が掛けられたベッド、木目の綺麗なテーブルと椅子、そして季節外れの暖炉があり、炭が残っている。
粗野な冒険者宿を想像していたせいか、思わず目を瞬たいた。
「……良い部屋だな」
思わず本音が漏れる。
背後でギルド職員の女性が微笑んだ。
「少し狭いですが、この村では一番です。今夜は安心してお休みください」
扉が静かに閉まると、部屋の中に静寂が訪れる。
私は黒衣を解き、椅子に腰を下ろし座る。
――瞬間、全身から力が抜けた。
「もう少しで……休める」
ぼそりと呟き、ポーションの瓶を取り出す。
琥珀色に輝く液体を眺めながら、ようやく訪れた安堵のひとときに、胸の奥から深い吐息が漏れた。
「鑑定」
一応鑑定を行なっておく。
念のため毒物など含まれていないかだ。
それに、ポーションの素材が判別できればこれからは自力で調達できるかもしれない。
私は錬成術師だからな。
名称:治癒ポーションFF(飲用不可)
レアリティ:アンコモン
効能
・軽度〜中度の外傷の治癒を促進する。
・出血を早めに止め、化膿を防ぐ。
・消耗した体力をゆるやかに回復する。
・使用後は身体に温かな感覚が
広がり、倦怠感や痛みが軽減される。
※重度の骨折や致命傷、病気には効果が薄い。
連続使用すると体にだるさが残る。
材料
・ヒーリングハーブ
・ブラッドベリー
・銀苔
・スライムコア
「え……。ポーションなのに飲めないってどういうことだ?」
ポーションって飲み薬のことじゃなかったか?
……まあいいか、取り敢えず身体にかけよう。
裸になり包帯を外してポーションを使用する。
傷口に染みて痛いけど、目に見えて綺麗に治っていくので、効能は鑑定結果どおりだ。
「ふぅ……」
怪我も治り一息つくと猛烈な眠気が襲いかかる。
極度の疲労と久しぶりの徹夜も祟って、もう起きていられそうもない。
ベッドに這うように潜り込み目を瞑る。
今はとにかくもう眠りたい――
白神静流は、女性になってから初めての睡眠についたのだった。
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