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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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143/206

猫はタマで、四字熟語は百花繚乱

「ふんぬ〜っ!」

 ネズミ君は渾身の力を込めてロピックを押した。だが対するロピックも、負けてはいなかった。

「チャーーージ!」

 ディスプレイにCHARGEの文字が表示される。また目が赤く明滅した。動かされまいと、踏ん張っているようである。

 チャッ、チャッ、チャッ。チャッ、チャッ、チャッ。チャッ、チャッ、チャッ、チャッ、チャッ、チャッ、チャッ。

「チャーーージ!!」

 画面の文字が激しく点滅を繰り返した。

「お前ら、どっちの応援してんだ!」

 ネズミ君は顔を真っ赤にして、恨めしそうに僕たちを睨んだ。

「画面から音が鳴ってるだけだよ」

 ロピックには精神力自己供給機能がついているようだ。

「どうするの、勇者さん?」

 やる?というように鉄子が僕を伺った。これがある限り先には進めない、か。

「手伝おう」

 仕方なく、僕と鉄子もロピックに手をかけて、反対側から引っ張る。

 すると、ビィーッ、ビィーッとサイレンのような音が鳴り、ディスプレイにDANGERと表示された。

「キケン!キケン!シンニュウシャアリ!シンニュウシャアリ!」

 ロピックの目は明滅をやめ、赤いビームのような光を放った。

 やばいか、これ?

 ネズミ君、やめよう、と言いかけたそのとき。

「フミャオア〜〜〜!!」

 それまで大人しくしていたゲンちゃんが、激しくわめいた。毛が逆立っている。

「ゲ、ゲンちゃん!?どしたの!?」

 見ると、妙子のまわりで、黄色い霧のようなものが発生していた。

「妙子さん、危ない!」

 咄嗟に危険を感じて、叫んだ。が、間に合わず。

 ドンッ!と何かに弾き飛ばされるように、妙子が僕の方に飛んできた。

「きゃっ!」

「うわっ」

 衝撃を感じて、ドーンと後ろに倒れ込む。なんとか頭を打つのだけは免れた。

 痛い?いや、柔らかい。倒れた背中に感じる床ではなく、体の前面が。

 妙子が僕の胸に飛び込んできて、一緒に倒れている。

 これはもしや、僕の顔についているのは!

「ゲンちゃん、大丈夫!?」

 まさしくゲンちゃんのゲンちゃん。くぅ〜。

「こんな大物が隠れていたとはね。図体でかいくせして、タマはちっこいじゃないの」

 鉄子は既に新たに出現した敵をロックオンしていた。ちっこかろうがでかかろうが、顔につくのは勘弁願いたい。

 こいつは確か見覚えがある。異世界生物学の授業じゃまだやってないけど、結構ページの終わりの方に出てくる。

 だるま弁当のようなでかい顔。太い首に盛り上がった肩、太い腕。胸板は厚く、腹筋は金の延べ棒みたいなものが六つ連なっている。

 腰から下は濃い黄色の霧状になっており、足らしきものははっきりとは見えない。筋骨隆々な上半身が、黄金の霧に乗って宙に浮かんでいるようにも見える。

 デカいな。頭は2m以上のところにあった。

「さしずめ空飛ぶホーガンってとこね」

 鉄子が低く呻いた。

 霧の魔人。確かそんな名前だった。こんな浅い階に出てくるのか。超重量級のパワーを持ちながら、体を自由自在に霧に変身させることができる恐ろしい魔物。出会うのはもっと先だと思っていたけど。

