エースは一味違い、スカートは翻る
僕が言うまでもなく、鉄子は自分で状況を見極めたのであろう。
武器は放り出して、飛んでくるボールを掴まえては、うりゃりゃりゃりゃと壁に放り投げていた。バシィっと掴まえただけでも、光を失ってしまうボールもあるぐらいだ。
僕も適当にハンマーをぶつけていく。足を狙ってきたやつには、蹴飛ばして返り討ちにしてやった。
「へっ、何だ、そういうことなら俺に任せておけって!」
敵が弱いとわかると、普段戦闘には参加しないネズミ君までが勢いづいた。出っ歯をキラーンと光らせて、足元のボールをシュート!
「だあっ」
って、あらあら。見事に空振りして仰向けにひっくり返った。
静岡出身だからって、みんながみんなサッカーがうまいわけではない。同じように、きっと大阪出身でも面白くない人や、沖縄出身でも泳げない人もいるのだろう。
ただ、ランプの平行だけは断じて失わない。勲章ものの照明係である。
「えいっ」
ネズミ君が撃ち漏らしたボールは、ゲンちゃんを抱いたまま妙子のかわいい足でちょこんと突かれて倒された。
おやおや、スカートであんまり足を振り上げると、勇者は期待しちゃうぞ。
ボコン!
「いでっ」
頭にボールが飛んできた。このぉ、ボールに言われなくったって、わかってるんだ!
「でえーいっ!」
僕はハンマーを振りかざして、ボールが密集している地帯へと走った。
「えいっ、えいっ、えいっ、えいっ」
こちらも何発となく体に当てられたが、お構いなしにやっつけていく。デメキンの硬い部分に限らず、柄、そればかりか膝と言わず肘と言わず肩と言わず、全身を凶器と化してバスケット軍団を蹴散らしていった。
ふうっ、それにしても多いな。さっきからちっとも数が減っていない気がする。新しいボールが穴から出ているのか?いや、そんなことないな。それより、いくら倒しても、倒したボールの数が変わらないような。
「勇者さんっ、このボール、一定時間が経つと、また動き出すみたいですぅ!」
鼈甲眼鏡の奥で冷静に状況を分析した妙子が、敵の秘密に気付いた。
そうか、なるほどな、じゃあ、だったらどうしたらいいんだ?
「あーもう、せからしっちゃ!たいがいにせんかーっ」
鉄子はそれまでちぎっては投げちぎっては投げを繰り返していたが、ついに業を煮やしたのだろう。強肩を生かして思いっきり遠投で投げ飛ばした。
するとトビウオのように宙を飛んだボールは、偶然にもゴールのバックボードに跳ね返り、バシュッとネットを揺らしたのである。
床に落ちたボールは光を失い、そのままゴール下に空いた穴に吸い込まれていった。
その瞬間、膠着していた例のものが、とうとう動いたのである。そのとき64:00を差していた壁の数字が、64:03に変わったのだ。
鉄子が仁王立ちしているのは、スリーポイントラインの向こう側。もしや。
だがその考えを仲間に伝える前に、さらなる意外な変化が現れた。数字が変わった途端、そのすぐ下に空いている小さな穴から、チャリンチャリンチャリーンと、落ちてきたのである。金色に光るものが、3枚。
「うおおっ、お宝ちゃん発見だあ〜っ!」
まるでニワトリを丸ごと与えられたハイエナのように、すぐさま富に飢えた盗賊が駆けつけた。
そうか、なるほどな。謎が解けた。ここはこういう仕掛けになっているわけか。
「みんな…」
「みんなよく聞け!こいつらはただ倒すだけじゃ駄目なんだ。ネットに入れれば、穴に戻っていくし、決めた得点の分だけ異世界ゴールドが出てくるっていう寸法だ!」
言いたいことを言う前に、先にネズミ君に言われてしまった。もう〜、そんな鬼の首を取ったように言わなくても、みんなわかってるよ。
「ここの右側の数字が俺たちの点だ!みんな、この数字の分だけゴールドが貰えるぞ!」
だから、わかってるってば。いたよなぁ〜、こういう、体育の授業でチームスポーツをすると、やたらと当たり前のことを大袈裟に言って威張りたがる奴。
どうせ次には、ゴールドは俺が集めるから、お前らはゴールをじゃんじゃん決めろと、こう来るんだろうなぁ、と思ったら、違っていた。今日のネズミ君は、一味違う。
「勇者、ランプ持っててくれ。鉄子!ボール取ったら俺にパスくれ!」
なんと、自らがこの作戦の中心に立とうというのか。言うだけでなく、自分が率先して火中の栗を拾いにいく。こんなリーダーなら、部下は付いていきやすい。
「了解、頼んだわよ!」
鉄子から矢のようなボールが飛んできた。
「ぶわふっ」
見事に顔に命中させてしまう我らがリーダー。
「なんで取らないのよっ」
「赤くなくしてからパスしてくれ!」
ボールを掴まえる要領を掴んだのか、鉄子が投げた球はまだ生きていた。
「面倒くさいわね」
仕方なく、掴まえたボールを一度床に叩きつけることに。これで光は消える。
「フワッと投げろよ、フワッと。思い切り投げるんじゃないぞ」
注文の多いポイントゲッターだな。
「いいから、ちゃんと決めてよ!」
今度は山なりのボールが渡った。さあ、次はエースの出番だ。
「おっしゃあ、俺はバスケは得意なんだ!見てろよ、俺のレイアップシュート!」
ネズミ君はバシバシとドリブルしながらゴール下に切り込むと、華麗にステップを踏み、ジャンプした。
右手を伸ばし、美しい姿勢を形作る。この瞬間だけ切り取ってシルエット化すれば、プロバスケットボールの商標イメージにも使えそうだ。ちょっと出っ歯が余計だが。
「あでっ!」
しかし、ボールはリングの枠に当たり、返す刀で彼の頭を直撃した。外さないなあ〜。
「くっそぉ〜、小学校のときはあれで入ったのになぁ」
心許ない根拠だなあ〜。まだ僕らは高校一年生だけど、既に小学生のときの能力など当てにならなくなっている。
「勇者さんっ、ちょっとゲンちゃん見といてくださいっ」
タタタタッと走り寄ってきて、妙子はゲンちゃんを僕に預けていった。
「鉄子さんっ、こっちにパス下さ〜い!」
「OK、妙ちゃん。行くよ〜!」
ワンバウンドのパスが渡り、妙子はドリブルで位置を調整した。フリースローライン付近でくるっと振り返り、ゴールを射程に捉える。
左約45度。そこが彼女のスイートスポットなのか?
「えいっ」
全身のバネを活かして、女の子がよくやるように、両手でシュート。綺麗な放物線を描いたボールは、見事にネットをくぐった。
「やったあ!」
スカートを翻して両手ガッツポーズ。おやおや、かわいらしさに参ってしまう。




