緑は日に焼けて、付録は楽しい
「ガ、ガマグチ隊長ですぅ!」
妙子がそう言わなかったら、モンスターかと思って攻撃していたところだった。
身長は170cmぐらいだろうか?僕と同じぐらい。でっぷりとした体型に、サンドカーキの半袖半ズボン。お揃いのサンドカーキのハット。お馴染みの探検隊コスチュームだ。たくましい腕にたくましい足は、日に焼けた緑色をしていた。
日に焼けた緑色って…。あんまり使わないな。でもそれが見た目通りの形容だ。顔も、顎の裏だけ白っぽいのを除いては、緑が日焼けしていた。
ギョロっとした目は大きく左右に離れて顔の淵から僕らを睥睨し、偏平な口は耳まで裂けていた。到底人間のものとは思えない。
そう、ガマグチ隊長は、カエルだ。本の表紙にあった漫画はガマグチ隊長だったのだ。
「ケロケロ。探検の用意はいいかい?探検隊諸君」
カエルはケロケロと喋った。
「おいおい、もしかしてこいつと一緒に探検に行くわけ?本の中を?」
盗賊が悪態をついた。
「ケロケロ。お行儀の悪いネズミが一匹紛れ込んでいるようだね。出発前に害虫駆除を頼んだ方がいいかな、ケロケロ」
カエルは害虫駆除業者の正しい使い方をちゃんとわかっているようだ。
「ご、ごめんなさいっ。この子、学校に行ってないんですぅ」
妙子が無茶苦茶なことを言う。
「あのなぁ…」
「そうかい、そうかい。学校に行ってないんじゃ、この子は6月のアマガエルよりも悲しい存在だよ」
ネズミ君が文句を言いかけたが、ガマグチ隊長はそれに被せるように、さらに無茶苦茶なことを言った。
「こ、こうやって言えば、ガマグチ隊長は許してくれるんですぅ」
そうか、ここは本の中だったな。きっとお決まりのパターンか何かがあるのだろう。
「じゃあ、みんな揃ったところで、人喰いウーパールーパーを探しに出発するよ。それではいいかい?ゲッコリンコでケロリンコ、いい子はネンネでケロリンパー!」
「ケロリンパー!」
間髪入れず、妙子が叫んだ。他の三人は微妙な表情で顔を見合わせた。
「ガマグチ隊長がケロリンパーって言ったら、隊員はみんなで声を合わせてケロリンパーって言うんですよぉ!」
なんか無茶苦茶な理由で叱られた。飛び切りの美少女からにしても、受け入れ難い内容だった。
「ケロリンパー!」
ガマグチ隊長がまた言った。
「ほ、ほら、みなさんケロリンパーですよ。言わないと出発しませんよ。せーのっ」
仕方なく僕らはケロリンパーっと叫んだ。
「まったく、こいつこそ学校行ってないら」
「ケロリンパ、ねぇ…。地元の人に見られてたらどうしようかしら」
ガマグチ探検隊シリーズって、幼年向け童話か何かだろうか?
「さあ、行くよ。ケロケロ出発進行だケロ!」
ガマグチ隊長は満足したのか、大はりきりで外に出ていった。
「わ、私たちも行きましょうっ。きっとこれから本の順番に沿って、人喰いウーパールーパーを探しに行くんだと思いますっ」
妙子に促されて、僕たちも出る。
「ね、ねぇ妙子さん。この本の内容って、どういうもの?」
「実は私もこれは読んでないんです。この話はほとんど版が刷られていなくって、幻の回とも言われてるんです。だから私、さっき見つけたときは興奮しちゃって」
…それって、面白くないから絶版になっちゃったんじゃないの?
「ネットの情報によれば、ワニや巨大な鳥を倒して、ジャングルの奥深くで人喰いウーパールーパーを探し出し、芸を仕込むという話らしいです」
「ワニや巨大な鳥?隊長はそんなに強いの?」
「あ、途中で頼もしい味方が仲間になりますから、心配はいらないです」
外に出るとガマグチ隊長が待っていた。この人(?)、態度だけは堂々としている。
「じゃあ、みんな。これが人喰いウーパールーパーの住処へと続く道を示した地図だケロ。迷子にならないように進むんだよ」
と、二つ折りにしたA4版の紙を一枚渡された。
開けて見ると、右下が僕たちが今いる場所で、左上が人喰いウーパールーパーが棲息するという沼のようだった。
だが、そこに行くまでに、川を越えて山を越えて、妙子の言ったようにジャングル深くまで行かなくてはならない。
地図はマッパーの妙子に持ってもらうことにした。
「さあ、まずは川を渡ろうね」
ガマグチ隊長がそう言うと、突然目の前に巨大な川が現れた。川というより、河といった方が適当だ。
「なんで急に現れたんだ?さっきまでなかったよな?」
と、ネズミ君は歯を伸ばした。驚いたってことね。
「ケロケロ。本は1ページ目から順番に読むものだよ。ゆめゆめこっそり先のページを盗み見ることなかれ。最初と最後とあらすじだけ読んで読書感想文を書くなんてことは、良い子のみんなはやっちゃ駄目だよ」
ガマグチ隊長の言葉から推測するに、おそらくここでページがめくられるように本が作られているのだろう。
河にはちゃんと渡し守がいた。桟橋のところに、この巨大な河を渡るには少々頼りなさげな舟が泊まっている。渡し守は、なんだか烏天狗みたいなくちばしを持った小柄な老人だった。この人が舟を漕ぐのだろうか?
「ケロケロ。みんなこの人にお金を払うんだよ。いくらかわかっているね?」
そう言われても、僕らは顔を見合わせてしまった。
「サンズーの川の渡し賃は六文銭だよ」
ガマグチ隊長は穴の空いた硬貨を6枚、紐で結わえたものを老人に渡した。
サンズーの川…。今からそこを渡るのに縁起でもない。
それより六文銭?
「ネズミ君、お金持ってる?」
「異世界ゴールドと日本円ならあるけど?」
学校で習ったことによると、もはや一文銭は流通していない。
「ここって江戸時代なの?」
「さあな、飴ちゃんでなんとかならないかな」
僕らが困っていると、妙子が何か閃いたようだった。
「あっ、そうだっ。勇者さん、ちょっと待っててください」
タッタカタッと、スカートを翻してお菓子の家に入っていく。
なんだろう?
しばらくして妙子は戻ってきた。
「勇者さん、これ見てください」
見せられたのは、紙でできた六文銭。
「これを作ってたの?」
「い、いえ。ガマグチ探検隊シリーズは、表紙の次のページが付録になってるんです。切り取って遊べるようになっていて。もしかしてそれがないかと思ったら、やっぱりありましたっ」
そうなの…。このシリーズは、やはり幼年向けの絵本みたいなやつだな。
「ケロケロ。早くお金を払うんだよ」
「あ、はいっ」
妙子は紙のお金を渡し守に渡した。
これでパーティ全員が乗れるんだろうか?
「んじゃ、遠慮なく」
「落としたら承知しないわよ」
ネズミ君と鉄子が乗り込んだのを見て、僕も慌てて舟に乗った。