 弱点は…、なんだったっけ。ちぇ、せっかく予習したのに、肝心なところを覚えていない。

「えれえもんが出てきやがったな」

 ネズミ君はロピックを押すのをやめて、床に置いたランプを拾い上げた。

「問答無用!先手必勝!一石二鳥じゃあ!」

 言葉の意味は支離滅裂だが、一騎当千の女戦士は勇猛果敢に霧の魔人に襲いかかった。

「喰らえ!単刀直入!」

 えいやっとアオダモの棒を振り下ろす。一知半解とはこのことだ。

 だが、鉄子の攻撃が当たる瞬間、敵は曖昧模糊とした霧に変身し、棒は手応えなく素通りした。

 シュルシュルと黄色い霧の塊は移動し、今度は少し離れた場所で実体化を始める。

「この卑怯者!八方美人か!」

 厚顔無恥とでも言いたいのだろうか?でも、そんなこと言ったって相手はプロレスラーじゃないんだから、正々堂々と戦ってくれるわけではない。

 僕はデメキンのハンマーを両手で持って、霧が固まりつつあるところへと走った。この妖怪変化め、魑魅魍魎め。実体化した瞬間を狙って、目の飛び出るような一撃を喰らわしてやる。

 ブンっと振り回す。ガキィイーンと、金属同士がぶつかる硬い音が響いた。

 グッ!

 目が飛び出そうになったのは、僕の方だった。危うくハンマーを落としかける。

 今度は魔人は、避けもせず、霧に変わりもしなかった。デメキンは確実に魔人の肉体を捉えた。腹筋と正面衝突したというのに、敵は余裕綽々で僕を見下ろしていた。魔人の体には、なんの跡もついていない。

 くっ、なんたる堅忍不抜。

「おわっ」

 ドーンと胸を突かれて、僕はピンボールのようにコロコロと転がった。

 いや、丸太のような腕で突かれたわけではない。デコピンの要領で、指だけで弾き飛ばされたのだ。

「隙あり!」

 猪突猛進、鉄子は思い切りジャンプ。大上段にアオダモの棒を構える。

「チェストォオォ〜〜〜!!」

 薩摩示現流か。出身地が行方不明のこの九州女児は、九州のものならなんでもありか。

 だが全身全霊を込めたその一撃は、いともあっさりすかされた。また霧になって、雲散霧消してしまったのである。

「だああ!」

 ターゲットを失って、ダンッと着地する鉄子。だが彼女の後ろで、すぐに実体化が始まっていた。今度は大きな手のひらの形に。それがひゅっとハエを払うような仕草をした。

「ふひゅっ」

 簡単に飛ばされる鉄子。実力差がありすぎる。あっという間に青息吐息だ。

「へ、変幻自在かよ!」

 なんか知らんが、ネズミ君が参戦してきた。

「せ、戦々恐々ですっ」

 妙子まで。

「ニャン、ニャン、ニャニャ、ニャニャ!」

 ゲンちゃん。無理するな。

「くう〜っ、魔血万事まぢまんじだわよ!」

 鉄子はある意味、首尾一貫している。

 ネズミ君の言葉通りに、霧の魔人はまた姿を変えていった。5本の指の間隔が離れていき、ヒトデのような星型になる。一本一本が薄く平べったく広がり、羽根みたいになった。

 それが入り口を扉の手前まで下がると、ブーンと勢いよく回転を始めた。これは…、扇風機?

 ゴオオオオ!と、強い風が吹きつける。

「おあっ」

「きゃあ!」

「ミャウ〜!」

 うぐっ、なんて強風だ。扇風機どころじゃないぞ。まるで台風の中にいるみたいだ。動けない!

 くっ、息をすることすら辛い。まさに絶体絶命!

 このまま一網打尽にされてしまうかと思われたそのとき、まさに青天霹靂なことが起こった。

「よ〜しよし、いい子だ、マンジン。そのくらいでやめるんだ」

 少年のような声が聞こえる。人影?誰か部屋に入ってきている!風はまだ傍若無人に吹き荒れていた。

「さあマンジン、戻っておいで」

 風は一向に収まらない。

「マンジン、マンジン!やめるんだ!」

 マンジンって、魔人のことか?馬耳東風だな。

「えーい、こうなったら実力行使だ!」

 少年らしき人影は、手に持っていた壺のようなものを掲げた。すると、シュルシュルシュル〜と、魔人は強制的に霧に戻されてその中に吸い込まれていった。黄色い霧が全部入ってしまうと、パタンと蓋が閉まった。

 うん?この蓋、豚の鼻?

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