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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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153/206

故郷は恋しくなくて、混沌は猥雑

 みんなストレスが溜まっていたのだろう。

 今夜は鉄子でなくとも、体のことを何も考えていないような夕食を取った。

「なあ、今週はもう休みにしようぜ」

「さんせーい!」

 猪突猛進型の二人が勝手に今後の予定を決めてしまう。深謀遠慮型の二人は意見を述べる機会すら与えられなかったが、いかにも学級会的である。

 僕と妙子、それにゲンちゃんを合わせればまだ多数決で勝つ可能性はあったが、無投票でネズミ氏の発言は承認された。

 そんなものだ。クラスで何かを決めるときなんて、民主制であったためしはないのだ。どこの学級であっても、一部の有力な生徒たちによる貴族政治が横行している。時に先生という絶対王政が介入することもある。

 それでも僕も異論がないので、パーティ議会は紛糾することなく、次の議題に移っていった。もっと身近で、切迫した問題である。

「どぅわぁ〜、ぢっがれだぁ〜。今日は食べるべ」

 ネズミ君は駿河湾近海で獲れた魚を揚げたミックスフライ定食に藤枝ラーメン。体が疲れれば揚げ物を食べ、心が疲れればラーメンをすする。ダンジョンで敵に囚われるというショックを癒すには、油分に塩分が最適だ。

「な〜んか、女子っぽいもの食べたい気分」

 そんな鉄子は、胡麻鯖定食に長浜ラーメン。博多美人は食事で作られる。なぜ富士山の麓にある高校の学生食堂で博多名物が食べられるかは謎であるが、これもノブさんマジックであろう。もちろん辛子明太子も欠かせない。

「栄養あるもの食べませんとっ」

 静岡、博多ときたら、妙子のメニューは名古屋名物しかない。そうきたらやはりきしめんか。いやいや味噌煮込みうどんということもありうる。あるいは妙子のことだから、エビフライをナイフとフォークで食べたりして。…って、ひつまぶしか。そうか。豪華すぎない?

「ムミュウ〜」

 ゲンちゃんもねこでんねんのマウス味に舌鼓を打っていた。この子は関西出身…ではなく、ペットショップだ。

 僕も心がざわざわしていた。こんなときにはやはり故郷の味が恋しくなる。

 慣れ親しんだ多摩川名産のザリガニを…。

 思い入れない。食べたくない。二度と食べたくない。

 あの身に詰まっているのは泥と悲しい思い出だけだ。

 結局、無難なところで親子丼を食す。

 一口食べたところで、親子関係にも悲しい思い出しかなかったことに気付いた。

 いいんだ、食事なんて所詮は殺生だ。命を奪われた悲しみを口に運ぶ行為なんだ。

 食後はみんなで暖かい静岡茶を飲んで、ほっと一息ついた。


 みんなと別れて、寮の部屋に帰って一服する。

 ふう、長い一日だった。午前中はパンを作ったし、午後はあわやイカの餌にされるところだった。

 オチムシャソウの滋養強壮効果がなかったら、途中で倒れていたかも。

 冗談はさておき、ベッドに横になって今日見聞きしたことについて、思いを巡らせた。

 できれば疑問点を全て解決してから帰ってきたかったけど、まあ致し方ない。

 いろんな新しい情報が入ってきて、今まで持っている情報と噛み合わないところがあった。

 ちょっと整理してみよう。

 まず、ダンジョンには、保育所のようなものがある。今日僕たちが行ったのは、そういうエリアだ。

 このエリアは、通常学生たちが侵入するエリアとは分けられている。隠し扉を開けなくては入れないのだ。

 じゃあ、一体誰がそんなふうにしたのかといえば、おそらくこれは蛭孤丸の父親、ダンジョンのボスの仕業であろう。

 シルバーフィッシュは、モンスターは学園の管理を受けていないと言った。彼の話をどこまで信用していいのかわからないが、学園はモンスターを、あくまで生徒に()()()()()()にダンジョンに住まわせている。であるならば、子供を育てるために何かしようとは考えないはず。

