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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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道理は無理で、目的は無目的

 翌日、ザビエル暦六月第一週三日目。僕らはこの日から本来の目的に戻った。僕らにはやることがある。青春は長いようで短い。いつまでも現実逃避している場合ではない。早くダンジョンをクリアして、現実世界を抜け出して異世界に行かなくては。

 次に攻略する場所は地下二階の南側半分。先日チラ見しただけの、ダークゾーンへと突入することにした。

 地下一階西階段(3.13)から地下二階へ下りる。そこは(3.11)まで南北に3ブロック分の通路である。扉を開けて南へ進行(3.10)。そこから先は、どちらに進んでもダークゾーンだ。南、東、西の三方向とも、黒い闇の壁が聳え立っていた。

 その闇の前で、僕らは小休止した。

 ダークゾーンとは、そこだけ魔法で闇を存在させたものである。ランプの光であろうと魔法で生み出した光であろうと、ダークゾーンのある部分では真っ暗闇になってしまう。

 この場合、光は遮られているのではなく、障害物がない限り普通に直進している。

 だから、仮にダークゾーンの中にランプを置いたとしても、その外では通常通り光は届いているのだ。その部分だけ、光の上に闇が乗っかっているような感じである。これが僕らが既に経験済みのタイプだ。

 だが、ここのダークゾーンは、はたして同じと言えるのかどうか。黒い壁の表面は、まるで鏡のように光を反射している。だからランプの光が跳ね返って、通常よりもフロア内を明るくさせていた。

「じゃ、行くべか」

 ネズミ君はリュックを下ろして、中からロープを取り出した。

「ちょっとぉ、またそれやるの?」

 鉄子は露骨に顔を歪めた。

「そりゃそうだろ」

「嫌よ、あたし。もう電車ごっこなんかするのは」

 先日、地下一階のダークゾーンを通ったときには、パーティがはぐれないようにと、ロープを輪っかにしてその中に入って歩いたのであった。

「んなこと言ったって、暗闇で迷子になってもいいのかよ」

「ちょっと偵察してきてよ、あんた盗賊なんだし。ダークゾーンがすぐに終わってるかもしれないじゃない」

「その希望的観測はどこから来るんだよ。きっと大掛かりなものに決まってるら」

「それだって根拠がないじゃないのよ。今までのとは違うんでしょ?だったらすぐ終わってるかもしれないじゃない」

「一階にチョロっとしたもんがあったってことは、次は大したもんがきますよってことだろ」

 盗賊の言うことは至極道理である。問一、問二、問三とあれば、普通問二は問一の答えを踏まえているし、問三は問二の発展形だ。

 小学校のとき、俺は問三からやった方ができる!と意味のわからない豪語をした同級生がいたが、ちゃんと見えないところの繋がりを考えよう。

 義務教育は僕らを惑わせるためにあるのではない。教育するために存在しているのだ。

 今、僕らはダークゾーン問二の前にいる。このダンジョンの存在目的は何か?教育である。だとしたら、物の道理はこの陰険な顔付きをした胡散くさそうな盗賊にある。

「いーや!嫌!絶対に嫌よ!今度やったらもう二度と地元に帰れなくなる!」

 鉄子は頑として首を縦に振らなかった。学園の制服はブレザーだというのにセーラー服を着ているスケバンである。物の道理を理解させるのは無理なのも、また道理である。一方、僕の良識はというと、鉄子の方に軍配を上げた。

「電車ごっこしないで済むなら、その方がいいね」

「な!?勇者までそっちの肩持つのか?」

「わ、わたしもですぅ」

「ミャーン」

 猫を引いても4分の3を獲得した。憲法改正の発議だってできる。

「わかったよ、行きゃいいんだろ?でも、ダークゾーンが続いてたら、ちゃんと指定席に乗車してもらうからな!」

 短気なネズミ君はプリプリして南側の暗闇に入っていった。言葉の端から判断すれば、はぐれるのを恐れていたというより電車ごっこをやりたがっていたようにも思える。

 ランプを持ったまま、彼の体は暗闇に消えた。すると。

「わっ」

「ちょっと!」

 僕たち3人と一匹がいる方は、何も見えなくなってしまったのである。

「なんだよ」

 明かりが復活する。ネズミ君がこっち側に戻ってきた。

「いや、今、真っ暗になったんだ」

「どういうことだ?」

「ランプの光がこっちまで届かなかったんだよ」

 ネズミ君はちょっと首を傾げると、ランプを持った右手だけダークゾーンに突っ込んだ。途端に真っ暗になる。

「んを?」

 彼が手を戻すと、また見えるようになった。

「そういうことか…」

 ネズミ君は一人で何かを得心したようだった。

「どういうことよ」

 すぐさま短気な女戦士が情報の開示を求める。請求に対する回答は、少々雑なものだった。

「まあ、ついてきな」

 そう言うと、ネズミ君はパッとダークゾーンに入っていってしまった。また暗闇に包まれるこっち側。不親切であるが、でも彼はきっと、親切か不親切かの基準で行動していないのだろう。

 仕方なく、僕らもダークゾーンに入っていったのだが。

「んを!?」

「をををを!」

「をを〜…」

「ミャア」

「なんだよ、このパーティは。まともに喋れるの猫だけかよ」

 思わず目的語もないのに「を」の字を乱用してしまった。

 向こう側で待っていたネズミ君の姿を、僕らははっきりと目にすることができた。明るいのだ。部屋の中が。僕はてっきり暗いと思っていたから、これは結構な衝撃だった。

「それより後ろ見てみな」

 ネズミ君に促されて、僕らは後ろを振り返った。そこには真っ黒な壁があって、ランプの光を反射していた。

「どうやらこの光を反射するダークゾーンを使って、四方八方に薄い壁を作っているようだな」

 そこは1ブロック四方の部屋だった。言われたように、東西南北の全てが闇の壁で囲まれていた。

「カーテンといった方がいいか?ふ〜ん、こうなってたんだな。あれから異世界トラップ学の教科書をひっくり返して調べてみても、どこにも載ってなかったけど」

 異世界トラップ学は、勇者科のカリキュラムにはない。でも、学生がこう言うときは、大抵教科書に載っている。得手してテストが終わってから見つかるものなのだ。

「ほら、見なさいよ。電車ごっこする必要なかったじゃない」

 時には希望的観測が実現することもあるものである。

「おっと、喜ぶのは早いぜ。この先がどうなっているか、まだ決まったわけじゃないら」

 この人、どうしても電車ごっこがしたいのだろうか?

「どうする、勇者?まっすぐ進むか?」

 うーむ、と考えてみる。

「その前に隣を見てみようよ」

「相変わらず慎重派だな」

 ケケケ、と出っ歯を伸ばしてネズミ君は笑った。僕をからかいはするけど、彼にも異論はない模様。

 再びダークゾーンのカーテンを抜けて、元の部屋(3.10)に戻る。

「当然、西からだよな。お前らも来るか?」

「そうだね」

 石橋を叩いて渡るようだけど、一つ一つ潰していく。でも、元々世の中を悲観的に見ている僕とはいえ、ここまで慎重になる原因を作ったのはネズミ君だぜ?彼が暴走してゴールド小僧を追いかけていったときのように、パーティが分断されるのは二度とごめんである。

 で、一つ西のブロック(2.10)に行ってみたのだが。

「おっと。こっちもこうきたか」

 やっぱり、ダークゾーンの壁によって光が閉じ込められていたのだ。

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