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TS錬金術師の受難 〜神の悪戯で絶世の美少女に〜  作者: 天秤座
第1章:TS錬金術師と苦難の始まり
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第4話:不眠不休の孤闘


 道を急ぎながら、脳内で計画を修正する。


 森の中央を通すように整備されている街道を通ってコルン村へ逃げよう。


 そこで冒険者登録後、行商等に同行し、さらに馬車で二日ほどの距離にあるメシュブランカへ移動する。


 ルブラン以外で安定したダンジョン攻略を望むなら、この近辺ではそこが一番だ。


 (そういえば、人を殺しても罪悪感がなかったですね)


 ……まあ、自分に害をなす者たちを殺して罪悪感を持つぐらいなら、最初から諦めて犠牲になればいい。


 引き返す猶予(ゆうよ)も十分に与えた。


 欲望を優先して私を襲ったのだから、自業自得だ。


 自問自答後、暫くするとオオカミの遠吠えが聞こえた。


 夜行性の魔物であるウルフは夜目が利き、群れで行動し、連携で襲いかかってくる。見つかってしまえば連戦は免れない。


 少しでも距離を稼ぐために走り続ける。



「「「グルルル……」」」


 3匹のウルフが進行方向を塞ぐように、木立の奥から低く唸りながら現れた。


 ウルフは漆黒の毛皮が特徴の魔物。


 狼型の魔物は追跡力に優れている。逃げることは難しいだろう。進行方向で待ち伏せするあたり、思っていたより賢い魔物かもしれない。


 今日はついてない日のようだ。


 [神の悪戯(ファタリス)]で女体化し、男に襲われ、オオカミに襲われ……。


 そういえばどちらも三人三匹で同じ数だ。三は不吉な数字なのか。


 ――現実逃避はこれくらいにしよう。


 ウルフたちはグルグルと私の周囲を歩いて包囲している。飛びかかってくるのも時間の問題だ。


 干し肉を万物保管庫(インベントリ)から取り出し、ウルフの近くに放り投げる。


 オオカミ系統の魔物は、安全な食料を嗅覚で判断すると図鑑に載っていた。


 干し肉で気を引けるなら、少し勿体ないがやむを得ないだろう。


 肉が土を打つと同時に、ウルフ達の鼻先がピクリと震えた。


「グルル……」


 一匹のウルフが低く唸り、肉へ興味を持ち近づく。匂いを嗅いで危険ではないと分かったのか、牙を覗かせ肉を咥えた。


 それでもう一匹のウルフも我慢ができなくなったのか、肉を喰らおうと飛びかかる。


 二匹で奪い合うように喉を鳴らし、食事を奪い合っていた。


 獣の本能には勝てないらしく、とても素晴らしいだらけだ。


 愚かな二匹から目を離し、残りの一匹を見る。


「クゥン……」


 ……やけに情けない鳴き声を漏らしていた。


 可哀想だが、孤立しているウルフに短剣を投擲する。


「キャンッ」


 自己練習の成果か、投げた短剣はウルフの首元に突き刺さり、悲鳴をあげ倒れた。


 師に学んだわけではないが、投擲術には自信がある。弓男は殺せなかったが、あれは運も悪かった。


 二匹の方を確認すると、所詮は低級の魔物だからか、死んだ仲間には目もくれずに干し肉を継続して奪い合っている。

 

 体術による踏み込みで距離を縮め、黒衣を変化させた長剣でまとめて薙ぎ払う。


「「キャイン!?」」


 両断された二匹は悲鳴を上げ息絶えた。


 ――男二人を殺してから体が少し軽く感じる。


 そういえば、命源(ライフソース)は魔物だけではなく、人間からも吸収可能だったか。


 黒衣は錬金術師(アルケミスト)()最終兵器(エンドウェポン)というだけあって便利で強い。


 女体化して衰えた身体能力では森超えは厳しいが、命源(ライフソース)による強化を計算にいれると、意外とあっさり森を抜けてコルンに辿り着けるか。


 ――だが、油断してはいけない。


 森での初戦は順調に終えたが、夜の森はウルフの領域(テリトリー)。コルンまで数時間はかかる道程(みちのり)なので、油断せずに最後まで気を引き締めて行こう。


 「街道があって良かった」


 街道のおかげで迷うことはない。


 万物保管庫(インベントリ)にウルフの死骸を収納し、駆け出した。


 長い一日になると予感しながら――。



――――――――――――

 


