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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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166/206

麒麟は行儀良く、猫は仲良し

「ふんっ、嬢ちゃんたち、感謝しろよ?俺たちはわざとあそこの宝箱に手を付けずにいてやってるんだからな」

 板東さんたちはネズミ君の顔を見て、ダハハハーっとお腹を抱えて笑った。

「なんだ、なんだ」

 よっぽど面白いものが見えたらしい。

「それよりお前らのパーティ、盗賊いないから、宝箱開けるの苦労してるら。持ってきたんなら、俺が開けてやってもいいぞ」

 鍵開けはできないが、ネズミ君には秘密兵器のノコギリがある。当初は学園まで持ち帰っていたが、今は湾曲した刃が宝箱上蓋カーブにぴったり当たる、高性能折り畳み式ノコギリを持ち歩いているから、ダンジョンで宝箱を見つけても安心なのだ。

 親切な申し出をしているように見えて、開けてあげる代わりに分け前に預かろうという魂胆が見え見えである。

 ところがギャハハ、と、また板東さんたちは大ウケ。このギャルたち無敵か。

「ああ、あれ?ウチら鍵持ってるから、楽勝だよっ」

「鍵?」

 板東さんはポケットから合鍵を出して見せてくれた。小さなリングに5本、合鍵が通してある。ネズミ君も同じようなものを持っているけど、彼のはもっとでかい。大きなリングにジャラジャラと30本以上は付いていたはず。

