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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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144/206

狐は偉くて、犀は怖い

 魔人はどうやら少年が持っている、豚の貯金箱みたいなものに吸い込まれたらしい。鼻の部分が蓋になっているようだ。

 偶然にも九死に一生を得たような状況だが、そう信じていいものか。

 その少年、背格好は小学校の高学年ぐらい。着流した群青色の着物、一見すると大きな七五三のようにも見える。足元は素足に雪駄履きだ。

 全体的な印象や見た目の雰囲気が少年めいているから、少年と言ってしまうけど、日本中どこを探しても、こんな少年はいないに違いない。

 突き出た鼻先。頭の上で尖っている二つの耳。着物から覗く肌は、よく実った小麦畑のような黄金色した毛並みで覆われていた。

 狐だ。少年みたいな狐?狐の少年?が、なんだか偉そうにふんぞり返ってこちらを見ている。

 化け狐か。僕は筋肉猫を思い出した。あれは化け猫だな。

 狐の少年の後ろには、似たような顔のモンスターがぞろぞろ控えていた。その数、一、二、三…、たくさん。

 背丈はこの少年よりも頭一つ分低いか。毛並みはもっと黒っぽい。こっちはみんなお揃いの、青藤色の法被に白い鉢巻。足元は裸足。顔は狐ではなく、こいつは犬だろう。

 犬面人体の化け物。逆人面犬、じゃなくて、コボルトだ。異世界生物学の教科書でも最初の方に出てくる、異世界ではお馴染みのモンスターだ。

 教科書のイラストよりも、顔が幼く見える。手に手に棒っきれを持って、僕らを睨みつけていた。おそらく精一杯の怖い顔をしているのだろうが、それでもなんかなごむような印象がある。きっとまだ子供(子犬?)のコボルトなのだろう。よく見ると、棒の代わりにランプを持ったコボルトもいた。

 コボルトたちは、サッと扇型に広がり、僕らを取り囲んだ。

 もし敵が彼らだけだったら、僕らは戦いを挑んでいたかもしれない。霧の魔人さえ抑えれば、なんとかなるのではないか。

 だが、狐の少年に付き従っていた残り二体のモンスターは、僕らに戦意を喪失させるに十分だった。

 一体は筋骨隆々の牛の化け物。身長は2mはあろうか。以前ちんぶり商店ダンジョン支店の店内で見かけたこともある、ミノタウルスだ。あのときは買い物中で丸腰だったが、今は赤いシングレットに、バカでかい両刃の戦斧を装備していた。

 もう一体は初見だが、背格好はミノタウルスとよく似ている。サイの頭の化け物で、こちらも負けず劣らずガチムチ。まるで筋肉の実物標本だ。こっちは青いシングレットに、身長と同じぐらいの刺又を手にしていた。

 どう考えても、この二体に喧嘩を売るのは得策ではない。一難去ってまた一難、か。

「つまらない気は起こさないようにね」

 偉そうな狐の少年は、ポンポンと豚の入れ物を叩いて言った。

「君たちが大人しく従うというのなら、手荒な真似はしないよ。でも、抵抗するというのなら」

 スッと、ミノタウルスとサイのモンスターが前に出る。う、すごい威圧感。この二体だけで一個小隊分くらいの戦力がありそうだ。

「わかった。話し合おう」

 僕は言った。鉄子にも武器を下ろすように仕草を送る。

 狐の少年は僕らの後ろを見て言った。

「ロピック、ご苦労さん」

「ロピック、ゴクロウシタ。ロピック、シゴトシタ。ロピック、エライ」

 ロピックは誇らしげに目を緑に明滅させた。

「ムッ、こいつ、こいつらとグルだったのか」

 今さら気づいたようなネズミ君。だからサイレンが鳴ったときにやばいと思ったんだ。

「君たちは僕についてきてもらおうか」

 狐の少年はクルリと僕らに背を向けると、雪駄をチャカチャカ言わせて、玄室の入り口へと向かった。ロピックもピピピピと電子音をさせて、後をついていく。やっぱり下に車輪が付いているようだ。

