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TS錬金術師の受難 〜神の悪戯で絶世の美少女に〜  作者: 天秤座
第1章:TS錬金術師と苦難の始まり
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第26話:ゴブリンリーダーの復讐




「……終わりましたね」


 エリンが奇跡(ミラキュル)というスキルを使ってからは一方的な展開だった。


 味方にはバフを付与し、敵にはデバフを与える。能力差を覆す優秀なスキル。


 しかし、あそこまで強力だと、短期間での再使用は難しいだろう。


「ああ、確認は……必要だが……マザーが……ボスだろう」


「……はぁ……はぁ。……すごくつかれたわ……」


 ヴァルターとエリンはバテ果てたのか、今にも倒れそうだ。


 エリンに尋ねた。


「……エリン。奇跡(ミラキュル)というスキルは強力ですね。今もかなり消耗してますが、大丈夫ですか?」


「――シズル、聞いちゃったの? ……恥ずかしぃ!」


 耳まで赤く染まり、しゃがみ込むエリン。


奇跡(ミラキュル)、可愛らしい名前のスキルですが、頼もしかったですよ」


 身体能力の上昇が著しく、まるでマザーが相手にならなかった。相手の皮膚が焼け焦げ、防御力も低下していた、という条件もあっての結果だろうけど。


「……そう言ってもらえるのは……嬉しいわ……。これは……月に一度しか……使えない……私の……切り札よ」


 息も絶え絶えなエリンだが、それだけあの力を行使する事は大変なのだろう。それに、スキル名があまり好きではなさそうだ。エリンが言うと可愛らしかったが。


「……エリン、今夜、頼みたいんだが」


 ヴァルターも大剣を支えにするほど弱っていた。


 狂化の発動中の勇ましさは消え、何かボソボソとエリンに伝えている。


 微かに聞こえた言葉に、何気なく尋ねた。


「ヴァルター? エリンに何を頼むんですか?」


 するとヴァルターは気まずそうに、「いや……回復を……頼んだ……だけだぞ」と顔を逸らす。


「ヴァル……私も……つかれたから。話はあとにして……」


 エリンは微妙に眉をひそめていたが、仕方ないとでも言いたそうな雰囲気を出していた。


 私は低燃費だからあまり疲れていないが、この二人は高燃費で短期決戦型なのかもしれない。


 そう思いながら、二人の体力が回復するのを待つのだった。



――――――――――――


 

 地の底で、何かが“蠢いた”。


 ……見ていた。

 全てを、見ていた。

 群れが焼き尽くされ壊滅し、ヒーローが無念のうちに殺され、マザーまでもが卑怯な手段でやられたのを――



 彼はずっと、この地の下で息を潜めていた。

 血と焦げの臭い、焼けた肉の匂いが脳裏に焼き付き、離れない。


 怒りは、もう言葉にできず。


 初めて知った“理不尽”が、心臓を灼いていた。


 南の森から来た新参者。

 群れを統べる知恵を持つ者。


 ――ゴブリンリーダー。


 スキル【土喰らい《アースイーター》】。


 地を喰い、巣を広げ、獲物を落とす。


 それが彼の力だった。


 ――巣穴は、既に彼の手で“穴だらけ”である。



 マザーに褒められた“人間の頭皮”を自らの手で引き裂いて作ったカツラさえ脱ぎ捨て、ただ穴を掘り続け、巣穴の外や静流たちが通った道など、あらゆる所に誰にも気づかれないよう落とし穴を仕掛けていた。


 静流たちは知らない。


 彼が地の下で静かに“呼吸”していることを。


 その足元が、すでに“喰われている”ことを。


 マザーの断末魔の中、彼は地の底で牙を研いでいた。


 人を呪いながら、ただ一つの想いを刻み続けた。


 ――殺す。


 喉の奥で唸りが漏れる。

 自身を受け入れてくれた群れを滅ぼした者たち。 

 この身が潰れようと、魂が砕けようと。

 必ず復讐を果たす。


 地を這い、土を喰い、息を潜める。

 指が裂け、血が滲んでも止まらない。

 そして――その瞬間を、待った。


 ――来た。


 あの三人の声。

 気の抜けた話し声。

 安堵の吐息。

 上だ。

 近くに、いる。

 奴らの足が、油断しきったように近づいてくる。

 そうだ、そのまま進め。


 息を殺し、その瞬間を待った。



 そして――地面が、沈む。

 

 地面が崩れ足元を取られ、獲物が落ちる。


「なにっ!」


「ヴァルッ!!」


「ヴァルター!?」


 獲物が掛かった。


 砂と泥が飛び散り、獲物は四肢を地に擦りながら小さく声を上げる。


 “シネッ!!”


