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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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128/206

酒は甘いが、カエルはうるさい

 料理は期待してなかったのだが、運ばれてきた御膳を見て、思わず目を奪われてしまった。

 先程言っていた通り、海の幸はないまでも、山の幸をふんだんに使った豪勢なものだ。

 高盛りにされた強飯、根菜の煮物。塩漬けして天日干しにした鳥肉に、蘇と呼ばれる古代のチーズ。それに汁物、香の物、唐菓子。酢、酒、塩、ひしおの4種の調味料が小皿に取られ、自分で味付けして食べるようになっている。おまけにサンショウウオの黒焼きまであった。

「凄いこた凄いが、こいつはなくてもいいな」

 ネズミ君が串に刺さったそいつをつまみ上げてまじまじと見つめた。いらないというけれど、その姿は実に様になっていた。そのままCMキャラクターになっても違和感はない。滋養強壮にネズミ印のサンショウウオ。

「皆さま、どうぞご遠慮なくお召し上がりください。未成年の方には甘酒をご用意いたしております」

 三人官女の人たちが、僕たち一人一人に甘酒を注いでくれた。

「隊長さまには、こちらをどうぞ」

「ケロケロ。こりゃあ白酒ではありませんか」

 金屏風の前では、雛野ひなのさん自らガマグチ隊長にお酌をしている。雛祭りに飲むという、白酒だ。

 あっという間に、隊長の顔色は真っ赤になった。早いな。それともこういうところも物語的な都合というやつだろうか?

 僕たちも甘酒を頂きながら、豪華な山の幸に舌鼓を打つ。

「それでは皆さま、これよりキツネとタヌキの舞い踊りをご覧に入れまする」

 三人官女の一人が言って、キツネとタヌキがゾロゾロと部屋に入ってきた。二本足で歩いているけど、ここはフィクションの世界なのだ。自然の摂理に反していたってかまうまい。

 ピーヒョロピーヒョロ、ポンポンポンという笛や太鼓に合わせて、キツネとタヌキがピョンコピョンコ跳ね躍った。

「あら、かわいいじゃないの」

 動物たちの愛くるしい姿に、鉄の女の心もほぐれる。

「地元にもキツネやタヌキがいっぱいいたけど、そいつらはこんなかわいらしいもんじゃないのよ」

 現実はそんなもんだろうな。

「よく誑かされて、一晩中山の中を彷徨ったわ」

 そこまで?いくら田舎といっても、現代にそんなことがあるんだろうか?

 あるいはこの昭和の世界から抜け出してきた女番長スケバンに関しては、同じ空間にいても彼女だけタイムラインが違うのかもしれない。

「家帰ったら、仕返しにキツネうどんやタヌキそばを食べてやったけど」

 それ、相手のダメージはゼロだよね?

「ケロ〜、いい気分だケロ。ここはひとつ、あれをやっちゃうケロ〜」

 すっかり出来上がったガマグチ隊長が立ち上がった。

「あっ、はっ、始まりましたよぉ!」

 妙子が目を輝かせた。なんだ、なんだ?

「ガマグチ体操ですぅ!子供の頃、CD持ってましたっ」

 このカエル、CDデビューしてたのか。

「ガマグチ〜、たいそう〜、おいっちに、おいっちに。腰をグキグキふりカエル〜。天を仰いでそりカエル〜。床に仰向けひっくりカエル〜。体ニコニコよみガエル〜」

 ガマグチ隊長は歌に合わせて腰を回したり、床にゴロンと転がったりした。妙子は手拍子を打ったが、僕らは白けていた。驚いたことに、隊長が転がるのに合わせてゲンちゃんもコロンと転がった。幻獣は新しい技を覚えたようだが、幻獣使いは隊長に夢中でそれに気付かなかった。

「あきれカエルわね」

「今すぐカエルってわけにはいかんかな」

 仏頂面の二人を尻目に、隊長は最高潮で3番の歌詞まで歌い上げた。

 やれやれ。とんでもない世界に来てしまったものだ。

 目の前ではキツネとタヌキに、それにカエルの化け物までもが舞い踊っている。これは本当に現実なのだろうか?今、自分の目で見ているものが信じられない。

 ふわぁ、眠い。

 遠くからピーヒャラピーヒャラという音が聞こえる。どこかでポンポンいう音もする。雛人形の格好をした人が動き回っている。カエルがゲロゲロ鳴いている。なんだか夢を見ているみたいだ。ああ、そういえばここは本の中だったな。そうだ、こんなことが現実に…、現…、げ…。

 …ゲロ、ゲロ、ゲコゲコ、ゲゲゲロ、ゲ………………。

 ……………………………………。

 くすぐったい。

 なんか顔がくすぐったい。湿った平ぺったいもので頰を撫でられているような。

 う、うん?

「ミャーン」

 ゲンちゃん?

 くすぐったいなぁ。顔を舐めないでよ。あっ、鼻の下でゲンちゃんのヒゲがわさわさする。

「はっ、はっ、はっくしょーい!」

 おや、真っ暗だ。夜か?

 あれ?僕は何をしてたんだっけ。ここは…。

 い、痛てて…!

 なんだぁ?手が痛いな。体がうまく動かせない。足首も痛いし、お尻も背中も痛い。それに肩も。

「ミャーン」

 ゲンちゃん。

 暗がりの中、ゲンちゃんの目が緑色に光っていた。そして腕が痛い。

 うーんと、なんだか頭がぼーっとしてる。僕らは何をしてたんだっけ。

 ゲコー、ゲコー。

 ええと、カエルがうるさいな。このカエル、ちょっと静かに。

 ん?カエル?

 ああ、そうだ。僕らはガマグチ隊長と一緒に本の中に、じゃなかった。本の中に入ってガマグチ隊長と一緒にウーパールーパーを探しにいくんだった。

 ええと、雛人間に会ってキツネやタヌキが舞い踊って、で、甘酒を飲んで眠くなって。

 意識がはっきりしてきた僕は、ようやくあちこちの痛みの原因がわかった。

 背骨の歪みが原因…、じゃなくって、縛られていたのだ。ご丁寧にも後ろ手にされて、上体をロープでグルグル巻きにされていた。両足首も縛ってある。

 僕だけじゃない。ガマグチ隊長も含めて、パーティ全員が縛られて壁際で一箇所にまとめられていた。

 やられた。

 これは罠だったんだ。

 さては、甘酒の中に睡眠薬か何かが入っていたな。

 くそぉ、あの雛人間、やっぱり怪しいと思ってたんだよ。フリートウッドを操れるってのに、なんで人喰いウーパールーパーが倒せないんだっていう話だ。

「ミャーン、ゴロゴロゴロ…」

 ゲンちゃんが背中を擦り付けて甘えてくる。頭を撫でてやりたいが、手は背中の後ろである。

「ゲンちゃん、ありがとう。他のみんなも起こしてやってよ」

 ふぅ、パーティに幻獣がいてよかったよ。雛人間たちも、ゲンちゃんの存在までは気が回らなかったと見える。

 僕の言葉が通じたのかどうかはわからないが、ゲンちゃんの活躍のおかげでみんなは目を覚ました。

 でもガマグチ隊長だけは、どんなに体をぶつけても揺すっても起きなかった。幸せそうに、ゲコーゲコーといびきをかいている。


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