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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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124/206

ワニはパニック、幼児には不適当

 舟はゆらゆらと河を渡っていった。小さな舟で心配したけど、河の流れは緩やかで、この分なら何事もなく向こう岸に着けそうだった。

 ゆったり、ゆったり。どんぶらこっこと、舟はたゆたっていく。

 遠くには水墨画のような、先の丸い岩山が見えて、どこか中国の奥地のような雰囲気だ。

「俺たち本当に今、本の中にいるのかよ?異世界に行こうって奴が何だが、信じられんな」

 ネズミ君が肩をすくめた。

 手を伸ばして水面に触れると、ちゃんと水に濡れる感覚がある。さっき食べたお菓子の家もそうだが、本物としか思えない。

「でも、どうせだったら血湧き肉躍る冒険物とかが良かったわ。子どもの本じゃ、戦闘は期待できそうにないもの」

 鉄子が退屈そうに呟いた。

 本だったらこういう台詞の後に、突然敵が襲ってきたりするものだけど。

「ゲコゲコゲンゲ〜〜!!」

 突然、ガマグチ隊長の叫び声が響き渡った。

 な、なんだぁ〜?

「あ、あわわわ、わわ!ワ、ワニだぁ〜!」

 見ると、河から上がってきたのだろうか?舟の上にワニが侵入して、ガマグチ隊長に襲いかかろうとしている!

 早速お出ましってわけか。さっきの妙子の情報通りだな。

 でも、ワニにしては、漫画っぽい見た目だ。そうか、ここはあくまで本の中だからな。

「どいてなさい!」

 いち早く反応した鉄子が、ワニの頭に竹竿を叩きつける。

 ワニは一瞬怯んだように見えたが、大してダメージを受けていないようだった。

 硬い鱗が攻撃を防いだのであろう。

 ならば、これならどうだ。僕はデメキンのハンマーを両手でグッと掴んだ。

 振りかぶり、エイっと振り下ろす。

 ボコン!

 鼻筋に思い切り叩きつけてやると、ワニはスゴスゴと水中に逃げ帰った。

 流石は1500ゴールドもする武器である。見た目は冗談みたいだが、なかなかの威力だ。

「わっ、わっ!こっちにも来たぞ!」

 今度はネズミ君の悲鳴。

 なんと、あちこちからワニが舟に上がってこようとしていた。その数は、ざっと見ただけでも10匹以上はいる。

「あっちへお行き!」

 叩いても無駄と悟ったのか、鉄子はワニの口に竹竿を引っ掛けて、ひっくり返すようにして河に落としていた。

「えいっ」

 僕はデメキンでワニの頭を一匹ずつ叩いてまわった。叩かれると、ワニはスゴスゴと河に戻っていく。

「ケロケロ〜!ここは人喰いワニの巣窟だケロ〜!早く脱出するんだケロ〜!」

 ガマグチ隊長のパニックをよそに、渡し守の老人はゆっくりゆっくり舟を漕いでいた。この人、ワニの姿が目に入らないのかな?

 しかし戦いながら気付いたが、このガマグチ隊長、どうやら戦闘能力はなさそうである。ケロケロわめきながら右往左往しているだけだ。僕らがいなかったらどうするつもりだったんだろ?妙子の言う味方とやらは、まだ現れないようだし。

 それでも時間はかかったが、なんとかワニの攻撃を退けることができた。

「ハァ、ハァ、もう全部落としてやったかしら?」

「そうだね。もういないみたいだ」

 これが本物だったらこうはいかないのかもしれないが、ここは本の中。しかも幼年向けの児童文学だ。本当に危険な生物は出てこないのかもしれない。

 ふぅ、やれやれと、僕らは舟の中に腰を下ろした。

「ケロケロ。君たちよくやった。これで人喰いワニの棲息地帯を抜けることができたぞ」

 と、ガマグチ隊長が言った直後だった。

 ガバァッ、バクッ、バシャーン…!

