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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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198/206

合言葉は不正解、幻覚は消える

「よし、じゃあまた明日に挑戦な」

 やってやるぜ〜、といったネズミ君であったが、ここで重大なことに気付いた。

「うん?て、ことは、またあの部屋を通るのか!?」

 あの部屋、とは、またあのGさんの部屋のことである。

「え〜!絶対嫌よ、絶対嫌!もう二度とあんな思いはしたくない!」

 泣く子も黙るスケバンもGさんの前では泣く子と化す。

 僕らがいやいややっていると、シルバーフィッシュがいいことを教えてくれた。

「どうしたのじゃ。一度行ったのなら、扉の鍵を貰ったじゃろう」

「鍵、ですか?」

「ほれ、あのアヒルの絵の」

 アヒルの絵…、あ、あれか?電子錠みたいなのが付いていた扉のことか。

 

 ということで、翌日はザビエル暦六月第二週五日目。僕らは昨日アヒル館の外周を回っているときに発見した、鍵の掛かった扉から行くことにした。

 これは実に助かった。僕だってもう一度虫除けの魔法をやれと言われたら、泣いてしまうかもしれない。

 妙子のマップを吟味して、おそらくこれで行けるだろうというルートを策定した。

 地下二階に下りてチニダー入り口へ(3.10)。ここで東方向へ進むことに。王さんが言っていた壁伝いである。

 ダークゾーンを3ブロック通り抜けると、それはすぐに終わった(7.10)。右手側(南)はまだ黒い壁が続いている。どうやらこの一角だけダークゾーンではないようだ。

 更に進むと終点なのだが、そこに下に下りる階段を発見した(10.10)。それと東向きの扉が。

 扉は固く閉まっていて、ノブの下にはアヒルのイラストの描かれた長方形の金属の板があった。

 シルバーフィッシュに言われた通り、僕はポケットから黄色いラバーダックを出すと、アヒルのイラストの部分に翳した。

 すると、ガチャリ、という鍵の開く音が聞こえたのである。

「こうなってたんだなあ」

 ネズミ君はドアノブを回して扉を開けた。反対側に出る(11.10)。

 ここの扉の鍵はラバーダックだったのだ。僕は持って来たつもりはないから、おそらくこれはアヒル閣下からのプレゼントだ。

 これはアヒル館に行かないと入手することは出来ないから、大抵の学生は、ここの扉は開けずに手前にある階段を使って地下三階へと下りて行く。

 呪われた人間のみがアヒル館に行き、呪われた人間のみがラバーダックを持たされる。この呪われたアイテムを。ダムダムダム…。

 それはそうと、僕らは通路を南に下って行った。今まで座標の東の値が分からなかったため、xと置いていたが、これでxの値も分かったことになる。xは11だ。アヒル館の門の前に到着(11.4)。

「ダンジョンに囲いがあるってねえ。へえ〜」

 ネズミ君が合言葉を言ったのだが、今度は門は自動的に開かなかった。

 僕は鉄柵の隙間から手を入れて、かんぬきを外した。

「合言葉じゃなかったみたいだね」

「うるさいわい!」

 ネズミ君は大股でドスドス歩いて行った。

 アヒル館の入り口も、今日は自動で開かず、普通にドアを開けて入る(16.4)。

 もしかすると新手の幻覚を見せられたらどうしよう、とか思ったりもしたのだが、玄関ホールは一昨日見たものと同じだった。

 まるで黒曜石でできた海に、沈没する前の世界が浮かんでいる。

 アトラスは黄金の扉を守るように左右に立っていて、阿吽の()()で暗い篝火を背負っていた。苦悶の()()で天を背負っているよりも幸せそうに見える。

 南極の氷はまだ溶けていなかった。

 二酸化炭素を吐き出さないように息を慎みながら、静々と赤絨毯の上を通り抜ける。

 一昨日ゲンちゃんが引っ掻いたところは、毛羽立ちが残っていた。すると絨毯は本物なのだ。

 黄金の扉を開けるとまたアヒルの入浴シーンかと思いきや、もう幻覚は現れなかった。天に落ちる空もない。

 左右の扉と薄いグリーンの絨毯だけがある部屋であった(17.4)。

 北側の扉を開けて、祭壇の前に到着する。そこには新しいラバーダックが置いてあった(17.5)。

「さて、と。散々大泥棒ネズミ様を悩ませてくれたが、ここで会ったが百年目、ついに年貢の納めどきだな」

 間抜けな大泥棒もいたものであるが、ネズミ君はラバーダックを手に取ると、そっと4の位置に置いた。

 これでいいはずである。反射的に身を屈めて、ワープに備えた。今に例の空間が回るような現象が…、と思ったのに、いつまでたっても襲ってこない。

「おんや?何も起きんな」

「間違ってたのかな?」

「ん〜、でも、その場合は飛ばされるら?」

 確かに、彼の言う通りだ。

 何か変わったところはないだろうかと、部屋の中をあれこれ探ってみる。

 秘密の隠し扉の鍵が外れたとか、ワープの模様が変化したとか、バニーガールが現れて冷たいシャンパンを持ってきてくれるとかありそうなものなのに、何も起こらない。アヒルも出てこない。

「う〜む」

 部屋の中を調べ尽くした盗賊は、腕を組んで出っ歯を傾げた。じいっと入ってきた扉を見つめる。

「そうか、待てよ?」

「何かわかったの?」

 出っ歯の角度を維持したまま、無言でスタスタと前の部屋に戻っていく(17.4)。

 南側にあるダミーの扉の前で、しばらく立ち止まっていた。

 ふいにポンっと手を叩く。

 ネズミ君は昨日僕が開けた、ダミー扉を開けた。それを開けたって壁が見えるだけなんだけど…。

「おっと、正解のようだ」

 おや?

「あ…!」

 昨日壁だった扉の向こうに、別の部屋が見えていた。

「幻覚は扉じゃなかったということだ。正解すると壁に見えてた幻覚が消えるんだ」

「うひぇ〜、触って確かめればよかった」

 そういうことだったのか。

「よくわかったね」

「アヒルの言った言葉の意味をもう一度よく考えてみたんだ。正しい扉を開けたとしても、すぐに進めるとは限らない。注意深くない者は…、とかなんとか。きっとその後があったんだろうけど」

 そこで恐ろしい幻獣に襲われてあえなく最期を遂げたからな。

「ま、幻覚が得意な魔法使いらしいや。これから先もそんなのばっかりかもな」

「そうだね」

「さ、行くぞ。アヒルちゃんが待ってるぜ」

 僕らは次の部屋へと、足を踏み入れたのであった(17.3)。

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