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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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122/206

変わるのは一瞬で、物語は胡散臭い

「あっ、さっき見てた本ですぅ!」

 妙子が叫んだ。

 というと、ガマグチがどうとか人喰いウーパールーパーがどうとかいうやつか?

 表紙にカエルの漫画のような絵が描かれているのが、僕にも見てとれた。

 本はバサッと床に落ちると、バラバラバラバラッと、凄い勢いでページがめくられ、あるところを開いて止まった。

 すると、ヌワッと何か巨大な白い塊が、そこから飛び出してきたのである。

 ツルッとして偏平な頭、左右に離れたつぶらな目、耳まで裂けた口。

 一瞬、新手のシルバーフィッシュかと思ったが、もっとヌラヌラとしている。襟は、左右に3本ずつ、細かい毛の生えた腕のような触覚が生えていた。

「き、きっと、人喰いウーパールーパーですぅ!」

 妙子は怯えて、さっとゲンちゃんを抱き上げた。

 これが…、それか。

 デカいな。まるでランプから出て来た魔人だ。下半身はまだ本の中だってのに、僕らはそいつを見上げなくてはならなかった。

 鎌首をもたげて、人喰いウーパールーパーは僕らを見下ろす。

 すると、カパッと大きな口が開いて、中から薄桃色の舌がビヨヨヨヨ〜ンと、勢いよく伸びてきた。

 一見それは妙子の豊満な胸に飛び込んだかに見えた。が、すぐに喉の奥目掛けて収縮を始める。

 舌の先っぽについていたのは、今夜の鍋物に良さそうな、フサフサしたもの。

「きゃあーーーーーんっ!!!ゲンちゃああーーーーーーっ!!!!」

 ムンクの叫びと化す妙子。だがその祈り神に届かず、化け物は唇を閉じて、ゴクッと喉を鳴らした。

 えっ!?食べた?食べられた???!

 その間、一瞬の出来事だった。

 すぐにまたビヨヨヨヨ〜ンと舌が伸びてくる。今度は妙子の腰に巻きついた。

「きゃあああーーーーーっ!!!!!」

 それも一瞬だった。クルクルと妙子を巻いたまま、舌は大きな口に吸い込まれていった。

 ウーパールーパーの喉が弾力的に伸び縮みして、なにやら人型のものが通っていくのがわかった。

 え!?え!??えええええ!?????

「あ、あんた!何すんのよぉ!」

 いきり立った鉄子が、竹竿で喉の辺りを思い切り叩いた。

 天を仰いで痛みに悶えるウーパールーパー。ダメージを与えたか?だが次の瞬間、大きく口を開けると、首を曲げて鉄子に襲いかかった。

 頭からズポッと腰のあたりまで咥え込むと、そのまま持ち上げ、天を向いた。

 あれ?鉄子の靴底が天井を向いている?

 怪物がパカッと口を開くと、哀れな女戦士はスカートが捲れる暇もなく、そいつの喉奥へと落ちていった。

 な、何が!?何が起きてる!??

 この怪物が本の中から出てきて、まだ一瞬。一瞬しか経っていない。

 その間にパーティは半壊したのか?こいつに飲まれて?

「ほっほっほ。案ずるでない。奴の口は本の世界への入り口じゃ。お前さん方の仲間は今頃、本の中で無事じゃよ」

 シルバーフィッシュの声に振り向く。

「ど、どういう、どわぁああっ!」

 ネズミ君が何かを言いかけたが、彼の腰にもピンクの舌が巻きついていた。あっという間に引っ張られていき、ウーパールーパーの口内へと消えた。

「お前さん方には本の世界へ行ってもらう。出てきたくば、ちゃんと1ページ目から進んでクリアすることじゃな。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 不敵に笑うシルバーフィッシュを、僕は宙に浮いて眺めていた。

 ということは?うん?僕の腰にも、ウーパールーパーの舌が巻きついているぞ?

 え?え?ええ!?

 本の中って!

 こっから入るのをぉ〜!?!

 うええええ…!

 すぐに視界が真っ白になり、ぬめりけのある狭い通路のようなところを通っていった。

 すると、ボムッ!

 何かフワフワしたものの上に落ちたのである。

 落ちた勢いでコロコロと転がって、何かにぶつかって止まった先は、ネズミ君の足元であった。

「わっ、ネズミ君。みんな、無事?」

「ああ、どうやらな」

 立ち上がって周りを見回すと、鉄子や妙子、それにゲンちゃんの姿も確認できた。よかった。みんなウーパールーパーに食べられてしまったのかと思った。

「胃袋の中ってことはないわよね、ここが」

「あいつ、本の世界とか言ってたな」

「う、うん。1ページ目からクリアしろとかなんとか」

「ということは、ここは本の中なの?」

 鉄子は怪訝そうに辺りを見回した。

 僕らは奇妙な部屋の中にいた。

 あまり広くはない。ソファがあったり机があったりするけど、なんか違和感ある。それに、なんか甘い香りがするんだけど。

「こ、これ、お菓子の家ですよぉ!」

 妙子が叫んだ。

 お菓子の家だって?

 よく見ると、壁にかかっている時計は、文字盤がビスケットだった。チョコレートの針がカチカチと時を刻んでいる。

 さっき僕が落ちたのは、どうやらスポンジケーキのベッドらしい。形が崩れているのは、みんな同じところに落ちたからか。

 試しにひと欠片つまんで口に入れてみる。甘い。本当にケーキでできているんだ。

 他にも窓はキャンディ、床はクッキー、壁はカステラだった。

「おっ、結構うまいじゃん」

 どこかから入ってきたネズミが、カステラを出っ歯で齧っていた。こういうときこそ、害虫駆除業者イクスターミネーターの出番なのだが。

「疲れたときには、甘いものがいいのよね」

 と、鉄子が巨大なマシュマロにかぶりつく。これは枕のようだな。

「お菓子の家ってことは、ヘンゼルとグレーテルだよね。グリム童話の世界に来ちゃったのかな?」

 という僕の解答は、即座に妙子に否定された。

「い、いえっ、これ、見覚えがありますぅ」

 違ったか。ブレーメンの音楽隊だったかな?僕の家には絵本なんてなかったから。背伸びしてよく知らないものについて語ろうとしてしまったか。

 だが答えは予想していたものとは違っていた。

「これ、ガマグチ隊長の家ですぅ!」

 う、そうだ、そうだった。僕らはその本に入ったんだった。当たり前に分かる問題だった。反省。

「ガマグチって、おいおい。あのおっさん、こんなとこに住んでんのか?」

 と、ネズミ君。飴でできた花瓶をバリバリと齧っている。

「おっさんじゃないですよぉ。大学を出たばかりの若手考古学者です」

 妙子の足元では、ゲンちゃんが床に爪を立てて、クッキーをボロボロにしていた。こんな家にいたら、害虫駆除業者イクスターミネーターを何回頼んだって終わりやしない。

「ねえ、そもそもそのガマグチ探検隊シリーズって、どんな話?」

「ガ、ガマグチ隊長の探検隊が、秘境に行ってUFOと交信する部族と麻雀したり、小籠包を懸けて恐竜の生き残りと旗上げゲームをしたりする話ですぅ」

 う、胡散臭いなぁ〜。

「その中に人喰いウーパールーパーと戦う話があるんだね?」

「あ、いえ、人喰いウーパールーパーは戦うんじゃなくて、芸を仕込みに行く話らしいです」

 げ、芸を仕込む?余計に胡散臭い。

 そのとき、部屋の扉が開いて、何者かが入ってきた。

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