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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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173/206

球は転がり、点は入らない

「かかってきんしゃー、…いって、あれ?」

 勢いよく踊り込んでいった女戦士は、はたと足を止めた。

 遅れじと僕も入っていって、警戒して中を探る。が、何か異形の者が蠢いている気配はない。

「どうだ、なんかいたか?」

 ネズミ君がランプを手に入ってくる。東奥の壁が照らし出された。北奥の壁も。だが、南側にはぼんやりとした闇があった。

「続いているみたいだな」

 二ブロック続きの部屋なのだろうか?だとすると、外から見て二枚並んでいた扉は、同じ部屋のものであるということになる。そろそろと慎重に南に歩みを進めると、やはりそれは予想通りであった。南北二ブロックの部屋。だが、そこは北側半分とはまるで様相が違っていた。

「なんだこりゃ」

 ネズミ君のランプが南奥の壁を射程に入れる。その壁の上部に、僕らは不思議なものを発見した。

「バスケットゴール、だよな?」

 明らかに正解を言っているというのに、ネズミ君は語尾に疑問符を付けた。でもそれはバスケットゴールだった。見紛うことなき、バスケットゴールだった。バックボードを備えたバスケットゴールが、壁に掛かっていた。

 よく見ると、床には白線が引いてあった。フリースローラインに、更にその外側にはスリーポイントライン。確かそんな名称だった。僕はバスケットボールは体育の授業でしかやったことないけど、これでも保健体育の教科書はボロボロになるまで読み込んだから、良く覚えている(何か?)。

「何よ、ここも所謂一つのレクリエーション施設なわけ?モンスター用だか先生用だか知らないけど」

 と、鉄子。地下一階には同じようなものとしてスポーツジムがあったけど。

「あたし、スポーツするためにこの学校に入ったわけじゃないのよね」

 そうだ、そうだ。健全な女番長スケバンはスポーツなんて不健全なことはやらないのだ。

「まあ、待てよ。後ろの壁を見てみなよ」

 と、ネズミ君。ゴールからやや右側の壁に、何か文字が書いてあった。それは00:00という数字だった。なんだろう?ペンキか何かで書いたというより、そこだけ数字の形に発光しているような。魔法か?おまけに、そのすぐ下には、壁に小さな穴が空いていた。

「下にも穴があるね」

 壁が床と接するところにも、ダストシュートのような穴が開いていた。ちょうどゴールネットの真下に当たっていた。

「上にも穴がありますね。それも両脇に」

 妙子はまだゲンちゃんを抱いたままだった。首を左右に行ったり来たりさせながら、顎を上に向けている。

 彼女の目線を辿ると、この部屋の南壁上方の両角には、それぞれぽっかりと丸い穴が空いていた。両方とも人の頭より少し大きいぐらいのものだった。

 すると突然、ビイイィーッと、笛が鳴るような、けたたましい音がした。

「な、な、な、なんだあ!?火事か?」

 ネズミ君があたふたとしたせいで、ランプの光が揺れる。避難訓練では真っ先に逃げるタイプ。

 すると上方両角の穴から、シャーッと毒ガス、ではなく、ポポポポポンっと次から次へと飛び出してきた。バスケットボールが。でも赤く発光しているぞ。

 なんだ?本当にバスケットでもやらせる気か?それにしてはボールの数が多過ぎ。

「あでっ!」

「ひゃあ!」

「ミャン!」

 バシイーンと、ボールを顎にヒットさせてしまったのはネズミ君。倒れそうになりながらも、ランプの平行だけは守るところが凄い。

 妙子はゲンちゃんを抱えながらも、襲ってきたボールを器用に避けてみせた。

 やっぱり、ただのバスケットボールをやらせるつもりはないようだ。

「あ痛っ!」

 くうっ、僕もぼんやりとしてはいられない。背中にボールがぶつかってきた。

 ふと見ると、壁の数字が04:00に変わっていた。

「ちょっと、何よ!痛いじゃないの!」

 鉄子にも、四方八方からボールが飛んできている。

「あたっ、お尻を狙うなんて、反則よ!」

 これがボールに似たモンスターなのか、それとも魔法仕掛けのトラップなのか。いずれにせよ、こいつらはあからさまな敵意を持って僕らに襲い掛かっている。壁の数字は14:00に変わっていた。なんだ?時計じゃないよな?

「こんの、舐めくさりおって!おりゃあ!」

 僕らもやられてばかりではない。気合一閃、鉄子はアオダモの棒でフルスイングした。顔の正面に飛んできたボールを見事に薙ぎ払う。打撃の達人にしかできない、正面打ちだ。

 ボールはノーバウンドでサイドの壁にぶち当たると、力無くバウンドし、コロコロと転がって大人しくなった。おや、赤い発光をやめて、普通のバスケットボールに変わっているぞ。

 もしかして、そういうことか?

 それなら僕だって。

「てえい!」

 狙いすまして、デメキンのハンマーを衝突させる。

 ボイーン!

 重量あるものの一撃を喰らったボールは、派手に吹っ飛んで壁にぶつかった。やはり光を失って、普通のボールになっている。どうやらこれで倒せるようだ。

「いて!いて!いて!いて!何で俺ばっか狙うんだよ!」

 ボール軍団はネズミ君を集中攻撃していた。必死でランプと顔を守るが、脛にも腿にもバシバシと当たっていた。こやつら、バスケットのくせしてドッジボールの戦略を心得ていると見える。壁の数字は、28:00に変わっていた。

 あいててて!そうこうしているうちにも、僕の方にもボールは飛んでくる。ただ、当たると痛いことは痛いんだけど、そんなに怪我するほどでもない。普通に人が投げたボールに当たったような、その程度の痛みだ。壁の数字は32:00。もう一つ僕の足に当たって、34:00になった。

 あれ?当たると左の数字が増えるのか?だとしたら、あれはバスケットボールのスコアみたいなものかな?でも、右側が00のままなのは何でだろう。僕らが倒したボールはカウントされないのかな?

「あでで、あでで!くそっ、あっち行け!」

 苦し紛れにネズミ君がヒョイと伸ばした足に、飛んできたボールがちょうどぶつかった。蹴られたボールは、すぐに発光をやめて普通のボールになった。慣性の力でしばらく転がっていったが、床の摩擦力が上回ると、完全に止まった。

 やっぱりこいつらは、赤く発光しているときに襲ってくるようだな。

 それにしても、さすがはサッカー王国静岡出身。エゲツないキック力だ。ということではないな。

「えいっ」

 僕は飛んできたボールを、平手ではたいた。ボールはすぐに光を失い、敵意の呪縛から解けた。

 やっぱりね。ネズミ君が華麗にサッカーしてる姿なんて、想像がつかない。

「鉄子さんっ、こいつら弱いよ!」

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