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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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129/206

月は南で、尻は桃色

「みんな、どうやら騙されていたみたいだよ」

 みんなが目を覚ましたところで、僕は状況を説明した。

「あ〜、いくらかわいくたって、やっぱりキツネとタヌキね。今度会ったら麺の上に乗っけて食べてやる」

 鉄子が悔しそうに言う。本当に食べていたのか。

「だぁ〜、この三文物語の主人公が!おっさんが色ボケしたせいで捕まっちまったじゃんかよ!」

 足を縛られたままで、ネズミ君がガマグチ隊長を蹴っ飛ばした。それでも隊長は、ゲコーゲコーといびきをかくだけで、起きる気配はない。

「た、隊長を蹴らないでくださいよぉ!」

 妙子はほんと、このキャラクターのどこがいいんだろ。

「俺まだサンショウウオしか食ってなかったんだぜぇ?」

 よりにもよってなんでそれを最初にした?

 既に夜のようだが、大きく南に開けたこの部屋には、黄色い月の光が差し込んで明るい。

 今、何時だろう。

 雛人間の話によれば、この本の中じゃ今夜が満月だ。

 理科の時間で習った知識によると、満月の南中時刻は夜の12月だったな。

 今僕らは部屋の北側の壁を背にしている。ここからでは空の様子は見えないが、光はほぼまっすぐ差し込んでいる。そろそろ12時ではないだろうか?

 だとしたらとにかくこのロープをなんとかしなくてはいけない。人喰いウーパールーパーがやってくる前に。

 部屋の中を見回すと、隅っこに僕らの武器と荷物が固めて置かれてあるのを見つけた。

 ロープを切るのに役立ちそうなもの。ゲンちゃんの歯。は、無理だ。ドーベルマンじゃない。

 それよりネズミ君がナイフを持っていたな。洗礼の短刀という聖なる武器。よし、なんとかあそこまで這っていって、リュックからナイフを取り出そう。

 もぞもぞと体を動かそうとしたとき、長い影が僕らの上に伸びてきた。間に合わなかったか。

「あっ、おまいら!こんなことして承知しないぞ!」

 ネズミ君が出っ歯を伸ばして威嚇するが、どうしようもない。

「おや。ぐっすりと寝ていると思いましたが。お行儀の悪いネズミですこと」

「俺はネズミじゃなくて盗見ぬすみだ!」

 入ってきたのは雛野ひなのさんだった。この人はネズミ君の本名を知らないはずだから、盗見とネズミを言い間違えたわけではなさそうだ。

 他の雛人間たちも入ってくる。くそー、僕らを生贄にするつもりか。

「薬が足らなかったのかもしれませんが、構うことはないでしょう。姫、そろそろ我々もまかり出ませんと。人喰いウーパールーパーの巻き添えを食らってはたまりませぬ」

 と、左大臣が言った。

「おっほほほ。その必要はない。今宵は宴じゃというたろうに」

「姫?」

 おや?なんだか雛人間たちの様子がおかしいぞ。影はまっすぐに、そして少し短くなった。月が南中したんだ。

「アンタ、どこ触ってんのよ!」

 鉄子の怒声。

「ご、誤解すんな!」

 ネズミ君、こんなときに何やってんの?

 生きるか死ぬかの状況にあっても、人間というのは破廉恥行為をしたがるものなんだということを、一つ学習した。これも人類のたくましさなのか、それとも卑劣さか。

 あるいは性的な成熟と精神的な成熟とは比例しないのかもしれない。子供の姿のまま成体になるウーパールーパーのように。

 そうこうしているうちにも、雛人間たちの間に動揺が広がっていた。

「ひっ、姫?いかがなされました!?」

 老練な左大臣が狼狽えている。彼の長い人生経験でも役に立たない、あることが起きようとしていた。

 シュルシュルシュルシュルと、お雛さまの体から白い煙が出ている。

「ほほほ。わらわはこのときを待っていたのじゃ。東方よりカエルの姿をした勇者がやってくるのをな。そいつを食べれば、わらわは、ええと、何じゃったかな。なんかすっごいありがたいことが起きるってゆうか。なんかそういうのがあるって感じ?なんか忘れちゃったけど。あたしだって忘れることくらいあるわよ。だからさぁ、雛人間に取り憑いて生贄を捧げてもらってたんだけど、あんたたちはもう用済みってわけ。ろーじんって、あたし好きじゃないんだけど、いいわ、あんた一応殿上人だし。めんどくさいから鼻つまんで食べてあげるってゆうか。あ、みんなも一緒だからね。あたし、ハブるとかそうゆうの好きじゃないから。モチ、貴族限定だけどね。下衆は別よ」

 シュー、シュー!

 猛然と白い煙が噴き出すとともに、お雛さまの体がグングン変態していく。口が大きくグワーンと上に開いて、まるで人体の表裏をひっくり返すようにして中から白いぶよぶよしたものが出てきた。それがびよよよーんと伸びて、雛野さんの体を包みこんで成長する。

 僕らが本の世界に入る前に見た、巨大な幼体。人喰いウーパールーパーが現れた。後ろ足で立ち上がると、まるで二階を見上げるかのようだ。

「ひっ、ひええっ!化け物!」

 あわれな左大臣は腰を抜かしてしまった。

「あー、十二単なんての?あんな重いもん着て生活してたから、鍛えられちゃって。もう筋肉ムッキムキって感じ。でも本来ね、裸族なのよ、あたしたちは。裸で生活するもんなの、ウーパールーパーって。ペットのウーパールーパーに服を着せてる人なんて、そりゃあ中にはいるかもしれないけど、いるわけないわよね。どっちなのって感じ」

 人喰いウーパールーパーがお雛さまに化けていたのか。しかし東方より現れるカエルの勇者って…。僕ら東から来たんだっけ?僕は東京出身で勇者だけど。いや、それより桃尻語になってますけど?

 貴族のお姫様といえど、中身は今どきの若い娘ということか。

 ベローンと、例の長い舌が伸びて左大臣に巻き付いた。そのまま持ち上げて、バクンと一飲みにする。

 と、鉄子が急に立ち上がった。

「好きにはさせないわよっ!」

 ダァーッと走っていって、ウーパールーパーの腹目掛けてドロップキックを放つ。

「ぐぅえっ!!」

 うえっと、ウーパールーパーは飲み込んだばかりの左大臣を吐き出した。九死に一生を得た老人を、若い右大臣が助け起こす。

「なによ、アンタ!縛られてたんじゃなかったの!?」

 ウーパールーパーはキイーッと鉄子を睨みつける。ヒョイっと飛んできた竹竿をキャッチすると、女戦士は怪物と向き合った。

「勇者、反撃開始だぜ」

 たった今、竹竿を投げたネズミ君は、今度は僕の後ろに回って縄を解き始めた。


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