「購買部で売ってたの。ウチらゴールド小僧倒したじゃんね。そのときに色々と装備を整えたのよ」

「開くの?それで」

「5本のどれかで開くわよ」

 え、そ、そうなの?ネズミ君は一本一本試していったけど、どれも合わなかったけど。扉も宝箱も。

「な、なんだよ勇者、その目は。ま、まあ、素人用だな。俺のような本職の盗賊はプロ仕様の道具しか使わないから」

「へえ〜」

「そ、それよりお前ら、ここにはお前らみたいな女子ばっかの奴らが来るような用はないぞ」

 できれば僕らがここにいることも知られたくないものだ。

「ウチらサキュバスのお宝を狙ってんのよ」

「お宝?」

「馬鹿な男子から巻き上げた、お宝のこと。賀茂野さんって人、相当貢いでたらしいわよ」

 そんなことまでエッセイに書いてあったのか。

「簡単には渡してくれないんじゃない?」

「戦闘だったら、ウチら平気だもんね〜」

 ね〜、と顔を見合わせて、またギャハハハハ。鉄兜が転がっても楽しいお年頃だ。

「ウチらにはこれがあるのよ」

 ジャーンと見せられたのは、さっきのソプラノリコーダー。強そうな武器には見えないが。

「サキュバスは笛の音が苦手とか?」

「アハハ。違う違う。無学君、発想が豊かでウケる」

 ピーヒョロ〜と、また笛を吹き始めた板東さん。するとなんだか重いものを引きずるような音が聞こえてきた。

 ズズズズ…、ズズズズ…、ズズズズズズ…。

 背後の扉から入ってきたのは、長い長いキリンの首。首だけで蛇のように這って進んでいる。色は見覚えのある紫色だった。その先っぽには、やはり見覚えのある紫色の便器が。

「どわっ、便所キリン!」

 危機管理意識がダンゴムシ並みの盗賊が、慌てて女戦士の後ろに隠れて丸くなった。

「どこ見てんのよ!」

「うぐっ!」

 すかさず踵で蹴り上げられるが、大事なところに入ったらしい。おいたわしや。

「へっへ〜。驚かせちゃった?笛の音でキリンを操ってるのよ」

 また板東さんがピーヒョロ〜と吹くと、紫のキリンは天井に頭が付きそうになるくらいに直立して、お行儀よくお辞儀をした。

 首の根元を見ると、短い胴体があって、短い前足で便器に寄りかかりながら後ろ足立ちしていた。そうか、便器の中はこうなっていたのね。

「サキュバスなんて、キリリンが蹴散らしちゃうもんね〜」

 ふんっと、キリンは小さな腕で力こぶを作った。

「ウチら急ぐから。じゃね〜、無学君」

 そう言うと板東さん一行は、黒い壁の中に消えていった。彼女のピーヒョロ〜、という笛に合わせて吟遊詩人2人がタンバリンを振り、踊り子2人はペンランタンを揺らして。

 ズズズズ…、ズズズズ…。その後を紫のキリンが、便器を大事そうに抱えながら蛇のように這って付いていった。

 キリリン…、ねえ。

「あの紫のやつ。あたしたちが通ったときにはやる気なさそうな顔してたのに。こういうシステムになってたのね」

 と、キリリンを見送る鉄子。トイレ回廊を通ったとき、一匹だけ襲って来ない便所キリンがいたのだが、笛で味方に出来たのか。

「ってことは、俺の30ゴールドがあいつらの金になるってか。後でサイコロ勝負して取り戻すか?」

 と、ネズミ君。ネズミからサキュバス、サキュバスからキリリン、キリリンからロック少女へ。金は天下の回りものだが、やめておいた方がいいだろう。幸運とサイコロは同時に握れない。

「なあ勇者、俺たちもサキュバスのお宝を取りに行ったらどうだ。今日は照明奪われることもないだろうし」

「反対よ。あのキリンがモンスター引きつけてるうちに、とっととこんなとこ出ちゃいましょうよ」

 鉄子とはいえ、戦いたくないモンスターもいるのだ。

「とにかくここを抜けよう。予定通り壁伝いに全速前進」

 僕らは僕らで前に進む。闇の中ではただひたすらに光の一点を目指すことだ。金だの女だの、誘惑に心を奪われていてはいけないのだ。

 西向きにダークゾーンに突入する。黒い壁を2枚抜ければ、そこはダンジョン全体の左辺である(1.10)。西側だけ普通の石壁が見えていた。そこで南に向きを変えて、壁を右手に見ながら進む。

 王さんの話によると、壁沿いに真っ直ぐ進めば出られるということだけど。

「おや、出られたかな?」

 黒い壁を四枚越えたとき、どうやらダークゾーンを出たようだった。東側は依然として光を反射する闇の壁が屹立していたが、前方(南)はぼんやりとした暗闇だった。

 そのまま更に1ブロック前進すると、正面の壁に扉が現れ、東側はダークゾーンの壁が続いていた。

 つまりダークゾーンの中に(1.6)と(1.5)の2ブロックだけ、普通のブロックがあるのだ。

「サキュバス地帯は単純な長方形ではないってわけだな。おっ、妙子センキュー。ランプ戻してくれ」

 と、ネズミ君が妙子からランプを受け取ろうとしたときである。

 ピュッと、東側の黒い壁から、何か小さなものが飛び出してきた。

「どわっ、サキュバス…って、なんだよ、猫かよ。驚かせやがって」

 僕も一瞬、身構えたが、出てきたのは猫。黒猫だった。

「ふう、サキュバスサキュバスって思ってると、ただの猫でもサキュバスに見えちゃうな」

 確かに。その黒猫は、サキュバスのように見えなくもなかった。頭に、山羊のような捻れた角が小さく生えているし、背中には、コウモリの羽。尻尾の先は矢印に尖っている。暗闇で突然出くわしたら、サキュバスだと勘違いしても不思議ではない。

 いや…。このとき僕らはもっと基本的なことを疑問に思うべきだったのだ。

 なんで猫なんかが、こんなダンジョンにいるんだ?

「ミャオ〜」

 黒猫は甘ったるい声で鳴いた。

「ミャ〜ン」

 ゲンちゃんが反応した。尻尾をゆらゆらさせて近付いていく。

 鼻と鼻をツンツンさせる猫同士の挨拶をした後、黒猫はゲンちゃんの耳の後ろをペロペロ舐めてやった。ゲンちゃんは嫌がるそぶりも見せず、気持ち良さそうに舐めさせてやっていた。黒猫の方が少し体が大きい。こっちは成猫なのだろう。

「あら、ゲンちゃんったら、仲良しさんね」

「ゲンちゃんも大分大きくなったわね。そろそろかしら?」

「まだですよぉ。ゲンちゃんはまだまだ子どもですぅ」

 戯れ合う猫たちを微笑ましそうに見守る女子二人。彼女たちが目を覆うような事態には発展しない、か。


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