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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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133/206

愛は見つかり、別れは不条理

「倒れながら、わらわももう駄目だと思いました。ガマグチ様はウーパールーパーの下敷きになってこの物語はバッドエンドで終わる。そう思ったのでございます」

 でも終わらなかった。隊長は復活し、ウーパールーパーもどこかに消えてしまった。

「ですが、そこで奇跡が起こりました。岩と岩の隙間の、一番窪んでいるところにガマグチ様がいらしたため助かったのです」

 ふむふむ。それで?

「ウーパールーパーの顔面が岩に遮られて、ガマグチ様の体には衝突しなかったのでございます。ただし唯一、唇の先端だけが、ガマグチ様の体に触れました。そのう、ガマグチ様のカウンターパートに」

 また、ポッと顔を赤らめた。

 なんで急に英語になる?まあ、言いづらいっちゃ言いづらいけど。

 要するに、唇のカウンターパートってことは、そっちも唇なわけで。唇と唇が触れ合ったっていうわけだ。こら、ネズミ君。露骨に嫌な顔をしない。

「で、おわかりでしょう?古来よりカエルの口吸いには不思議な力があると。皆さまの世界にも、お姫様がカエルの口吸いを受けて素敵な王子様と結ばれる話が、伝わっていることと存じます」

 カエルに変身させられた王子がお姫様のキスによって元に戻る話のことか?

 いや、それより口吸いって。

 そここそ英語にしてくれないと卑猥な感じになるのだが。

 要するに、偶然にもガマグチ隊長とキスしたことによって、ウーパールーパーの姿から元に戻ったということで、いいのかな?

「ケロケロ。ひながキスしてくれなかったら、僕は一生眠り続けているところだったよ」

「まあ、ガマグチ様ったら。ぽっ」

 呼んでいいと言われたからって、もうひな呼ばわりか。それより睡眠薬を盛ったのはこの人だぞ。

「ところでおっさん。そもそもは人喰いウーパールーパーに芸を仕込みにいくんだったよな。そっちの方はどうなったんだよ」

「芸?それはまあ、既に終わったようなもんだケロが」

 隊長は意味ありげに雛野さんを見た。恥ずかしげに見つめ返す雛野さん。

「ひな。思えば僕の人生はこの瞬間のためにあったような気がする。そのために僕は探検を続けていたんだ」

「ガマグチ様…」

 ブチューッと、二人は熱い口付けをした。人目も憚らず、ブチューッと。

 今度は露骨に嫌な顔をしたのは、僕だった。

「プハァ、ハァ、ハァ。仕込んだよ。芸をね」

 ……。

 芸=キスのことだった、という解釈でよいのだろうか?

「妙子さん?ガマグチ探検隊シリーズって、いつもこんな感じなの?」

「こ、この回だけ特別だと思いますっ。い、いつもは、もうちょっと健全ですぅ」

 やっぱり絶版になるだけのことはある。

「ねえ、ってことはさ、もうクリアでいいのよね?アタシたち、帰れるの?」

 半信半疑といった鉄子だが、一瞬前までウエーッてなっていたことを僕は見逃していない。

「ケロケロ。君たちよく頑張ってくれたね。おかげで目的は達成されたし、僕は真実の愛を手に入れることができた。これでガマグチ探検隊シリーズもおしまいだよ」

「えっ!?終わっちゃうんですか?私、てっきりまだ続いているものだと」

「妙子ちゃん、子供の頃にガマ探を読んでくれてありがとう。これでちょうど百冊目になるからね。長く続いているシリーズの宿命だよ。ストーリーが終わるより先に、子供たちが僕の読者を卒業していく。活躍を最後まで見届けてもらえないのは残念だけど、それでいいと思っている。人生のほんの一時期だけガマ探に出会って、楽しいひとときを過ごしてくれて、そうして大人になっていってくれればね」

「わ、私、感激です。ガマ探のラストシーンに立ち会えたなんて。隊長は、ガマグチ隊長は、えっ、永遠に私のヒーローです」

 込み上げるものが溢れてきて、妙子は眼鏡を外した。そんな彼女の肩にガマグチ隊長がそっと水かきの付いた手を置く。

「さあ、いつまでもここにいてはいけない。君たちには君たちが生きる世界がある。物語の世界で得た経験を糧にして、現実の世界を生きていくんだ」

「はっ、はいっ」

 そうだ。いつまでも現実逃避していられない。子供のままでいられる人なんて、一人もいないんだ。僕らにもいつか物語という異世界を閉じて、現実に向き合っていかねばならないときがくる。でも、もう少しだけ。せめて青春が終わるまでは。

「さあ、君たちを元の世界に帰してあげよう。心の準備はいいかい?ゲッコリンコでケロリンコ、いい子はネンネでケロリンパー!」

「ケロリンパー!」

「ニャニャニャンニャー!」

 妙子及びゲンちゃんの体が七色の光のシルエットに変わり、プシュンと消えた。

「何をしているんだ、君たちは。一緒に行かなきゃ駄目じゃないか」

 最後にカエルに叱られる、か。叱られるのも正当性が感じられないとモヤモヤばかりがたまる。

「あー、もうないと思ってたのに」

「へいへい。言えばいいんだろ、言えばぁ」

 鉄子もネズミ君も、人生でここまで絶望した経験はないのだろう。

「しょうがないなあ。じゃあ、いくよ。ゲッコリンコでケロリンコ、いい子はネンネでケロリンパー!」

「ケロリンパー!」

「だー、もうヤケクソだ。ケロリンパー!」

「お母さん、ごめんなさい。ケロリンパー!」

 視界が七色に染まっていく。そして、本の裏表紙を閉じるような、パタンという音がしたかと思うと、一瞬世界が真っ暗になった。

 …う、ん〜と。

 最初に目に飛び込んできたのは、床に置かれたランプの弱々しい光だった。だいぶ小さくなっていたが、まだ燃えていた。

「皆さんずるいですぅ!私もガマグチ隊長ともうちょっと別れを惜しんでいたかったのにぃ」

「ミャーン」

 今日はよく不条理な叱られ方をする日だ。

「ふう。なんとか戻ってこれたみたいだな」

「お母さん。罪な娘をお許しください」

 ネズミ君と鉄子の姿も無事確認された。

「一応、クリアできたみたいだね」

 僕らは本の世界に入る前の図書館に戻ってきていた。天井には青い人魂みたいな光がいくつも揺らめいていた。

 貸出しカウンターの上には、一冊の本が裏表紙を上にして閉じられていた。小さなカエルの漫画が描かれていた。

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