破壊なくして創造あれど、サービスは厳しい
「ひ、雛人間?」
僕らは一斉に面食らってしまった。雛人形ってのは聞いたことがあるけど、雛人間とはこれいかに。
「ケロケロ。雛人間というのは、フリートウッドを操っている一族のことだケロ」
操っている、だって?あの巨大な鳥が、プテラノドンをひと飲みにするような巨鳥が、誰かに操られているというのか?
「おい、どういうことだよ、おっさん。あの鳥はロボットか何かなのか?」
ネズミ君が食ってかかる。
「違うケロ。雛人間は特殊な超能力によって、生き物を操って奴隷のようにすると言われているケロ。その話が本当なら、グズグズしていると我々も雛人間の奴隷にされてしまうケロ」
超能力は全て特殊だと思うが、そうなのか。いや、スプーン曲げは誰にでもできる超能力か?
僕がくだらないことを考えていると、歌うような声が聞こえてきた。ピーヒャラピーヒャラ、ポンポンポンというお囃子の音も聞こえる。
うっふっふ おいでませ
うっふっふ ごゆるりと
星の降る降る 露天風呂
源泉 源泉 かけ流し
きつねやたぬきの舞い踊り
目にも鮮やか山の幸
ほれ ほっほい ほっほ 召し上がれ
ほっほい ほっほ 心ゆくまで
「ゲ、ゲ、ゲロゲゲゲ!雛人間がやってきたゲロ!」
そうかい?なんか、山奥の旅館に歓迎されているみたいだが。
「誰か来るわ!」
鉄子は竹竿を構えた。
歌声はもうすぐそこまで迫ってきている。ピーヒャラピーヒャラの音が大きくなった。
急に、薮の中から大勢の人影が現れた。宿泊客を歓迎するような歌声は続いている。
「雛人間だケロ!」
なるほど、雛人間か。先頭はお雛さまだ。十二単を着て静々と歩いてくる。
その後ろに三人官女。向かって左から、加えの銚子、三方、長柄銚子である。
続いては五人囃子。笛や太鼓を鳴らして歌っている。
さらには弓矢を装備した随身二人。左大臣の老人と右大臣の若者だ。
そして、泣き、怒り、笑いの三人上戸。傘などを持って従っている。
でも、お内裏さまはいないようだ。
雛人間たちは、フリートウッドの巣の前まで来ると、立ち止まり、音楽が止んだ。
これが雛人間か。見た目は雛人形そっくりだが、大きさは普通の人と変わらない。武器を持っている者もいるが、どうする?
するとお雛さまが一歩前に出て、雛人間一同は深々とお辞儀をした。
「旅の方、ようこそおいでくださいました。私は天然温泉雛人形館の女将をしております、雛野ひなのでございます。当旅館は創業1000年、平安時代からの老舗旅館でございます。当時と変わらぬスタイルを続けておりますため、今となっては大変に鄙びてはおりますが、当時の水準で贅を尽くした最高級のおもてなしが自慢でございます。どうぞごゆっくりお過ごしください」
???
やっぱり旅館なの?
雛野ひなのと名乗ったお雛さまは、にこやかに微笑んだ。
いや、苗字と名前を同じにするって、一番やっちゃいけないことだろ。勇者ってだけでも苦しんできたというのに。
「どうするよ、おっさん。なんか歓迎されてるっぽいけど」
ネズミ君がガマグチ隊長に聞いた。
「ケロケロ。用心するに越したことはないケロ。油断させておいて我々を操ろうという作戦かもしれないケロ」
ううむ、ガマグチ隊長の言うことももっともである。
「ねえ勇者さん。あたしたちの目的は人喰いウーパールーパーよね。別にこの人たちに関わる必要はないんじゃないかしら?ここが地図にある山のてっぺんだとしたら、ここを降りてジャングルを越えれば、ウーパールーパーの住む沼なわけよね。とっととそっちに行ったほうがよくない?」
破壊の女番長にしては、創造的な意見が出た。すると、雛人間たちが騒ついた。
「い、今なんと申されたのです」
へ?
「もしや人喰いウーパールーパーと申されたのではありませぬか?」
と、雛野さん。
「そうですけど?」
僕が代表して答えると、おおおおっと雛人間たちからどよめきが起こった。
「おお、おお、この日をどれだけ待ちわびたことか」
雛野さんは両手で顔を覆い、オロオロと泣き崩れんばかりになった。すぐさま三人官女が彼女を支える。
「一体どうしたんですか?」
「あれは約一年前のことでした。突如として現れた人喰いウーパールーパーに、私たちの旅館が襲われたのです。ご覧になってお気付きのように、ここにはお内裏さまがおりません。奴はお内裏さまを喰らい、このようになりたくなければ満月の日には生贄を捧げよと、我々を脅したのでございます」
「酷い話ね…」
鉄子が同情して呟いた。
「そうだったんですか。僕らは皆さんが特殊な超能力で生き物を操って奴隷にしていると聞いていたのですが」
「それは単なる噂でございますが、我々はフリートウッドだけは操ることができます。そこでお客さんを無理矢理連れて来させて、酔わせて眠らせたところを縛り上げて、生贄として捧げていたのでございます」
「…………」
「酷い話ね…!」
鉄子が憤って呟いた。
「ですが、それも今日までのこと。皆さんは人喰いウーパールーパーを倒すためにおいでくださったのでございましょう。ささ、いつまでもそんなところにおいでませんと、まずは当旅館にて旅の疲れを癒してごらんあそばせ。平安貴族が食していたものから海の幸を除いた平安料理もございます。ええ、ここには山の幸しかございませんから。ええ、ええ、それ以外はちゃんと再現しております。出汁も醤油も使っておりません。紫式部が食べていたものと同じ、味気なくてカロリーの高い料理です。当旅館は平安時代を忠実に再現しておりますゆえ、電気もありませんし夜には物の怪が出ます」
いや、そんなサービスいらないというか、色々と意見するところがある。
「ちょっと待ってよ。まず第一に、僕たちは人喰いウーパールーパーを倒しにいくんじゃなくて、芸を仕込みにいくんだ。それよりフリートウッドを操れるのなら、どうして人喰いウーパールーパーを倒させないのか。それに、そんな人を騙して生贄にするような人たちのところに泊まったりはしない。みんな、こんなところで油を売っている暇はないよ。とっとと人喰いウーパールーパーのところに行って、早く本の中から出よう」




