第4話:不眠不休の孤闘
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道を急ぎながら、計画を修正するため思考を巡らせる。
私にとって始まりの街であったルブランから森を挟んで西にある村、コルンで一旦休憩し、追手を警戒する。
可能であればそこで冒険者になり、行商にでも同行させてもらおう。
ルブランと同じく発展しているメシュブランカの街は、コルンを更に西へ行く必要があり、馬車で2日の旅になる。
安定したダンジョン攻略を考えるならそこまで移動しなければ……。
(そういえば、人を殺しても罪悪感とかないな)
――まあ、必要な行動だった。
自分に害をなす存在を殺したところで、罪悪感を持つはずないか……。
考えが落ち着いた頃、オオカミの遠吠えが近くから聞こえた。
夜行性のウルフが私を見つけたようだ。
少しでも距離を稼ごうと駆け足で移動を開始する。
「「「グルルル……」」」
私の進行方向を塞ぐように、木立の奥から3匹のウルフが低く唸りながらあらわれた。
今日はツキのない日かな。
男に襲われ、オオカミに襲われ、そういえばどちらも同じ数だ。
――現実逃避はこれくらいにしておこう。
ウルフが私を囲い込むようにグルグルと周囲を歩いている。
獣の包囲網は既に完成し、最初のウルフが飛びかかってくるのも時間の問題だ。
私は取り出した干し肉を、2匹のウルフの間に放り投げる。
オオカミ系統の魔物は、安全な食料を嗅覚で判断できると図鑑に載っていた。
干し肉で気を引けるなら、少し勿体ないがやむを得ないだろう。
干し肉が土を打つと同時に、2匹の鼻先がピクリと震えた。
「グルル……」と低く唸りながらも、1匹が一歩前へ踏み出す。
牙を覗かせ、肉を咥えた瞬間、もう1匹も堪えきれずに飛びついた。
奪い合うように喉を鳴らし、地面に転がり干し肉に夢中になっている。
食欲が勝ったか――。
2匹から目を離し残りの1匹を見ると、「クゥン……」と情けない声を漏らしていた。
見事な包囲網だったが、こうなっては意味がない。
干し肉にありつけなかったウルフに短剣を投擲する。
「キャンッ」
静かな悲鳴を上げ倒れるウルフ。
体術の訓練時に練習していた甲斐があり、投擲された短剣は見事にウルフの首を貫いてみせた。
事情により投擲スキルや短剣スキルは覚えられなかったが、なかなか良い命中精度だと自負している。
所詮は低級の魔物なのか、干し肉を奪いあっている2匹は隙だらけだった。
強く踏み込み距離を縮め、黒衣を変化させた片手剣で2匹をまとめて薙ぎ払う。
「「キャイン!」」
血痕を撒き散らしながら、先ほど殺したウルフと同じく悲鳴を上げ息絶えた。
――男2人を殺してから、不思議と強くなった気がする。
魔物を殺して強くなることは知っていたが、人間を殺しても強くなるのか?
順調に魔物との初戦は済んだ。
しかし、コルン村まで数時間はかかる。
元の世界でも夜の森は危険だが、異世界の森は更に危険だろう。
気持ちを引き締めて行かなければ。
「街道があるのだけは幸いだな……」
追手がくる可能性、夜の森に長時間いることの危険性を考えると、可能な限り急いで突破しないとな。
――――――――――
最初のウルフとの戦闘から数時間後、私は暗い森の街道の中を、いまだに片脚を引きずるようにして歩き続けていた。
錬成で作成した包帯で出血は抑えているが、控えめに言っても満身創痍といった状態だ。
ウルフの襲撃は一度で終わらず、二度三度とチームを組んで襲いかかってきた。
後半は血の臭いで群れが集まり、命の危機と言ってもいい場面が幾つもあった。
左腕と右脚を噛まれて武器を落とした時は本当に死ぬかと思ったが、錬成スキルと黒衣の《個人認証》のスキルのおかげで命拾いした。
夜が明ける頃には、幾重もの死闘を潜り抜けることになった。
(全く、計画通りにはいかないものだな……)
思わず内心でボヤいてしまう。
元の身体との体力の違いが、進行速度に大きな影響を与えていた。
魔物などを殺して強くはなったが、体力には然程影響を与えないらしい。
魔物を殺すことによる強化がなければ、早い段階で倒れていただろうから、色々と想定が甘かったと反省する。
神のイタズラで女性になってから、不運が続いているようにも感じる。
(――いや、これは不運ではなく、運命か。……美人薄命って言うからな)
疲労が溜まり考えが後ろ向きになり始める。
脳内で慣れないブラックジョークをする程度にはおかしくなっていた。
計画通りの行動など、夢のまた夢でしかなかった。
男たちとの戦闘、ウルフとの初戦で上手くいった結果、自身の実力を過信してしまっていたのだろう。
この満身創痍具合がそれを証明している。
――だがそれでも、生き残る為に、足を止めず歩き続けるほかない。
――――――――――
やっとコルンの村近くに着いた。
長閑な風景だ。
田畑があって、鳥小屋があって、養蜂まで行っている様子がある。
近くには川も流れており、田舎のスローライフのイメージにバッチリな環境だ。
しかし疲れている今はそんな事もどうでもいい。
早く村に入りたいのだが……。
村の入り口手前に、倒れた村人らしき人影複数あった。
そこでは、数人の木樵が必死に斧を振るっている。
それを囲むのは緑色の肌に獰猛な笑みを浮かべるゴブリンの群れ。
助けを呼ぶ声、折れかけた防戦の気配――
予想外の光景に足が止まる。
無関係を装い通り過ぎるか、あるいは助けに入るか。
――どちらにしても良い結果になりそうもない。
冷静な思考がせめぎ合う。
村で用件を済まそうとすれば、木樵を見捨てる事で問題が起こる。
そして木樵を助ける場合は、疲労が色濃く残る身体で男たちの前に姿を現すことなる。
……色香に狂った木樵に襲われる可能性を無視できない。
誰だって助けることに躊躇してしまうだろう。
迷いを断ち切れずに立ち尽くしていると、木樵の一人が私に気づいた。
木樵は血と汗にまみれた顔で、必死に声を張り上げる。
「おい! そこの嬢ちゃん! 頼む、助けてくれ!」
その声に、他の木樵たちも一斉にこちらを振り向いた。
恐怖と焦燥が混じった視線が私に突き刺さる。
ゴブリンの群れに集られ、斧を振るう手は限界に近いのが見て取れた。
「少しでいい!……少し助けてくれるだけでいいんだ! 時間を稼げば村の冒険者が助けてくれる!」
「このままじゃ、皆殺されちまう!」
切羽詰まった声が森の中に響く。
ゴブリンたちはその隙を狙い、木樵の防衛線もじわりと押し崩されている。
……やれやれだ。
疲労で足が震え、意識も霞んでいる。
しかし村人に存在を認識された以上、背を向けて歩き去れば、村に入る前に軋轢を生むのは確実だ。
「……まったく、厄日もここまでくれば笑えるな」
吐き捨てるように呟き千変万化を発動すると、黒衣が片手剣を形作る。
逃げるか、戦うか。
選択肢はとうに狭められていた。
今はとにかく休みたい。
恩を着せれば安全なところへ案内してくれるだろうか……。
「──仕方ない。もう少しだけ頑張るか」
そう呟き、村へ歩いていくと、ゴブリンたちの黄色い眼光が一斉にこちらへと向けられた。
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