 え!?

 一瞬、自分の目を疑った。

 今、水の中からもの凄く巨大なワニがジャンプして、渡し守の老人に大きな口でバクッと噛み付いて、バシャーンと水面に落ちたような…!??

「きゃああーーっ!!」

「ひっ、ひえええっ!」

 妙子とネズミ君の悲鳴。真っ赤に染まる水面。

 彼らの見つめる先には、巨大なワニが老人をバリバリと噛み砕いている光景があった。

 う、嘘!?

 ガマグチ探検隊シリーズって、幼年向けでしょ!??

 こんなグロテスクなシーンがあっていいの!???

「ディ、ディーゴだ!ディーゴの仕業だケロ!」

「ディーゴって何!?」

「人喰いクロコダイルだケロ!この辺りのワニのボスだケロ!」

 そ、そんなワニボスあり!?

「だあああーーーっ!!」

 血相を変えたネズミ君が櫂に取り付いて、猛然と漕ぎ始めた。普段力仕事なんかやりたがらないのに、危機管理能力の高い男である。

 その甲斐あってか、舟は猛スピードで河下へと進んでいった。

 ん?河下?僕らは向こう岸に渡ろうとしていたんじゃ?舟の舳先が別方向を向いてしまっている!

「ネ、ネズミ君!向きが違うよ!」

「そんなこと言ってる場合かぁ〜っ!」

 そのときである。

 ドオーーン…!

 突然、舟のすぐ近くで水柱が立った。グワングワンと、激しい揺れ。

「だあーっ、今度は何だぁーっ!?」

 ネズミ君は立っていられなくなって、櫂を離してしゃがみ込んだ。

 ドーン!ドーン!と、水柱は連続で上がる。

「な、何よぉ!?」

「きゃあ!」

 フッと、黒い影が舟を覆った。

 見上げると、空には絶滅したはずの翼竜が。

「ゲロゲロ〜!プテラノドンが襲ってきたゲロ〜!」

 プテラノドンはくちばしを開けると、クワッと火の玉を吐き出した。

 そんな馬鹿な。

 ドーン!

 火球はすぐそばの水面に着弾し、またもや盛大に水柱が立った。ダダダダッと、河の水が豪雨のように降り注いでくる。

「こ、こんなのありかぁーっ!!」

「ガ、ガマグチ探検隊シリーズは、ダイナミックな展開が売りなんですよぉ〜っ!!」

 ダイナミックな展開ってったってね。

 幼年向けで残酷な捕食シーンを出したり、恐竜に火を吐かせたりしたら、絶版になるのも無理もない気がする。

 ドーン!ドーン!ダダダダダッ…!

 プテラノドンは攻撃の手を緩めない。次から次へと水柱が立ち、僕らの頭上に水が降り注ぐ。もう集中豪雨の中を外に出たようにビショビショである。

「ゲ、ゲロゲロ!このままでは、人喰いウーパールーパーを見つける前にやられてしまうケロ!」

 人喰いウーパールーパーなんかよりももっと研究価値のありそうなものが、上空にいるのだが、この考古学者は一体どこに目をつけているのだ?

「だ、大丈夫です!あれはプテちゃんですぅ」

「プ?プテちゃん!?」

「さっき言ってた頼もしい味方ですぅ!ガマグチ探検隊シリーズに、いつも登場するプテラノドンのキャラクターなんです!さ、最初は敵として現れるんですけど、味方になってくれるんですよぉ!」

 そ、そうなのか?

「ゲコゲコ!ゲルルッパ、ゲロンゲロン!ゲントラゲントラ、ゲロンパゲンプル」

 突然、ガマグチ隊長が大きな身振り手振りで、プテラノドンに話しかけた。

 プテラノドンは攻撃を止め、じっと隊長を見つめている。

 こ、これはもしかして、プテラノドンを仲間にしてしまおうという、隊長の特殊能力なのか?

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