「……くッ」


 森に入ってから五時間ほど経過したが、未だに暗い森の街道を、片脚を引きずるようにして歩き続けていた。


 錬成(シンセサイズ)で作成した包帯で応急処置はしているけれど、控えめに言っても満身創痍といった状態である。


 ウルフの襲撃はあの一度で終わらず、二度三度と続けて何度も襲いかかってきた。


 後半は血の臭いで群れが集まり、真剣に命の危機だった。


 上位種のシャドウウルフ二体に奇襲をくらい、左腕と右脚を噛まれ武器を落とした時は本当に危なかったが、《個人認証(オーナーシップ)》スキルで命拾いした。


 (全く計画通りにいかない……)


 思わず内心でボヤいてしまう。


 元の身体と比べて少ない体力が、進行速度に大きな影響を与えていた。


 命源(ライフソース)吸収で身体能力は強くなっても、体力には然程(さほど)影響がないらしい。


 僅かな差異で結果は悪い方に傾いていたかもしれず、悪漢二人を殺したことによる身体能力の強化分がなければ早期に死んでいた可能性もあると、想定が甘かったと反省する。


 [神の悪戯(ファタリス)]で女性になってから、不運が続いているとも感じていた。


 (――いや、これは不運ではなく、運命かもしれない。美人薄命っていいますし……)


 疲労が思考を鈍らせ、心も沈み始める。


 脳内で慣れないブラックジョークをする程度にはおかしくなっていた。


 当初の計画通りにいかず、危険な森を抜けてコルンを目指すことにしたのは間違いだったか。


 男たちやウルフを容易く始末した結果、自身の実力を過信してしまったのかもしれない。


 それは現在の満身創痍具合が証明している。


 それでも、生き残る為には足を止めず、歩き続けるほかなかった。


 ――まだコルンは遠い。



――――――――――――



 「……やっと……着きましたか」

 

 森を抜けて見えた風景は 長閑(のどか)だった。田畑や鳥小屋があり、養蜂までしている様子。


 近くには川も流れていて、田舎でスローライフを過ごしたい人には丁度いい環境かもしれない。


 ――そんな事はどうでもいいか


 (早く村に行こう……)


 ゆっくり歩みを進めると、何か村の入り口手前辺りで必死に木樵達が斧を振るっている。その近くには、倒れている人影が複数見えた。


「誰か〜! 早く来てくれ〜! またゴブリン共が襲ってきたぞ〜!」


 彼らを囲むのは緑色の肌に獰猛な笑みを浮かべるゴブリンの群れ。助けを呼んでいるが、視界の範囲には他に人は見当たらなかった。 


 予想外の光景に足が止まる。


 無関係を装い通り過ぎるか、あるいは助けに入るか。


 どちらにしても、良い結果になりそうもない。


 冷静な思考がせめぎ合う。


 村で用件を済まそうとすれば、木樵を見捨てた事で問題が起こるかもしれない。


 だが、木樵を助ける場合、疲労が色濃く残る身体で、男たちに姿を晒すことになる。


 ……色香に狂った木樵に襲われる可能性を無視できない。


 現状、あまり無理はしたくなかった。


 迷いを断ち切れずに立ち尽くしていると、木樵の一人が私に気づいた。


 木樵は血と汗にまみれた顔で、必死に声を張り上げる。


「おい! そこの嬢ちゃん! 頼む、助けてくれ!」


 その声に、他の木樵たちも一斉にこちらを振り向いた。


 恐怖と焦燥が入り混じった視線が私に突き刺さる。


 ゴブリンの群れに集られ、斧を振るう手は限界に近いのが見て取れた。


「少しでいい! ……少し助けてくれるだけでいいんだ! 時間を稼げば村の冒険者が助けてくれる!」


「このままじゃ、皆殺されちまう!」


 切羽詰まった声が森の中に響く。


 ゴブリンたちはその隙を狙い、木樵の防衛線もじわりと押し崩されていた。


 自身の体調を確認する。


 脚は疲労で震え、眠気もあり意識も霞んでいる。


 怪我も酷く、普通は人を助けるために戦闘するような余裕はない。


 しかし村人に存在を認識された以上、背を向けて歩き去れば、暫く村に入れず、軋轢を生む可能性が高かった。


「……はぁ、やっぱり厄日ですね」


 逃げるか、戦うか。


 選択肢はとうに狭められていた。


 今はとにかく休みたい。


 恩を着せれば安全なところへ案内してくれるだろうか……。


(──仕方ない。もう少しだけ頑張ろう)


 内心で呟き、村へ歩いていく。


 すると、ゴブリンたちの黄色い眼光が一斉にこちらへと向けられた。


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