恐竜は絶滅し、勇者は空を飛ぶ
「キューイ、キューイ」
しばらくすると、プテラノドンは人懐っこそうに鳴いて、見るからに優しい顔に変わった。さっきまであんなに怖い顔だったのに、漫画っぽいなあ。
「ゲコゲコゲンゲロ、ゲッゲッゲ」
「キュイキュイキュンキュキュ、キュッ、キュッ、キュッ」
プテラノドンが隊長の呼びかけに応えている。これは、手懐けることに成功したか?
「ほら、言った通りになりましたでしょぉ?」
誇らしげな妙子だったが、僕はいまいちその理由がわからない。
キューイ、キューイと鳴きながら、プテラノドンは上空をグルリグルリと旋回していた。
「また敵が出てきたらやっつけてくれるのかな?」
「えっと、プテちゃんの能力は回によって違うんです。あるときは勇敢な空の戦士だし、またあるときは何にでも変身できる魔法使いだったりするんですよ。ファンの中には、次回のプテちゃんは一体どんな能力なんだろうっていうのを、予想してサイトに上げてる人もいるくらいでして。今回はさっき火を吹いたので、きっと戦闘機タイプのプテちゃんだと思いますよ」
戦闘機タイプ、ねぇ…。子供に変な誤解を与えないといいが。
「おい、アレなんだ?」
ネズミ君が指差した先を見ると、まるで飛行船かと思うような、大きな鳥がいた。悠々と空を泳いで、プテラノドンの方に向かってきている。
「なんか、馬鹿でかい始祖鳥みたいだな」
と、ネズミ君。確かに教科書で見た始祖鳥に似ている。
「ケロケロ。あれはフリートウッドだよ」
と、ガマグチ隊長。この鳥とプテちゃんが戦うのかな?
ところがプテちゃんは、キューイ、キューイと、甘えた声を出して巨鳥に近付いていった。
「やけに平和的だね」
「こ、細かいところはネットの情報と違うのかもしれません」
ま、戦わずして済むならそれに越したことはないけど。
だが次の瞬間、フリートウッドと呼ばれた巨鳥は、大きな口を開けてパクッとプテちゃんを丸飲みにしてしまった。
……。
…えっ?
「ケロケロ〜。まずいケロ〜。フリートウッドは目についたもの何でも食べるケロ〜」
ガマグチ隊長は弱った調子で頭を抱えた。
「妙子さん?プテちゃんは、頼もしい味方なんだよね?」
「ネ、ネットの情報はファンの人が書き込んでいるものでしてっ」
ネット情報か。僕はそんなの見たことないけど、随分といい加減な情報が出回っているようだな。
「人喰いウーパールーパーの回は幻の回とも言われていてっ。色々と他の話とパターンが違うのかもしれないですぅ」
だからって、子供用の作品でこんな急展開にする?今回のプテちゃん、ただのエサだよ?作者はどうかしちゃってるのか?
そうこうしているうちにも、フリートウッドの鋭い目は僕らを捉えていた。
もしかして、次は?
「ゲコゲコ〜ッ!こっちに来たゲロ〜ッ!」
やっぱりぃ!?
あっという間に急降下する巨鳥。もう僕らのすぐ頭の上だ。夜が来たかと思うほど真っ暗になった。
や、やられる!
うわぁ、と僕は舟の底にひれ伏した。
ガシッという音がして、グワワワワーッと舟が持ち上がる。
お、お、おおおっ!
ゴオオオオーッ、という音が耳元で鳴った。
「ひょーっ、飛んでるぜぇ!」
ネズミ君の声に、状況を理解した。
フリートウッドは、両足の爪で舟を横に掴んで空を飛んでいた。
見上げれば、手の届くところに巨鳥の足の裏がある。爪と爪の隙間から、外の景色が見えた。
「やっ、やだぁ。あたし、高いの苦手なのよぉ〜」
なんだか黒い塊があると思ったら、鉄子がうずくまっていた。おばけが苦手な人は高い所も苦手なんだろうか?
他の人は大丈夫かな。ネズミ君は平気そう。妙子もケロッとしている。彼女は何度も海外旅行とか行ったりしてそうだから、飛行機は得意だろうか。ゲンちゃんも大人しくしていた。
そういや、闇野あかりさんが異世界で魔空挺に乗ったと言っていたな。それってこんな感じかな?僕も空飛ぶ体験をしたよって、これで彼女に言えるだろうか。
「おい、おっさん!大丈夫かよ」
ガマグチ隊長が、仰向けに伸びて固まっていた。両手をバンザイして、ピクリとも動かない。
「た、隊長は高いところが苦手なんですぅ」
やっぱり闇野さんに言うのはやめておこう。魔空挺とカエル人間では、話にならない。
「俺たちどうなっちゃうわけ?主人公が伸びてんだけど」
このまま巣に連れていかれて、雛鳥のエサにされるなんてことはないだろうか?この作品の作者だったらやりかねん。
下を覗くと、山が見えた。
「妙子さん、あの山って、地図にあった山かな」
妙子は慌ててトートバッグから地図を出して、広げて見た。
「まっ、待ってください。えっと、そ、そうだと思いますっ」
「妙子、それ逆さまだぞ」
そのときガクンと揺れて、フリートウッドが急降下を始めた。一瞬、まだ内臓が上に残っているのに、肉体だけが沈んでいくような気持ち悪さ。
「うぐぐぐぐ!俺、ジェットコースター苦手なんだよ〜」
今度はネズミ君が弱音を吐いた。一方で鉄子は高所恐怖症から立ち直ったのか、舟の縁に手をかけて下を覗いている。
「あたし、ジェットコースター大好き!ィヒョーッ!」
さっきまでの恐怖はなんだったのだろう。人の得手不得手は、細かくいろんな種類に分かれている。
グングンと山が近づいてくる。山のてっぺんに何かある。巣だ。大きな鳥の巣がある!
でも中に雛鳥はいない。エサにならなくて済むか?
バサッバサッと羽ばたいて、フリートウッドは速度を緩めた。そのまま着地するのかと思いきや、巣の真上まで来るとポイッと舟を離した。
ドサァッと、巣に落ちた僕たち。
驚いたが、衝撃はそれほどでもなかった。フリートウッドの巣は柔らかな葉っぱのついた枝を組み合わせてできているようで、それが守ってくれたようだ。
巨鳥はキエーッと鳴くと、バサバサ羽ばたいてそのままどこかに飛んでいってしまった。
「み、みんな無事!?」
「なんとかな」
「へっちゃらよ」
「だ、大丈夫です」
「ミャ〜」
簡単な点呼を取って、無事を確認する。怪我をした人もいなさそうだ。
「山の頂上まで運ばれたみたいだね」
とにかくまずは舟を降りよう。これでは本当に雛鳥である。こんなところで親の脛を齧っているわけにはいかない。
「おい、おっさん。いつまで伸びてんだよ」
ネズミ君がガマグチ隊長の頬をペチペチと叩いて起こした。
「ケ、ケロケロ。ここはどこだケロ?」
「ど、どうやらフリートウッドの巣に運ばれたみたいです」
妙子が説明してやる。すると隊長はまたケロケロ〜っと青ざめてしまった。
「どうしたんだよ、忙しいおっさんだな」
「あ、あわわわわ。早く逃げるケロ。雛人間に見つかるケロ〜」