 だが、ダンジョン生活が長くなったモンスターには、別の問題が生じた。ダンジョン生まれの二世モンスターの誕生だ。それが蛭孤丸であり、コボルトたちであり、ヒポポタマス・ニニョスなんかだ。

 おそらく彼らは異世界に行ったことがない。もちろん地上にも出たことはない。この世に生を受けて以来、ダンジョンの闇だけを見て育ってきた。

 だから蛭孤丸は学園を知らなかった。たまたまマルクス寺院の人間が宝箱を奪ったりしているのを見て、仕返しをしようと思いついた。

 ネズミ君から聞いた話によれば、宝箱は放っておけばダンジョンにかけられた魔法によって、また復活するということだった。だが、蛭孤丸は違うことを言っていた。

 彼曰く、ボスの手下のモンスターがゴールドを詰め直している、という。

 ここのところをシルバーフィッシュに確認しておきたかったんだけど、そういう雰囲気ではなくて聞けなかったんだよな。

 どっちなんだろう。ちんぶり商店ダンジョン支店の店員のカッパみたいなモンスターが、次は何ゴールド入れよう、とかって働いてるんだろうか?それとも、あのカッパは学園のスタッフかな?それか、ロピックみたいな電子系のモンスターとかが、ボスの指令を受けて動いているとか。

 ダンジョンのボスというのも、どんな存在なんだろう。

 蛭孤丸はいわゆる九尾の狐というやつではなかろうか。だったら、ボスもそれかな。シルバーフィッシュは、ボスは元々、ある異世界における神だったと言ったよな。

 だとしたら相当強力なモンスターだと思うけど。そんなのを倒して僕らは異世界に行くんだろうか?

 よく考えたら、みんなボスを倒して異世界に行くんだから、ボスは生徒に倒される回数が尋常じゃないよな。モンスターの死生観というのは人間とは違うのかもしれないけど、いくら復活するとはいえ、それはちょっと辛い仕事だよなぁ。

 そんな存在が、わざわざ部下に命じて宝箱のメンテナンスをさせるかな?きっと学園に無理矢理連れてこられて、ダンジョンの最深部に縛り付けられたんだろうし。学園を恨みこそすれ、協力しているというのは変だな。

 そのボスがいるのと同じ地下六階に、マルクス寺院がある。これもシルバーフィッシュがチラッと言ったことから判断すれば、ボスはマルクス寺院の存在を知っている。おそらく彼らの活動の内容を知っていて、黙認している。

 ボスからしてみれば、自分たちの生活の場を荒らされるというのは好ましいものではないと思うが、どうなんだろう。

 学園とマルクス寺院との関係も謎だけど、ボスと寺院との関係も謎だな。

 それを言うなら、ボスと学園との関係もあるか。

 どうやらここには、学園と寺院とモンスターの三角関係が存在しているようだ。

 ダンジョンは学園が造って、モンスターは学園が呼び寄せたものだけれど、全てを学園が管理しているわけではない。学園は天地創造をした神ではあるけれど、その後は被創造物の自由意志が働いている。

 待てよ、ダンジョンにいるのは、学園が召喚したモンスターだけなのかな?丸楠だって異世界からやってきた疑惑があるし、ボスはボスで仲間を呼べたりしないのかな?勝手にやって来ちゃうようなモンスターもいたりして。

 その辺、どうなっているんだろう?う〜ん、ややこしい。この混沌とした感じは、まるで喧騒と猥雑さにあふれた、アジアの港街のようだ。

 おまけに、実のところ僕たちには関係ないっちゃ関係ないんだよな。どんな裏事情があろうと、僕らの目的は異世界に行って、異世界を救うことなんだから。

 敵として現れれば敵。シルバーフィッシュの言った言葉を思い出す。仮に本来友達になれたとしても、そのとき敵なら倒さねばならない。

 そんなことをいろいろと考えているうちに、その日は眠りに落ちていった。

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