第3話:初めての殺害と逃避行
「近寄らないで下さい! それ以上は敵対行動とみなします!」
まずはハッキリと言葉で拒絶を伝える。
これは線引き。敵か味方か。躊躇せずに反撃する判断材料を得る行動。
この世界は弱肉強食で、権力者が法による命令権を弱者に発揮する場合、それは法で許されている。婦女暴行のような犯罪行為が制限なしに認められているわけではない。
当然、ただの乱暴者たちが好き勝手するなど許されないが、数だけは多く、組織立って行動していることもあり、中々法の手が届かない現状がある。
数の暴力に頼る輩は害虫と等しいので、殺されても仕方ないが、最後の慈悲でもあった。
「……おいおい、仲良くしようぜ? そんなにつれない態度されたら、オレも流石に傷つくぜ」
「俺たちは心配で声をかけたんだ。夜に狩場に行こうなんざ危険にきまってる」
「キレイな嬢ちゃん、悪いことは言わないから、おれたちについてきたほうがいいよ。怪我、したくないだろ?」
やれやれとジェスチャーしながらため息をつく鎖男。
剣を肩に担いだ男がゆっくりと近づいてきて、弓を持った男は距離を保ったままこちらの様子をうかがっている。
「――忠告はしました」
外套に隠していた短剣を抜き、威嚇する。
短剣はカモフラージュで、本命の武器は外套に変化している黒衣。所謂初見殺しで、頭数を減らす予定だ。
それを見て、剣を担いだ男が口角を吊り上げた。
「はっ、脅しか? 女ひとりにビビって退くようなら、冒険者なんてやってねぇんだよ」
「そうだな。ちょっと痛い目に遭わせりゃあ、大人しくなるだろ」
鎖男がくるりと鎖を回転させ、ビュンビュンと不気味な風切り音と鎖が擦れる金属音を響かせながら、ゆっくりと歩く。
剣を構えた男は鎖男の斜め後ろあたりを位置取り、弓の男は距離を詰めることなく、矢を番えながらも視線を逸らさず、こちらを油断なく観察し続けている。
彼らは明らかな戦闘態勢で、強硬的な姿勢を崩さない。こちらも余裕はないので、手心はいらないと判断する。
見るに、敵の役割分担は明確だった。
鎖で拘束し、剣で仕留め、弓で逃げ道を塞ぐ。
弱者狩りに優れた連携であり、普段から慣れた行為であると窺い知れる。
一歩踏み出し、心做し声を低く放つ。
「害意を示すなら、その命……失う覚悟はしてますね?」
一瞬の静寂。夜気が張り詰め、互いの呼吸音すら重く響いた。
ジリっと少し後ろに下がった次の瞬間、それを隙だと感じた鎖男が、振り回す勢いのまま、鎖を伸ばして襲いかかってきた。
唸りを上げて鎖が迫る。
私はただ――計画通りに行動を開始した。
羽織っていた外套が一瞬で変質し、鉄壁の盾が腕に展開する。
鎖が叩きつけられるが金属音を立てて弾かれ、火花が散った。
一瞬の隙を逃さずに姿勢を低く飛びつくような奇襲を短剣で行う。
――狙いは鎖男の足首。
「ぐああッ!!」
悲鳴とともに鎖が地に落ち、男はしゃがみ込む様に転げて倒れた。
「なっ……!?」
突然の鎖男の無力化に、剣男が動揺した。
その刹那、私は盾を長槍に変形させる。
鋭い鉄の輝きと共に腕から伸びた槍は迷いなく突き出され、男の胸部を貫いた。
剣男は目を見開き吐血しながら「バカな……」と一言発した後、呻き声とに崩れ落ちる。
残る敵は弓男一人のみ。
後方でその光景を目にした弓男は、血の気を失った顔で後退し逃げだす。
「ひっ……! く、くそっ!」
男は矢を放つことすら忘れ、必死に背を向けて駆け出した。
「逃がしません!」
千変万化を解き黒衣を羽織りながら急いで追いかける。
森の闇に紛れる弓男の足は思った以上に速い上、木々を盾に移動するため、投擲武器も思ったように当てられなかった。
このまま逃げ切られてしまうと、ルブランの街で暮らす危険度が許容できないほど上がるので、計画を変更しなければならなくなる。
何度か投擲武器を喰らわせるが、弓男は手負いになりながらも、見事に街の門近くまで辿り着き、大声で衛兵に助けを求めていた。
「くっ! 逃げ足の速いっ……」
仕方ないと諦め、後始末をしに襲撃現場へと戻る。
すると、私が戻ってきたことに気づいた鎖男は、顔面蒼白になって怯え始めた。
「ま、待て……! や、やめてくれ……命だけは……!」
声を震わせ、必死に地面を這うように後退する。
私は無言で歩み寄った。
地面に転がっていた短剣を拾い、男に冷たい眼差しを向ける。
「チャンスは何度もあげました。もう無理ですよ。――さようなら」
「や、やめろ……!! たす――」
喉元を一閃。
血飛沫が舞い、ひゅぅーと細い音を漏らしながら、男はその場に倒れた。
――静寂が訪れる。
自身の息遣いだけがハッキリと聞こえた。
少し息が荒い。
ゆっくりと呼吸を整え、痕跡を消す隠蔽作業に取りかかる。
死体の装備を分解して錬成素材を確保。
二人が持っていた保存食なども有り難く頂戴する。
逆恨みの復讐を考えると、暫くは街に戻れない。夜逃げするため、少しでも多くの物資が必要だった。
地面に分解スキルを発動すると、土が沈むように崩れ落ちる。
ぽっかりと開いたその穴に死体を投げ入れ、錬成で穴を封鎖。死体を隠蔽したあと、血の匂いが濃く漂っていることに気づく。
周囲を見渡し、気づいた血溜まりを分解し、争った形跡もできる限り隠蔽した。完全には誤魔化せないが、少しでも時間稼ぎになることを祈ろう。
「……………………」
無言でその場を去っていく。
わずかな鉄錆の匂い、近づいてくる衛兵達の気配を感じた。




