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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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176/206

ボールは懐き、勇者は呪われる

 整理してみよう。

 先程、最後の一つを鉄子が豪快に放り投げ、スリーポイントシュートが決まった。チャリンチャリンチャリーンと、異世界ゴールドコインが3枚出てきたのを、僕はこの目で確認している。

 そして、ビイーッとホイッスルが鳴った。ゲームなのかトラップなのか知らないが、兎にも角にもこの奇妙な仕掛けは終わったのだと、思う。

 僕は一つだけ転がっていたボールを手に取った。それは何の変哲もない、普通のバスケットボールだった。

 何故ここにそんなボールがあったかというと、鉄子がシュートしたボールが、しまわれずにそこにあったからだ…。

 えーっと、確かこのゲームは、ゴールインしたボールは、ゴール下にある穴に吸い込まれていくんじゃなかったか。

 で、何で最後のボールだけ、そのまま残っている?

 僕はゴール下をしげしげと見つめた。穴があった場所には、固そうなシャッターが閉まっていた…。いつの間に。

 虚ろなまなこでオレンジに光るボールを見つめながら、言いようのない恐怖が背筋を走るのを感じた。

 オレンジ色…。どこかでこの不吉な色を見たことがある。それも最近、高校に入って以来。

 そうだ、猫だ。この不気味なオレンジ色は、筋肉猫の色。

「もっかい、投げてみろよ」

「う、うん」

 ネズミ君の言葉に我に返る。いつまでもこんなもの持ってちゃ駄目だ。

 ゴールを狙って、ポーンと下から放ってみた。かすりもせず、見当外れのところに落ちたボールは、ダムダムと弾み、またもや僕の手の中に舞い戻った。まるで、それ自身が意思を持っているかのように。

「勇者さんっ、私にパスしてみてくださいっ」

 妙子に、ワンバウンドのパスを送る。

「それっ」

 彼女のスイートスポットから放たれたボールは、先程まで何度となく目にした残像をなぞるかのように、すいーっと飛んで、スポッとゴールをくぐった。

 駄洒落を言っている場合ではない。

 ダムッ、ダムッと跳ねたボールは、懐きすぎた子犬のように戻ってきて、僕の手に収まった。相変わらずオレンジに発光しながら。

 う…そ…!?

「どうなってるの?」

「お、俺にもさっぱりだが…」

 フラフラと、二、三歩、歩きかけたそのときだった。

「ぐわっ!」

 ビイイイーーーーン、と体中を衝撃が走り、僕はその場から動けなくなってしまったのである。

「ど、どうした!?」

「わ、わかんない。わかんないけど、う、動けないよ!」

 まるで足の裏から根っこが生えたように、足を持ち上げることができなくなってしまったのだ。

「勇者さん、それ貸して!」

 引ったくるように、鉄子は僕の手からボールを奪う。その途端、僕の足は自由を取り戻し、動けるようになった。

「おんどりゃあーっ!!」

 鉄子はボールを壁に思い切り投げ付けた。

 バコオォーンン!と、跳ね返ったボールは、まるで暴れ馬のように床や天井に激しくぶつかって、大人しく僕の手に戻った。

 …いや、そんなにいい子にしてくれなくてもいいんだけど?

 オレンジの光は、保たれたままだ。あんなに強くぶつけたのに、まだ生きている。

「ひとまず、この部屋を出よう。勇者、それなるべく遠くに転がせ!」

 ゴールドを回収し終わったネズミ君は出口に駆け寄り、扉を開け放った。入ってきたときとは違う、南側の扉だ。

 コロコロ、と部屋の北側へとボールを転がす。なるべく遠くへ行ってくれ。

「お前らも早く!なんか罠だ!」

「了解!」

「は、はいっ」

「ミャン!」

 みんな得体の知れない恐怖から逃れるように、出口へと急いだ。僕もハンマーを拾って、ダッシュする。ボールが戻ってこないうちに、早く。ネズミ君は扉を押さえて僕が駆け抜けるのを待っていてくれた。

 バタン!

 勢いよく扉が閉まる。

 ふうーっ、何とか間に合った。扉を背に、みんなヘナヘナと座り込んだ。

 すると、北側の闇の中から、コロコロコローっと戻ってきたのである。まるで母犬からはぐれるのを恐れる子犬のように、ボールが。

「あそこ、ちゃんと閉めてなかったの?」

「逃げるためのことを考えて、普通は閉めないな」

 ネズミ君の基本情報は、いつも遅い。

「どうなっちゃってるのよ?」

 と、鉄子。剛の女戦士の顔にも、不安の色が浮かぶ。

「う〜む、ボールを捨てても戻ってくるというか、要するに手から離れないとなると、これは要するにアレだな」

 要するにネズミ君は何かに思い当たったようだ。

「アレだ、要するに。呪いの一種だ」

「呪い!?」

 僕ら他の3人は、顔を見合わせる。

「ウン、だから、呪われた武器防具ってのは、アレだな。要するに、一度装備したら、それしか使えなくなるんだよな。例えば、兜だったら脱げなくなるとかさ。それを無理矢理脱がそうとすると、狂ったように抵抗したり、さっきの勇者みたいに体が動けなくなったりするみたいだぜ」

「僕、さっきボール持ってたよ。むしろ離してた方が自由に動けるんだけど」

 ネズミ君は難しい顔をした。要するにわからないようだ。

「う〜ん、新種の呪いかなんか?俺だって呪いに詳しいわけじゃないし。あ、あれじゃないか?こいつはバスケットボールなんだし、突いてきゃ自由に動けるんじゃないのか」

 なんとなく気づいたところがあって、僕は立ち上がった。言われたように、ダムダムとドリブルしながらちょっとその辺を歩き回ってみる。次にボールを持って、二、三歩、歩きかけた。予想通り、さっきのビイイーンがやってきた。

「うう〜、動けない」

「もっかい、ドリブルしてみなよ」

 と、ネズミ君。すると、また動けるようになった。

「やっぱりそうか。これは呪いのバスケットボールってことだ。ドリブルせざるを得なくなってしまうわけだ。普通に歩くことができなくなる」

「いや、おそらく」

 僕は心得顔のネズミ君を制して、またボールを持って歩きかけた。すると、やはりビイイーンと、あるところで動けなくなったのである。

「も、もしかして、トラベリング、ですか?」

 顔を上げると、不安そうな妙子の表情とかち合った。ウン、と大きく頷く。

「バスケットボールのルールに縛られるんだ。ボールを持ったまま動けるのは二歩までだ。三歩目を進めようとすると、動けなくなる」

「なんだ、そんなルールあったか?」

 訝しげなネズミ君。要するにこの人はバスケットボールが苦手なのだ。

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