 しかし、この少年、と思う。彼の着物は、お尻のところに穴が開いていた。そこからフサフサした尻尾が出ていたのだが、数が多い。瞬時に正確な本数は数えられなかったが、僕の頭にある名称が浮かんだ。

 九尾の狐。

 日本の妖怪の中でも屈指の妖力を持つという妖怪。

 突っ立ったままじっと見ていたら、コボルトたちが棒で僕らのお尻を突いた。

「イテッ。手荒な真似すんなって」

 ネズミ君が拳を振り上げたが、その手はサイの化け物にはっしと掴まれた。

「す、すいませんっ。へっへへ…」

 ニュウッと歯を出して気持ち悪く笑う。

 玄室を出たところ(7.16)で、狐の少年は、ランプ持ちのコボルトとともに待っていた。

 あれ?さっきはなかったのに、北側に扉がついている!?

「ふふ、驚いてるね。隠し扉だよ。君たちには絶対に見つけられないだろうけどね」

 狐の少年は扉を()()()()()

 そのまま、まっすぐ進み、両側に扉があるところを左。正面の扉を開けて、少し行ったところで今度は右。再び右で扉をくぐって今度は左。

 なんとか把握しようとしていたが、途中で分からなくなってしまった。扉と短い通路の連続だった。見たところ一つの通路には、何枚も扉が付いていた。僕らはその後も何度も向きを変えて、何枚もの扉を開けて、奥深くへと連れられて行った。

 チラと妙子を見たが、彼女もマッピングをしている余裕はなさそうだった。興味津々で覗き込もうとするコボルトたちから、怯えるゲンちゃんをかばうので精一杯だった。

 そのうちにしばらく長めの通路を歩き、突き当たりの扉をくぐると、玄室に出た。入り口以外に、扉はついていない。

「しばらくここにいるんだ。君たちの処分が決定次第、戻ってくる」

 と言って、狐の少年はロピックとコボルトたちとともに部屋を出ていった。

「お、おい、待てよ!俺たちは話し合っ…、ひぃっ」

 食ってかかろうとするネズミ君の胸の前に、サイ頭が刺又を突きつけた。

 彼はふらふらと二、三歩下がって、ストンと尻餅をついた。

 最後にミノタウルスがギロリとこちらを睨めつけて、バタンとドアを閉めて出ていった。

 ガチャリと、外側から鍵をかけた音がした。

「話が通じる相手ではないわね」

 そう言ったのは意外にも鉄子だった。ふう、とセーラー服の袖で額の汗を拭う。彼女もあの二体の剣呑さを感じていたらしい。

「俺たち、この状況ってば、捕まってんじゃないか?」

 ネズミ君は完全に正しいと思う。

 ダンジョンの奥深くに連れてこられ、狭い部屋に閉じ込められている。()()の決定を待って。

「ねえ、ここってこんなに危険なダンジョンだったの?」

 鉄子が眉間に皺を寄せる。

「別に学園の先生たちが見張っててくれるわけではないからな」

 そっけなくネズミ君が答えた。

「でも、毎週休養日にはメンテナンスするんだよね?」

 と、僕。最悪、今週六日目には助け出されるのかと思ったりもして。

「一応、業者がな」

「業者って」

「人間がノコノコ入っていくわけにはいかないから、モンスターのな。見たことあるだろ。ちんぶり商店にいたカッパ。ああいうやつとか」

 そう言われてみれば、至極当然か。何で今までそういうこと考えなかったんだろ。想像力が欠如しているのだろうか?妄想ぐらいしか遊ぶことがなかった子どもだったというのに。

「先生たちには報告行くけどな。そうなった場合は」

 そうなった場合、か。生徒のものとおぼしき白骨が見つかりましたってやつか。

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