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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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182/206

ボールはFで、Gはパニック

「行くよ!」

 玄室の可能性ありということで、ピリッと緊張が走る。

 そういえばしばらく実質的な戦闘をしていない。スーパーには遠く、いかがわしいエリアには近いが、居住環境の悪さをものともしない剛の者なら住めないことはない。

 ガチャリとノブを回して扉を開け放つ。

 ウラァ、怪物、出てこんか〜、と、血の気多い系女子が踊り込んでいくかと思いきや、意外にも鉄子は慎重に中を伺っていた。

「どしたの、鉄子さん」

「ううう〜、なんか嫌な予感する」

 ブルブルと小刻みに震えている。さては彼女の苦手なオバケ系モンスターか。

 しょうがないなぁ、僕が先頭で入ろう。本当は鉄子が先に行ってくれると、危険も免れるし丸いお尻も拝めるのだが。

 …これ以上、価値を下げないうちに前進しよう。だが、奮い起こした勇気を妨げるものがあった。

「なんだ、これ」

 部屋の内見に行ってこれだったら、絶対選ばない。

「部屋の中が木でいっぱいだよ」

 まるでジャングルのように、中は鬱蒼と植物が生い茂って僕らの行く手を阻んでいた。

 どうやら足元は土である。またこのパターンかと、イナゴの大群を突っ切ったときのことを思い出す。が、部屋は真っ暗であった。

「光を必要としない、異世界の植物でも栽培してんのかな?俺も詳しくは知らんけど」

 ネズミ君のランプは、葉っぱに遮られてあまり遠くまで伸びていかなかった。パット見はシダ植物のジャングルに見える。

「実際、異世界に行ったときに一番活躍するのはレンジャー科なんだよな。食べられる雑草とかにも詳しいし。アウトドア志向が強過ぎて、一般の生徒からは敬遠されがちだけど」

 それは現実世界にも当てはまる気がする。

 レンジャーのいない僕たちだが、入っていかずにいられない。体を横にしたり頭を下げたりしながら、苦労して草木を掻き分け進んでいく。

 困ったのはバスケットボールである。

「痛て、てて!勇者、ちゃんとドリブルしろよ」

「無理だよぉ」

 木の根っこやなんかに跳ね返って乱反射するのだが、それは大いにネズミ君()()を悩ませた。前回のプレイで誰にぶつかればいいのか学習済みなんだ。賢い、賢い。

 それにしても。

「なんか、暑くない?」

 季節はもう夏だと言っていい。だが僕らは地下に下りていくため、みんな冬服だ。冷んやりとしたダンジョンの中では季節感がないが、この部屋はなんだか蒸し暑い。

「確かにな。きっと(ウキュ!)魔法で温度が一定に(ウキュ!)保たれているんだろうさ(ウキュ!)。植物園でも作って(ウキュ!)いるつもりかな」

 ボールは不安定な地面に降りるのを避け、ネズミ君の頭の上でバウンドを繰り返していた。ちゃんと自分で安息の地を見つけたのだ。賢い、賢い。

「ねえ、なんか出てきたりしない?」

 鉄子はまだオバケの影に怯えている。

「ケケケ、森の奥から声が聞こえる。森を荒らすものは誰じゃ〜、イッヒッヒ。いでッ、ででッ、デッ!」

 鉄子を揶揄ったネズミ君の頭に天罰が落とされた。フェミニストなボールなのだ。

「あ、あれ、扉じゃない?」

 草木を掻き分け進んで行くと、やがて生い茂った葉っぱを透かして、前方に扉が見えてきた。

「まったく(ウキュ)、サルのモンスターかなんかいるのかな(ウキュ)」

 サルに襲われる前に、なんとか扉まで行きたい。そう思ったそのときだった。

「おや?」

 急に部屋が明るくなったのだ。蛍光灯がついたみたいに、パアーッと。

「なんだ(ウキュ)、魔法か!?」

 魔法?誰かが今、魔法を使ったのか?誰かって誰だ?敵か!?

 敵だとしたら、魔法使い?魔法を使えるモンスター!?

 急にゾッとしたものが背筋を駆け抜けた。

 今まで魔法を使ってくる敵と、直接戦闘になったことはない。

 考えてみたら、そうなんだ。僕らが魔法を使えるということは、モンスターだって使う可能性があるということだ。

 もし相手が魔法使いだったら、どうしたらいい?どうやって防ぐ?こちらに魔法使いのいないパーティで、ちゃんと戦えるのか?

 高速で頭を回転させても、不安が膨らんだだけだった。そのとき、足元で妙な音が聞こえた。

 カサカサ…、カサカサ…。

 うん?何だろう?この音、どこかで聞いたことがあるような?

「な、何も起きないわよ」

「いや、気をつけろよ(ウキュ)。物理攻撃だけが(ウキュ)魔法じゃないぜ。本当に怖いのは(ウキュ)精神を攻撃する魔法だ。どんなに体を鍛えてたって、こればっかりは(ウキュ)避けられないからな。得てして(ウキュ)知性が高ければ高いほど(ウキュ)、そういう魔法にかかりやすいっていうぜ」

 ということなら、ネズミ君は心配ない。

 カサカサ…、カサカサ…。

 カサカサいう音が近くなっている。

 そのときだった。

「ゾ!ゾゥわああああ〜〜〜!!!」

 ネズミ君の悲鳴。なんだ!?

「フヒィミャア〜〜〜!!!」

 今のは!?ゲンちゃんじゃない、鉄子だ!

「ピャ!ギャ!フゥア!メェ〜〜〜!!!」

 妙子!?君は羊飼いじゃないぞ!?

 な、な、なんだ!?

 パーティが恐慌に陥っている!

 まさか、魔法?精神を攻撃する魔法か!僕は平気だけど!?

「アオ〜アア〜〜〜!!!」

 今度はゲンちゃんまで!?

 猫に作用して、僕には効かないとは一体どういうことだ!?ゲンちゃんの方が僕より知性が上なのか!?

「ドォうわぁ〜〜!!」

「うっピャーッ!!」

「メェ〜〜!!」

「ア〜オ〜!!」

「みんな、どうした!?落ち着いて!!」

 みんなパニックに陥り、右往左往。でも大して身動きできないものだから、あちこち枝に体をぶつけたりしていた。

「ネズミ君、しっかりして!」

「おぅわっ、おわっ、勇者、たす、助け!助けてくれぇ〜!」

「なんともないよっ、冷静になるんだ!」

「助け!プひゃあ!ゴ、ゴキ!ゴキ、ゴキ、ゴキ〜!!」

「え、これのこと?」

 僕はネズミ君の顔についていた黒いものを、ひょいと指で摘み上げた。

 普通に目にするものよりは、ちょっと大きいけど。

 気がつけば、そこら辺の枝やら葉っぱやらに、無数の黒いものが蠢いている。僕の足にも何匹か登ってきていた。さっきのカサカサいう音の正体はこいつだったか。

「ヒイ、ヒイイ〜〜!!…ウキュ!」

 ネズミ君の頭に登った輩は、忠実なるバスケットボールが潰してくれた。

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