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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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131/206

歳月は流れ、女は行き遅れる

「いったあ〜い!何すんのよぉ!」

 攻撃した僕の方としても、これは痛そうだなと思ったけど、手加減はできない。

「今よっ、勇者さん!」

 鉄子に言われるまでもなく、このまま一気にケリをつけてやる。

 と、思いつつ、倒してしまったらどうなるんだろう、という疑問も沸く。

 めでたしめでたしで、僕らは晴れて元の世界に戻れるのだろうか?

 しかし今がチャンスである。ウーパールーパーは膝を折って頭が下がっている。思い切りジャンプすれば、届く。

「でえーいっ!」

 ダーッと走って、ビョーンとジャンプ。デメキンのハンマーを上段に構えて、敵の頭部目掛けて剣道の面打ちのように振り下ろす。

 ボコン!という感触を期待していたのが、返ってきたのは、ガキッという、固い殻のようなものを叩いた感触。

「やったぜ、勇者!」

 ウヒョーと、後方にいたはずのネズミ君が、ガガンボが飛ぶように踊っているのが視界に入ってくる。なんか普段大人しいのに、盛り上がったときだけ目立つ同級生いたっけか。

 でも僕はまだ警戒を解くことはできなかった。

 ウーパールーパーは頭を下げた体勢のまま、動かないでいる。

 そのまま、一呼吸。(ウヒョー)

 そして、二呼吸…。(ウヒョー)

 ……ネズミ君、黙っててくれるかな?今、シリアスな場面。

 サーッと、見る見るうちに黒く変色していくウーパールーパー。ツルツルだった皮膚はゴワゴワに固くなり、気味の悪い斑点が無数に現れた。

 背鰭はステゴサウルスのように尖り、腕や足はたくましくなった。

「なっ、何よ、こいつ…!」

 気丈な鉄子でも思わずたじろいでしまうほど、それは不気味さに満ちていた。

 これは…、あれか。音に聞くウーパールーパーの成体というやつか。

 自然界のウーパールーパーは幼形成熟ネオテニー。幼体のまま生殖をする生き物である。カエルで言ったらオタマジャクシのまま卵を産むようなものだ。だが人工的に飼育すると、成体に変化する個体も現れるという。

 ゆっくりと、そいつは顔を上げた。

 ひっ。こ、怖っ。目が怖いよ。あのつぶらでかわいい目はどこに行ってしまったんだ。

「よもや、この姿になろうとは…」

 声もしわがれて、まるでお婆さんみたいだ。

あしたには紅顔ありて、夕べにはゴワゴワのゴツゴツの岩石肌よ。だから大人になんてなりたくなかったのよ。平安時代じゃ女も30過ぎれば恋だの色だの言ってらんないのよ。蝶よ花よともてはやされて、男が通ってくるのも若いうちだけなのよ。あとはどっかの受領ずりょうのジジイ見つけて地方に流れていくしかないんだからっ。きいーっ、この悲しみがあんたたちにわかって!?」

 恨み節をのたまわっているうちにも、ウーパールーパーの体はグングン大きくなり、頭が天井につかえるほどになった。建物がギシギシ言い始めても、まだ成長が止まらない。

「やばい、崩れるぞ!」

 言うが早いか、危機管理意識に優れた盗賊はピューッと庭に出てってしまう。

「は、早く!僕らも外に逃げよう!」

 天井から塵やら埃やらが降ってくる。部屋の中には僕らの他に、まだ数人の雛人間たちがいた。

「ひい〜っ、お、お助けをぉ〜」

 腰を抜かして狼狽える三人官女たち。

「あんたたちも、とっとと逃げなさい!」

 それを鉄子が強引に追い立てていく。強いなぁ。

 先程のダメージから回復した左大臣も、自分で庭に出ていった。

「おい、おっさんはどうするよ!?」

 と、さっき逃げていったと思ったネズミ君がもう戻ってきた。物理法則を超えている。この人もこの本の中の登場人物ではあるまいな。

「妙子さんはゲンちゃん連れて早く外へ!僕たちは隊長を!」

「わっ、わかりましたっ」

「ミャーン!」

 妙子はゲンちゃんを抱き上げて急いで庭に出ていった。

「おい、お前らも手伝え!」

 ネズミ君は顎で仕丁しちょうの3人に指示を出した。

 彼らは、怒ったような泣いたような笑ったような複雑な顔でガマグチ隊長を持ち上げた。きっとこの人たちは田舎から無理矢理来させられて、無報酬で働かされているんだろうなぁ。

 僕がそんな平安時代の裏事情に思いを馳せている間に、ネズミ君と仕丁3人にそれぞれ両手両足を持たれて、ガマグチ隊長は運び出されていった。そんな緊急事態にも、一向に目を醒ます気配がない。まったく、いつまで寝てるんだこの主人公は。

 僕も急いで庭に逃げる。

 間一髪、バリバリバリッとものすごい音がして、寝殿が崩壊していく。危なかった。

 ウーパールーパーはさらに成長を続け、天まで届くかといった頃、やっと止まった。

 で、でっけー。

 東京タワーかよ。

 スーッと息を吸い込むと、ステゴサウルスみたいな背鰭がピンクに輝いた。

 コオオオーーーッ!

 空に向かって口から火を噴き出す。ウソ?満月が焦げそう。

「お、おい勇者!これヤバくないか?」

「に、逃げようっ」

 うわーっと、一目散に館から逃げていく僕たちパーティと雛人間たち。

「こんなのとどうやって戦えというのよっ!」

「か、怪獣ですっ!怪獣ですっ!」

「ミャーン!」

 若干、妙子は嬉しそうに見えるのだが。

「コラーッ!待ちさない!こんな姿にした責任とりなさいよぉ!」

 ドスン、ドスンと、追いかけてくる行き遅れ女。駄目だ、小さかったときはかわいかったのに、成長しすぎると手に負えない。もはや動物園に持っていくしかないが、この性格では引き取ってもらえるだろうか?

 旅館の敷地内を出て、山道をひた走りに走る。途中、大きな岩がゴロゴロ転がっている岩場で走りにくい。

「こんな道、通ったっけ?」

「来るときゃ、省略されたんだろうよ!」

 ネズミ君はガマグチ隊長を仕丁の3人に預けて、自分だけヒョイヒョイと岩を飛んでいく。

 行きはヨイヨイ、カエルは眠い、である。眠いながらも騎馬戦のようにして3人に運ばれていく隊長はまだ夢の中だ。

 ドスン!ドスン!

 ウーパールーパーが足を踏み出すたびに、地響きが起きる。

「おわっ」

 仕丁たちがバランスを崩して倒れる。ガマグチ隊長を落としてしまった。元々皮膚がツルツルしているせいか、ツルーッと岩と岩の隙間に入りこんでしまった。

「あっ、お前ら何してんだ!」

 流石は自分に甘く人に厳しいネズミである。まさに小市民の代表格だ。いつか女王陛下から名誉小市民の称号を頂けるだろう。

 すると、バサッ、バサッ、バサッと、大きな鳥の羽ばたき音が聞こえてきた。


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