仲間は迷惑で、勇者は嫌われる
そして進むこと問題の部屋へ。
僕らは地下二階に下り、サキュバス地帯を抜けて、理想的な環境でGさんたちがすくすく育っている部屋の前まで来た(3.3)。
今からここを通り抜けようというのだが。
「ほ、本当に、本当にお前を信用していいんだな!?」
ネズミ君はリュックから殺虫剤を取り出した。
「あたし、何で紙袋破っちゃったのかしら。もう〜、いつもそうやっていっときの感情に駆られて後先考えずに行動しちゃうのよね」
鉄子は自らの性質を省みて、後悔した。
「ゲンちゃん?ゴキブリなんか絶対に食べちゃ駄目だよ!?」
美少女はさっきの自分の発言を簡単に撤回して、幻獣をケージに閉じ込めた。入念にガスマスクを装着する。
ふう…。人は果たして自分を信用してくれない人たちに命を預けることができるものなのか。この先の道のりの険しさを思ってため息をつく。
「みんなはここで待っててくれればいいよ。僕一人でやるから」
「な、何言ってんだ勇者!俺たちはパーティだぜ!?死ぬも生きるも一緒だ」
「そうよ、あたしたちも一緒に戦う!」
「みんなの心は一つですぅ」
「みんな…!」
仲間だ、これが仲間だ。仲間というのは、なんてありがたくて迷惑なものなんだろう!
「ミャオーーーッ!」
「ゲンちゃん?少しの辛抱だよ。勇者さんの邪魔しちゃ駄目だよ!?」
幻獣も嫌がってるようだから、外で見ていてくれればいいのだが。いや、外で見ていてくれなければいいのだが。
「じゃあ、行くからね」
僕はガチャッとノブを回して扉を開いた。むわっとした熱気が顔にかかる。
「あ、それから、今日見たものは、子々孫々、末代まで決して口外しないように」
勇者、何言ってんだ?という顔のネズミ君の頭に、バスケットボールを乗っける。お気に入りのベッドを与えられたやんちゃ坊主は、欣喜雀躍してトランポリンを始めた。
鬱蒼と生い茂った密林の中を苦労して掻き分け、部屋の中央付近まで進んでいく。
先日、明かりがついた辺りまでいって足を止めた。
パッ。
今回も蛍光灯をつけたように、部屋が明るくなる。すぐにそれに呼応するかのように、足元がザワザワしてきた。
「ゾ、ゾゾゾゾワァァ!ゆ、勇者、俺がついてるゾォ〜」
「ぐすっ、ゆ、勇者さんっ、負けないでぇ〜」
「オ、オオカミなんて、怖くないもん…、メェ〜」
「ミャオーン!」
途端に後ろが騒がしい。気を紛らわせるために、異世界のGさんには正の走光性を持つものがいるのだなと、一回学術的かつどうでもいいことを頭によぎらせてから、スーッと呼吸を整えた。
この技を使うときは、術者も相当な負担を覚悟をせねばなるまい。
「虫さんいや〜ん、近寄らないで。嫁入り前の大事な体。軽い女じゃないわよ、見くびらないで。あんたみたいな男はしっしっし」
腰をクネクネさせて、しっしっと虫を手で払う仕草。異世界の夏を乗り切るためにムーチャス便利な秘技。マタドール先生直伝の虫除け魔法だ。
カサカサと腰のあたりまで這い上がってきていたGさんたちは、急に立ち止まると、露骨に嫌な顔をした。ように見えた。見えるはずはないんだけど、なんかそんなように見えたのだが、錯覚だろうか?
いやいやをするようにして、一目散に地面へと逃げ帰っていく。我先にと、土の中に潜っていった。
すごい、効果てきめんだ。
最後に残った一匹が、僕を見上げて、ウエエエエ、とやってから土に潜った。
この魔法は、自分よりも弱い虫を近寄らなくさせるものだ。
そうか、畏れられるのではなく、嫌われるから近寄らなくなるんだ。
僕は口の中にすごく苦い味を感じ、同時にゴキブリの気持ちがわかった。そうか、こうやって彼らはいつも人に嫌われてるんだね。
ゴキブリを遠ざけると同時に、親近感を抱かせるとは。改めて魔法というのは恐ろしい力だ。
「ゆ、勇者、お前。今、いったい何を…」
「勇者さん、あたし今、人生で一番怖い思いをしたわ…」
「メェ〜。ママが、ママがジンギスカンに…!」
「ワンワンワンワン!」
猫にまで吠えられるとは…。
「さ、行くよみんな。こんなことで驚いてたら、異世界じゃ戦えないからね」
僕は後ろを振り返らずに、ガサガサと密林を掻き分けていった。
忠実なる我が僕バスケットボールが、みんなの背中を追い立てていった。
悪夢のような部屋を通り抜ける(1.3)。南、東、南と1ブロックずつ鍵状に移動した(1.2)。
西側には、見覚えのある扉があった。
「こっ、この扉は、アレですねっ」
妙子がいそいそとマッピングノートに書き付ける。
特徴のある引き戸。通常のドアノブを回すタイプとは違う、ある装置のための扉だ。
「エレベーターか。ってことは、俺たちゃ今南西の角にいるってことだよな」
わかりきったことをもったいぶって言うネズミ君。
「本来だったら、ここを開けて下に降りたいところだが、今は勇者の呪いを解くのが先決だ」
言ってることは筋が通っているが、理不尽である。
ネズミ君が本来の盗賊の仕事をして鍵のかかった扉を開けてくれれば、きっと僕も呪われることはなかっただろう。
「まあ、少し休憩しよう」
妙子のマップも完成させたいことだし、僕らはキャンプを張って小休止することにした。
エレベーターの扉の反対側にも、東向きの扉があった。次はここを開けて進むわけだ。




