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TS錬成術師の受難  作者: 天秤座
第1章:TS錬成術師と苦難の始まり
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第2話:実験と能力確認

 錬成術師としての最初の行動は――実験だ。

 

 私は部屋にあった木製の椅子に掌をかざす。


「分解」


 すると、椅子は光に溶けるようにして形を失い消滅した。


 どこに行ったのか考えると、木材や鉄といった素材が万物保管庫に移動したことが感覚として浮かび上がってきた。


「錬成」


 試しに保管庫内の素材を意識して短剣の錬成を行う。


 手に収まったのは質素な木製短剣だ。


 強度は低いが、操作感は直感的に扱えるくらい軽い。



 他にも色々と分解、錬成を繰り返し行い、出来ることを確かめていく。


 その際に着用している衣類などを調整しておいた。


 神のイタズラでスーツを変化させるのであれば、他の物もついでにできなかったのだろうか……。


 単純な材料で高品質な武具を作成可能だとわかったので、思っていたよりも収穫は多かった。


 錬成と体術を組み合わせた戦い方をイメージする。


 女性となったこの華奢な身体、普通の鉄剣や木剣では重さや威力に不安が残るけれど、複合的に錬成した武器であればその不安を解消できる。


 少し脆くはなるが、壊れたところで錬成しなおせばいい。


 武器にこだわることなく、手数で攻めるスタイルを基本に、搦め手を織り交ぜる戦法、錬成術師の闘い方とは大体こんなものだと思う。

 

 もし錬成や分解が可能な距離が伸びれば闘い方の幅も広がり余裕が出てくるが、素材やアイテムも少ないうちは積極的に黒衣による千変万化を多用することになるだろう。


 過去に配信動画で確認した一般的な冒険者は、ゴブリンやウルフに勝てる程度であり、一対一で私が負けることはないはずだ。


 冒険者になった時のため、自力で唯一覚えた体術スキル、どんな職業になったとしても、有効に扱えるだろうと考えていたが、やはり錬成術師との相性もいい感じである。


 効率とコストの見極めは、ここから地道に積み上げていく必要があるな。


 集中していた思考が元に戻る。


 ……あとは黒衣のスキルも実際に試しておかなければいけない。


 黒衣を右手で掴み脱ぎながら、スキルを発動する。


「千変万化」


 布地が波紋のように揺れ、瞬く間に黒い長剣へと変形した。


 重量も手に馴染み、戦闘用として十分すぎる出来だ。


 さらに思考を巡らせると、黒衣は盾、槍、果ては普段着風の軽装にまで自在に変化する。


「これで万全かな」


 私は深く頷き、黒衣をフード付きの外套に変化させてから再び纏う。


 準備は整った。


 時間はもう暗くなっている頃だが、明日の朝になってからでは遅い。


 家から出て街の門の方へと歩いていく。


 魔物が存在するので、大きな街は基本外壁で囲まれているので、外のフィールドに出たいなら、門から出ていく必要がある。


 門の近くには初心者が訓練する為の広場が作られている。


 そこは定番の魔物狩場にアクセスするため日中は頻繁に通う人がいるが、夜は危険が増加するので基本的に人がいなくなる。


 街に近い位置にある村との間に広がっている森はゴブリンやウルフといった弱い魔物しかおらず、真ん中に街道まで整備されている。


 錬成術を実地で応用するなら最適の環境といえるだろう。


 ――だが、門を出て歩いていると、背後に微かな違和感を覚えた。


 靴音が一定の間隔でついてくる。


 人波が途切れても、その気配は消えない。


(……尾行か? 早速厄介なことになったな)


 歩調を乱さずに思考を巡らせる。


 目的は何か、相手は誰か、どの程度の脅威か。


 不用意に振り返るのは得策ではない。


 まずは狩場に入る前に、相手の意図を探る必要があった。


 まあ十中八九は成人式場から目を付けられ、後をつけられていたのだろうと考えている。


 成人式で一人だった私をワケありと見なし、狩りやすい獲物として狙っていたのだろう。


 最悪の展開は想定していた。


 この身体の容姿を見た瞬間から、危険な要素を考えた。


 成人式場から家に帰っている途中につけられている可能性も思いついていた。


 成人式では少し目立ちすぎた。


 場所が違えば襲ってくれと言っているような扇情的な格好だったからな。


 狩場の入口付近にある木立までやってきた。


 人通りも少なく、騒ぎになっても衛兵がすぐ来る距離ではない。


 仕掛けてくるならこのタイミングか狩りの最中だろう。先手を打つか。


 外套の内側に手を滑り込ませ、武器を取り構えた。


「……追ってきている事はわかっている!」


 私はあえて足を止め、背を向けたまま立ち尽くした。


 不意に、背後から複数の靴音が速まる。


「おい、嬢ちゃん。こんな時間に一人か?……俺たちが送ってやろうか?」


 下卑た声が響く。


 振り返れば、剣、鎖、弓を持った三人の男。冒険者崩れのような顔ぶれ。


 その笑みに隠しきれない欲望の色が、嫌でも伝わってくる。


 心臓がわずかに跳ねた。


 ……思った通り狙いはこの身体か。


 外套越しでもある程度スタイルが良いことを見透せるほどの魅惑的な女性。


 成人式場で顔も見られてしまっているなら、こいつらが引き下がることもないとわかってしまう。


 一応、警告も試しておくか。


「悪いけど、今から職業の訓練をしないといけないんだ。好意は嬉しいが、また今度頼めないか」


「そうなのか、そいつは悪かった!」

「嬢ちゃん、成人式じゃ目立ってたよな。お近づきになりたいと思ってね」

「その外套、いい布地だな。ちょっと見せてみろよ」


 鎖を持った男が近づいて来る。


 やはり言葉での説得は無駄か……。


 トラブルは避けられそうにないな。



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