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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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132/206

時は失われて、夢は醒める

 あ、あれは…!

「鳥だ!」

「戦闘機だ!」

「UFOよ!」

「い、いえ、スーパマンですぅ!」

「ミュウ〜!」

「だから鳥だって!」

 バサッ、バサッと夜空を舞う巨大な黒い影は、フリートウッドだ。さっき出てきたばっかでしょうに。なんか、因数分解の公式習ったばかりの次の練習問題で、公式を使わずに解こうとした同級生思い出した。

 くっ、怪獣だけでも手に負えないのに、この上フリートウッドまでが襲ってくるのか。あの巨大な目で睨まれたら、どんなに猛き者だってヘビの前のカエルの如しだ。

 とにかく避難、避難、避難する。敵前逃亡を非難されるいわれはない。できるだけ遠くへと避難である。

「きゃあーっ、何すんのよぉ〜!」

 おや、ウーパールーパーの悲鳴?振り返ると、フリートウッドは鋭い爪で、ウーパールーパーの顔面をかきむしっている!

「ちょっとぉ!顔に傷付けないでよぉ!こっちじゃないでしょ、このアホウドリ!鳥目!今までこき使ってやった恩を忘れたの!?」

 暗くてよく見えないから攻撃対象を間違えたのか、それともクーデターか。どちらにせよ飼い主に対するストレスが相当溜まっていたに違いない。

「あっ、ちょっと!言うこと聞きなさい!あ〜ん、もう!大人になっちゃったから鳥と会話できなくなったじゃないのよぉ〜!」

 子どもは大人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえる。鳥や花と会話し、夢の世界に遊ぶ。だが歳月は人を待たない。肉体は自己否定を繰り返し、一晩寝るたびに大人になっていく。夢は金に変わり、金で夢は買えないことを知る。歳をとって得たものといえば、ちっぽけな常識と不平不満のみ。

「ちょっとそこ、どきなさいってばぁ!前が見えないじゃないのよぉ!」

 そして灯台の明かりも見えないままに、社会という大海の中に一歩踏み出していかなくてはならない。だが目隠しされたままだと、当然足の踏み場を間違えるわけで。

「きゃああ、いったあ〜い!なんか尖った岩踏んづけたあ〜!きゃ〜!!」

 バランスを崩して倒れていくウーパールーパー。あの巨体では体勢を立て直すのは無理だ。

 取り敢えずこっちこなくてよかった。って、あっちにはガマグチ隊長がいるじゃないか!

 それまで仕丁3人は、岩の隙間に落ちた隊長を引き上げようとなんとか頑張っていたが、身の危険を感じると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。強制労働には忠誠心などないのだ!

「たっ、隊長ぉ〜っ!」

 万事休す。妙子の願いもむなしく、ウーパールーパーの巨体を止めるものはない。このままだと、隊長のいる辺りに顔面から突っ込むぞ。

 メシメシと木が折れる音に続いて、ドーン、という大きな爆音。

 大地が揺れる。突然の衝撃に目を覚まされた鳥たちが、金切り声をあげながらバサバサと飛び立っていく。

 お、終わった。ウーパールーパーはガマグチ隊長に見事にヘッドバット、いや顔面アタックをかました。

 岩に挟まれているとはいえ、怪獣の巨体を支え切れるほどではあるまい。

 モウモウと粉塵が立ち込め、僕らのいるところまで埃っぽい空気でいっぱいになった。

 うつ伏せに倒れたウーパールーパーは、ピクリとも動かない。し、死んだのか?

それより主人公が潰れちゃったら、この物語はどうなってしまうんだ?僕らは無事、元の世界に帰れるのだろうか?

「た、隊長…。あなたのことは忘れません。ガマグチ探検隊シリーズを読んで胸をときめかせた幼い頃の日々。隊長は、隊長は、私の、わ、私の…」

 少女時代の思い出は今や巨大両生類の下敷きとなった。それがどれだけ美しかろうと、時は無情にも失われるのだ。

 そのとき、ピカーッとウーパールーパーの体が七色に輝きはじめた。

 うわっ、ま、眩しい!

「な、なんだぁ!?」

 ネズミ君も思わず手で顔を覆う。出っ歯覆わずだったが。

 七色の光は、踊るように暴れてやがて一本の虹になると、夜空にかかった。ウーパールーパーの巨体はどこにもなかった。

「どういうことよ!?アレがアレになったってこと?」

 メルヘンに縁遠い生き方をしてきた女番長スケバンは言葉を失ってしまっている。ウーパールーパーが虹になってしまったのかといいたいのだろうが、顕在意識が全力でそれを拒否している。僕だって受け入れがたい。

「お、おい、それよりおっさんは!?」

 そうだそうだ。いつまでも茫然自失を続けていたら本当にメルヘンの住人になってしまう。

 僕らはガマグチ隊長がいた岩場へと駆けつけた。

 辺りの岩は粉々だ。やはり相当の衝撃であった。ということは、この先にはぺっしゃんこにひしゃげた…。見たくない、見たくない。見たくないけど、見てみたくもある。これを不快の快という。

「あー、よく寝たケロ」

 だが予想とは裏腹に、ケロッとした(駄洒落ではない)ガマグチ隊長が現れた。

「た、隊長ぉ!」

「おっさん、生きてたのかよ!」

 驚く妙子に目を丸くするネズミ君。何事もなかったかのように、ガマグチ隊長はピンピンしていた。

「ど!?どんな体してんのよ、このカエル」

「わっ、わっ、やめんか!やめるケロ!」

 乱暴な鉄子は、隊長のほっぺを両手でつねってビヨンビヨンした。

「隊長、無事でしたか。ウーパールーパーの下敷きになって潰れてしまったかと」

「ケロケロ。ここだけの話だが主人公が死ぬわけないケロ。僕が死んだらガマグチ探検隊シリーズが終わってしまうケロ。でもそういう裏事情を知らない読者の小さな子どもたちはハラハラさせちゃったかな。ケロケロケロケロ」

 また裏事情を暴露して、隊長はケロケロと笑った。読者じゃない大きな子どもたちもハラハラしたけど。

「でもよぉ?どうやって助かったんだ?ちゃんと説明しないと、今日日のひねくれている子どもは納得しないら?」

 ひねくれ者代表団団長のネズミ氏が発言した。

「それは、わらわから説明しましょう」

 どこかから鈴の鳴るような声。

「あ、ウーパールーパー!いや、お雛さま?」

 そこにいたのは、十二単を華麗に着こなした雛野ひなのさん。実際にはそんなもの着ていたら、重過ぎて到底歩くことはできないのだろうが、ということには今更気付いた。

「ひなと呼んでくださいまし。人喰いウーパールーパーに取り憑かれて、皆さまにはご迷惑をおかけいたしました。ですが、この方が持つ不思議な力によって、救われたのでございます」

 ガマグチ隊長を上目遣いで見て、ポッと顔を赤らめた。どういうことだ?

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