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TS錬成術師の受難  作者: 天秤座
第1章:TS錬成術師と苦難の始まり
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第3話:計画崩れてエスケープ

計画通りにはいかないのが人生……。

「近づくな、これは警告だ。それ以上私に近づく行為は敵対行動とみなす!」


 この世界は弱肉強食と言っても、犯罪行為が許されているわけではない。


 一定の強さに達した権利を有する者達が、弱者に対して法によるあらゆる命令権を発揮できる形だ。


 権利を持てず、数の暴力で悪さをするような輩は、殺されても文句はいえない。


「……おいおい、仲良くしようぜ?そんなにつれない態度されたらオレも流石に傷つくぜ」

「俺たちは心配で声をかけたんだ。夜に狩場に行こうなんざ危険にきまってる」

「キレイな嬢ちゃん、悪いことは言わないから、おれたちについてきたほうがいいよ。怪我したくないだろ」


 やれやれといったジェスチャーをしながらため息をつく鎖男。


 続いて剣を肩に担いだ男がゆっくりと近づいてきて、弓を持った男は距離を保ったまま様子をうかがっている。


「――忠告はした。これ以上は、後悔することになるぞ」


 外套内に忍ばせていた短剣を抜き、威嚇する。


 それを見て、剣を担いだ男が口の端を吊り上げた。


「はっ、脅しか? 女ひとりにビビって退くようなら、冒険者なんてやってられねぇんだよ」

「そうだな。ちょっと痛い目に遭わせりゃ、大人しくなるだろ」


 鎖男がくるりと鎖を回転させはじめ、不気味な風切り音と金属音を響かせながらゆっくりと歩きはじめた。


 剣を構えた男も鎖男の斜め後ろあたりを位置取り同じように近づいてきている。


 弓の男は距離を詰めることなく、矢を番えながらも視線を逸らさずにこちらを油断なく観察し続けていた。


 言質は取ることは上手く避けられたが、武力行使を続けるつもりならば、こちらも余裕はないので、手加減はできない。


 敵の役割分担は明確。鎖で拘束し、剣で仕留め、弓で逃げ道を塞ぐ。


 弱者狩りに優れた連携だ。


「……最終確認だ」


 私は一歩踏み出し、声を低く放つ。


「これ以上私に害意を示すなら、その命……失う覚悟をしてもらう」


 一瞬の静寂。夜気が張り詰め、互いの呼吸音すら重く響いた。


 ジリっと少し後ろに下がった次の瞬間、鎖男が口角を吊り上げ、鎖を振りかざして飛びかかってくる。


 鎖が唸りを上げて迫る。


 私は深く息を吸い――行動を開始した。


 羽織っていた外套が一瞬で変質し、鉄壁の盾が腕に展開する。


 鎖が叩きつけられるが金属音を立てて弾かれ、火花が散った。


 隙を逃さずに飛びつき、短剣で奇襲する。


 狙いは鎖男の足首だ。


「ぐああっ!!」


 悲鳴とともに鎖が地に落ち、男は膝を脚を抱えて転がった。


「なっ……!」


 鎖男の無力化に剣男が一瞬動揺した。


 その刹那、私は盾に新たな形を与える。


 鋭い鉄の輝きが走り、長槍が腕から伸びる。


 迷いなく突き放ち、その胸部を貫いた。


 剣男の目が見開かれ、呻きとともに崩れ落ちる。


 残るは一人。


 後方でその光景を目にした瞬間、弓男は血の気を失い、必死に後退を始めた。


「ひっ……! く、くそっ!」


 男は矢を放つことすら忘れ、必死に背を向けて駆け出した。


「逃がすかっ!」


 千変万化を解き黒衣を羽織りながら急いで追いかける。


 このまま逃がすと、街の危険度も許容できないほど上がる為、計画を変更しなければならない。


 だが、森の闇に紛れる弓男の足は思った以上に速い。


 影は遠ざかり、街中へ見事に逃げられてしまった。


「失敗したな……。隙を見せて誘い込むべきだったか……」


 諦めて現場に戻ると、残されたのは呻き声をあげる鎖男と、動かなくなった剣男。


 私が戻ってきたことに気づいた鎖男は、顔面蒼白になって怯え始めた。


「ま、待て……! や、やめてくれ……命だけは……!」


 声は震え、必死に地面を這うように後退する。


 私は無言で歩み寄った。


 地面に転がっていた短剣を拾い、男に冷たい眼差しを向ける。


「忠告はしたはずだ。命を失う覚悟をしろと。――諦めろ」

「や、やめろ……!! たす――」


 最後まで言わせることなく、喉元を一閃した。


 喉から空気の抜ける、ひゅぅー、と細い音が漏れた。


 男の身体は弛緩し、その場に静寂が訪れる。


 私は深く息を吐き、痕跡を隠す作業に取りかかった。


 死体の装備を分解して錬成素材を調達、持っていた保存食なども有り難く頂戴する。


 これで少し余裕ができた。


 復讐を警戒し、暫くはこの街の家には帰れないので、夜逃げするためには少しでも物資が必要だった。


 地面に手を付き分解のスキルを発動すると、足元の土が沈むように崩れ落ちる。


 ぽっかりと開いた闇の穴に、剣男と鎖男の死体を投げ入れた。


 穴を戻したあと、血の匂いが濃く漂っていることに気づく。


 私は周囲を見回し、見える限りの目立つ血溜まりを分解し、争った形跡を隠した。


 完全には誤魔化せないだろうが、少しでも時間稼ぎになることを祈るしかない。


「ここまでだな。逃げるか……」


 静かにその場を後にする。


 残されたのは、わずかな鉄錆の匂いと、闇に溶けた大地だけだった。


評価をしてもらえるとモチベーションが

上がりますのでよろしくお願いします (^^)

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