 横穴から爪を伸ばし牙を向ける。


 素早く、無慈悲。

 獲物を喰らうことに、ためらいなどない。


 まずは腕を噛み千切る。


「ッ!? エリン! シズル! 助けてくれ!!!」


 血と泥の匂いが鼻腔を突く。

 獲物が地上に手を伸ばし、その体を地中から脱出させようと藻掻いている。


 が、その脚に喰らいつき、逃さない。


「……ッ! やめッ、やめろぉッ!!」


 両脚を奪った瞬間に地上に引き上げられたが、既に死に体だろう。


「ッキャ〜!? ヴァルッ!?」


「っ!? ヴァルター!!」


 ——悲鳴が聞こえた。これは、チャンスだ。


 地上まで追いかけるように這い上がり、最初に見えた女の細い喉元を狙う。


 復讐心だけで、ただ真っすぐに飛び掛かる。


「エリン、離れてっ!!」


 聞こえた声の方向、視界の端にあの女が映った。


 美しいが強い女。百程度の群れでは、あの女の相手にもならなかった。


 その女が俺に剣を振る。

 その細腕で、なぜそんなに速い斬撃を放てるのか。


 そう思いながら、首を切断された。


 しかし、最後に残された力で、跳ねられた首を目標(ターゲット)へ飛ばす――


 ――魔法を唱えていた女の、首筋に喰らいついた。


 鈍い咬合音。


 狙いは少し外れたが、肉を抉った歯ごたえはあった。


 一矢報いた。


 その思考を最後に、意識は闇へと消えていった。



――――――――――――



「……とりあえず、皆の所に戻ろう。このまま探索は厳しい」


「そうしましょう……。私もつらいわ」


「そうですね。このまま進んでは危ないかもしれません」


 意見が一致し、一旦冒険者たちの所へ戻ることになった。


 群れの大多数とボスは仕留めたので、巣穴の攻略は急がなくてもいいだろう。


 そう考えていた。

 

 次の瞬間――ヴァルターの足元が崩壊した。


 落とし穴という、原始的なトラップだ。


 疲労や油断はあった。


 だが、これは心の隙を突いた巧妙な(トラップ)


「なにっ!」


 ヴァルターの叫びが、乾いた音と共に響く。


 地面が裂け、土砂が崩れ、彼の姿が瞬く間に視界から消えた。


「ヴァルッ!?」


「ヴァルター!!」


 私とエリンの声が重なる。


 人一人がすっぽり入るほどの穴――これは自然の陥没ではない。


 明らかに“仕掛けられている”。

 

 まるでオークを仕留めていた落とし穴のように――。


 「ッ!? エリン! シズル! 助けてくれ!!!」


 ヴァルターが今までにないほどに焦った様子で片腕を伸ばし助けを求めている。

 

 「……ッ! やめッ、やめろぉッ!!」


 急いでエリンと共にヴァルターを引き上げようと力を入れるも、何かに引っ掛かったように重く、中々助けることが出来なかった。


 その間にも、彼は悲痛な声を上げていた。


 地面を分解するか考えた途端、引き上げる手応えが突然軽くなった。


 ――しかし。

 

「ッキャ〜!? ヴァルッ!?」


 エリンの悲鳴。

 引き上げられたヴァルターの姿は変わり果て、既に左腕以外の四肢がない。


 突然軽くなったのは、両脚を奪われたからだった。


「っ!? ヴァルター!!」


 目を見開き、心配して声を出すも、直ぐに警戒する。


 ――何かが穴の中にいるはず。


 そう確信して気を引き締めると、黒く濁った瞳のゴブリンが這い上がってきた。


 その口の端から、血が滴っている。


「エリン、離れてっ!!」


 エリンは回復魔法の詠唱をしていた。

 ヴァルターの惨状を前に我慢できなかったようだ。


 私は声と同時に、エリンに飛び掛かったゴブリンに斬りかかる。


 斬撃は寸分の狂いもなくその首を断った。

 頭が宙を舞い、血が弧を描く。

 終わった――そう思った。

 しかし。


 ――ガブッ。


 乾いた音。

 跳ねたはずの首が、まるで最後の意志を宿したように牙を剥き――


 ――エリンの喉に、噛みついたのだ。


「――ッ!?」


 目の前の光景を理解するより早く、身体が動いていた。


 地面に落ちたその頭を、怒りを込めて踏み砕く。


 エリンが喉を押さえ、倒れた。


 血が滲み、白い手が真っ赤に染まる。


 彼女の口が動く――だが、声は出ない。


「エリン!? 喋らないで! 今助けます!!」


 私はすぐに膝をつき、二人の応急処置に移る。


 作成して保管庫(インベントリ)に入れておいたポーションをあるだけ取り出し、惜しみなく傷口に向けてかけ続ける。


 重傷には効果が薄いとあったが、数で補う。連続使用すると体にだるさが残るとあったが、命を優先する。


 ヴァルターは狂化を少し発動させたのか、筋肉で出血は極力抑えられていた。気絶しているが、命は助かりそうだ。


 エリンも喉の傷は深いが、少なくとも、頸動脈を断たれたような出血ではなかった。今は気絶して横たわっている。

  

 二人が一命を取り留めたことにほっとした。


 ――ふと、手が震えていることに気づいた。


 とても危険な状態だった。

 ポーションがなければ助けられなかっただろう。


 これからどうするかと思考を巡らせる。


 かなり状況は悪い。


 エリンが部位欠損を回復可能なレベルの神聖魔法を使えればいいが、無理ならメシュブランカで回復手段を得るまで、ヴァルターはこのままとなる。


 その場合、見捨てることは考えていないので、メシュブランカに早く行き、回復手段を探さなければいけない。


 取り敢えず、この巣穴の探索はブロンズランク冒険者に任せ、コルンに戻ろう。


 ヒーローとマザーを倒して、これ以上の敵はいないと油断していた。


 ――いや、油断していなくても、防ぐ手段はなかったのかもしれない。


 用意周到な手口であった。一度通った道に落とし穴を仕掛けるとは、人の心理を理解しているかのようだった。


 ヴァルターとエリンを連れて帰るため、錬成で荷車を用意する。

 

ベッドの素材もあったため、搬送中の負担は多少抑えられるはずだ。


 巣穴を包囲していた冒険者たちが、顔を強張らせてこちらに向かってきた。


 何か問題が起こったことに気づいたのだろう。


 「……二人とも、必ず助けます」


 決意するように、そう呟いた。



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