第1話:錬金術師のステータス
――嘆いていても、過酷な運命からは逃れられない。
「……まずは行動しましょう」
焦燥感に駆られながらも、少し落ち着きを取り戻す。まずはステータスを確認して職業覚醒後の能力を把握しよう。
「ステータス」
呟くと、SFで見るようなインターフェースウィンドウが目の前に現れた。
この世界ヴァナルガンドでは、全ての意思ある存在が自己のステータスを自在に確認することが可能なのだ。
[ステータス]
名前:白神静流
性別:女性
年齢:18
職業:錬金術師
スキル:《体術》《解析》《錬成》《分解》
「錬金術師? これは、職業図鑑でも見覚えがない。……もしかして、ユニーク職業? スキルも、体術以外に三つもありますね……」
そう呟きながら羽織っていた黒衣を徐に脱ぐ。
すると、身体を軽く動かすだけで豊満に変化した胸部がたゆんと揺れた。
……複雑な心境になるが、とりあえず黒衣を調べてみよう。
神の悪戯で変化した物には特別な能力が付与されている場合がある。黒衣に注視すると、解析可能と感覚で理解した。
「解析」
ステータスを見る時と同じようなウィンドウが、私の側に新たに出現する。
[解析結果]
名称:《錬金術師の最終兵器》
レアリティ:アルティメット
スキル:《万物保管庫》《千変万化》《自己修復》《個人認証》
「これは……」
思わず息を呑む。
レアリティ:アルティメット。
そんな物が存在するとは、初めて知った。
未確認なのか、それとも秘匿されているのか。
取り敢えず、人に知られるのは避けるべきだろう。
ウィンドウのスキル名をタップして、スクロールしながらスキル能力を調べると、図面付きの説明書のようだった。
スキル能力の一つ一つが、短時間での理解を諦めてしまうほど詳細に説明が書き込まれていた。概要と切り替えられたので、今はそちらで確認しようと思う。
万物保管庫のスキルは物資などを自由に出し入れできる保管庫にアクセスする能力で、容量も無制限となっていた。
次に、千変万化のスキルは黒衣をあらゆる武具に変化させる。
万物保管庫内にアクセスして材質の変化も自由自在だ。
自己修復は黒衣を破損しても瞬時に修復できる。
副次機能を活用すると、分裂維持や合体武器等も再現できるとある。
個人認証は私と黒衣の間で契約を結ぶもので、手元に召喚したり引き寄せたりなど、応用も利く便利な機能があった。
契約を結んだ者に重さを感じさせず、悪影響を与えないといった能力もあり、恩恵は計り知れない。
一応のデメリットとしては、誰にも譲渡できない完璧な個人装備になる事のみらしい。
まさに《錬金術師の最終黒衣》という名に相応しい性能で、錬金術師という職業のためにあるアイテムだ。
あまり目立つわけにはいかないが、よほど運が悪くない限り、あらゆる状況に対応できるだろう。
「……なんとかなるかもしれない」
しかし、この世界はダンジョンがあり、強者や魔物が幅を利かせているファンタジー世界だ。
荒くれ者が多く、力こそ正義という理が成り立っている。
貴族や王族などの社会的上位階級がいて、美人は目立てば強制的に召し抱えられるリスクが大きい。
つまりは、力の弱い人々や美人は色んな意味で狙われる立場ということ。
職業覚醒したばかりで、能力的には弱者であり、魅力的な女性としての外見は大きなリスクと、二重苦に陥っている。
最適解は、誰にも注目されないまま効率よく力を身につける事だが、この容姿では目立つのは時間の問題。
だからこそ、短時間で強くなり、身を守る実力を得る必要がある。
魔物を殺せば命源を吸収し、誰であっても確実に強くなれる。
スキルを覚えて強くなろうにも、スキルは職業スキルを極めた者に直接教わるかスキルオーブで習得するしかない。
私は成人式までの期間、ルブランで有名な道場で体術スキルを習っていた。
訓練以外にも戦闘訓練を行い、幾度かの実戦を経験したので戦闘力は低く無いが、異世界の日常は平和と言い難く、命源の吸収を繰り返した強者に狙われると勝つことは難しいだろう。
道場の師範や知人に頼ることも選択肢に入るが、この姿で助けを求めると弱みを握られることになる……。
不用意に信用し頼ると、欲望に負けた知り合いに裏切られ、逃げられずそのまま……という最悪のパターンもありえた。
そう自然に考えてしまうくらい、立場も実力もない女性は狙われる環境なのだ。
この世界に来てから、情報収集は欠かさなかった。
その結果、隙がある女性は一瞬で喰い物にされてしまう、弱肉強食の世界だとわかっている。
迅速に自身の安全が保証される環境を得る必要があった。
その為に、今できることを確実に熟し、新たな基盤を確立しなければ。
最初にするべきは分解と錬成の実験。
身近な素材を分解・錬成し、その性能を確認しながら万物保管庫に素材などを収集する。
その次は黒衣のスキルを試そう。
千変万化でどこまで自在に武具形態を変化できるのか、戦闘・防御に分類して運用法を決める。
現在の戦闘能力を確かめる為、安全な狩場で実地訓練を行い、低級魔物を対象にした錬成術の実戦応用を習熟する事も重要だろう
それが終われば冒険者ギルドへの登録だ。
冒険者ランクを上げて社会的な立場を形成しよう。
時間は掛かるが結果的に危険から身を守ることに繋がる。
……常に意識しておくべきことは何だろうか。
まず情報収集は必要だ。
何がトラブルの元となり、何が幸いするか分からない。
情報があれば選べる手段が増え、男に戻る方法も見つかるかもしれない。
それと、錬成素材を集めることも重要だ。錬金術師の強さは持っている素材の質と量で増減するようなので、素材を蓄積して戦術の幅を広げ続ける。
あとは、高ランク冒険者になるまでの道程は険しいので、同じような立場の女性がいればチームを組んだり、信頼できるクランに加入できれば、自衛手段として有効だろう。
女性同士であれば、比較的安全に生活できるだろうから、仲間の1人や2人は欲しい。
……今考えられるのはそれくらいかな?
「よし、次は分解と錬成のスキルを試してみましょう」




