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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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142/206

背負い袋は高級志向、恩恵は届かない

 念のため、ダンジョンに潜る前に保健室に行っておいたが、毒消しの魔法は必要なし、と診断された。

 本当に大丈夫なんだろうな。

「お、勇者。今日は顔色いいな。なんかいいことでもあったか?」

 午後2時。ダンジョン入り口でネズミ君に会う。

「昼に食べたものが滋養強壮によかったみたい」

「おまたせ〜」

 いつものように女性陣が遅れてくる。

「おせえよ」

「あれ、妙子さん、カバン変えた?」

 妙子のバッグが、いつものトートバックからリュックサックに変わっていた。やっぱり例のモノグラムがついていたけど。

「はい。新しいのを実家から送ってきてもらったんです。両手が使えるので便利です」

 よっこらしょと、ゲンちゃんを抱き上げた。

 だいぶ大きくなったもんなぁ〜。子猫だとばかり思っていたけど、あっという間だな。

「じゃ、行こうぜ」

 ネズミ君はランプに火を入れ、僕らは地下へと降りていった。

 (3.13)の階段から地下二階に下りて、便所キリンのひしめくトイレ回廊に侵入する。

 次から次へと襲って来るキリンをかわして、通路の終点(6.16)へ。紫のキリンは今日も少し顔を覗かせただけで、眠そうに戻っていった。

 一応、彼の生存確認が取れただけでもよしとするか。別に攻撃範囲には入っていないけど、茶色のキリンを見るのが悲しいので、さっさと扉を開けて向こう側(7.16)に出た。

 扉の向こうは、南北どちらかの方向に行けるようになっていた。おそらく通路であろう。北を選ぶと、すぐに1ブロック北(7.17)で行き止まり、東に扉が付いていた。

「行くか?」

 ネズミ君が僕を振り返り、確認する。

「行こう」

 と、僕。女性陣二人も頷いた。

「よし。でも気をつけろよ。俺様の盗賊の勘が、ここには何かがあると告げているぜ」

 それはあまり当てにならないが、通路の次には玄室が待っている可能性が高い。であれば、モンスターが襲ってくることも考えねば。

 妙子はマッピングノートをリュックの外側のポケットにしまって、緊張した面持ちでゲンちゃんを抱き上げた。

 まだ見ぬ敵と遭遇するかもしれないこの緊張感は、慣れることはない、か。

「心配いらないわ。必ず愛は勝つ!」

 鉄子はアオダモの棒を構えると、目を細めて先っぽの真実の愛の焼印を眺めた。

「よし、行くよ!」

 僕は一気に扉を手前に引いた。

「愛の戦士、参上ーっ!」

 愛の名の下に破壊行為を行う少女がなだれ込み、威嚇するようにブンブンとアオダモの棒を振り回す。新しい愛棒は既に彼女の手にしっくりと馴染んでいるようだ。

「ちっ、何もいないわね」

 僕らも続いて部屋に入っていく。思ったとおり、ここは玄室だった。だが、鉄子のお目当てのものはいないようだ。

「フゥーッ!この殺気をどこにぶつければいいのかしら」

 一緒にいる時間が長くなってきたが、根本的に鉄子は危ない人間であることに、改めて気づく。

 中は本当に何もないのだろうか。調度品のようなものは見当たらない。盗賊の勘は外れたか、と思ったけど。

「おっと。やっぱりなんかあるな」

 玄室の奥の西壁には、さらに奥に行けるような扉がついていた。でもその扉の前に、白く光る見慣れない人が立っている。

 いや、こんなところに人がいるわけはない。つるんとした頭に、虚ろな空洞のような目、締まりのないおちょぼ口。ボディも全体的につるつるしている。身長は僕の胸までしかない。

「モンスター!?いや地底人!?」

 警戒して鉄子がさっと棒を構える。

「待て待て。これ案内ロボットだぜ」

 それをネズミ君が制した。

「案内ロボット?何よそれ」

「駅とかで観光案内したり、ショッピングモールで店の案内をしたりするやつさ」

「なんでそんなのがここにあるのよ。ダンジョンの案内でもしてくれるわけ?」

「いや、そいつが扉の前にあるってことは、これが扉を開ける鍵になっているということだろう」

 ネズミ君はハエが手をすり合わせるように、スリスリと両手をこすった。いっちょう仕事してやろうじゃないの、といったところか。

「えーと、どっかにスイッチがあると思うんだけどな」

 ネズミ君はロボットの周りを点検し始めた。あんまり彼も詳しいことはわかっていないようだ。

 よく見ると、ロボットの足は二本に別れていなかった。土台のようなものに乗っているだけだ。裏に車輪でも付いているのかな。

「胸のところにパソコンみたいなものがあるけど?」

 僕もちょっと興味がわいてきた。

「ディスプレイさ。これに地図とか表示されるんだよ。それをスマホに送信できたりしてな」

 ふうん、そうなのか。便利な世の中になったものだな。でもその恩恵が僕のところまで回ってこないのは何故だろう?

 今、ディスプレイには何も表示されていなかった。

「ウチのテレビは叩けば映るようになるんだけど」

 鉄子はアオダモでコンコンとロボットの頭を叩いた。

 すると突然、ロボットの目がチカチカと赤く明滅した。

「イタイ、イタイ、ヤメテ」

「ぅわっ、喋った」

 ギョッとして鉄子は棒を引いた。

 ヴィーンン、という音がして、ディスプレイに光が点った。

「スリープ状態になってたのが動いたようだな。悪い、悪い、堪忍してくれよ。パーティに乱暴者がいるんでな」

「乱暴者って何よ!」

 人間ってのは、自分のことが一番見えていないものなのだ。

「ランボウ、ユルサナイ、ランボウ、ユルサナイ」

「もうしません。ごめんなさい」

 ネズミ君はディスプレイに向かって諭すように、ゆっくりと発声した。

「ユルシマス、ユルシマス」

 目の赤い明滅が消えた。ディスプレイには、OKという文字が表示されている。

「音声認識なんだ。誰かさんと違ってロボットは素直でいいね。話せばわかる。うん、ここは俺に任せとけって」

 ネズミ君はこっちを見て、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。陰険な鼠顔の彼がやると、何か企んでいるようにも見える。

「こんにちは」

「コンニチワ。ワタシハ、ロピックデス」

「ロピック君、こんにちは。僕は盗見栄一郎です」

「コンニチワ、ネズミクン」

「なんだこいつ」

 ちゃんとしてるな、このロボット。

「ロピックデス」

「わかった、わかった。ロピック、扉を開けてください」

 また、ゆっくりと言う。

「ワタシハ、ロピックデス。ネズミクンハ、トビラヲ、アケレマセン」

 ディスプレイには、LOCKと表示された。

 凄いな、このロボット。なんでネズミ君が鍵開けできないことを知ってるんだろう。

「ネズミ君は、扉を開けられます!」

 彼は憮然として言い放った。ネズミという部分は認めるのか。

「で、す、が。この扉は、ロピックが開けます。扉を、開けてください」

「ワタシハ、ココヲ、ドキマセン。ワタシハ、ロピックデス。ネズミクンハ、トビラヲ、アケレマセン」

 ディスプレイにはNGと表示された。

「くぅ〜っ!いいもんねー、だ!強引に動かしちゃうもんねーっ」

 ネズミ君はランプを床に置くと、ロピックの横にまわり、実力行使に出た。話のわからないロボットのようであるな。

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