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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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119/206

理性は働けど、閃きはない

 昨日の奇妙な冒険の興奮も冷めやらぬ、ザビエル暦五月第三週四日目である。

 30ゴールドを手に入れて、少し裕福になった僕たちではあったが、地下一階の探索も残りわずか。

 出来れば今日中に、少なくとも今週中には地下一階をコンプリートしてしまおうということで、勢い込んでダンジョンに下りていった。

 後残っているのは、昨日入ったダークゾーンの西側のエリアだけである。

 僕らは妙子のマップを入念にチェックして、本日の探索計画を立てた。

 ダークゾーンを西向きに進めば目指すエリアに出そうだが、それよりも確実そうなルートでアタックすることにした。

 なにより僕と鉄子は、また電車ごっこをするのが嫌だったのである。

 計画はこうだ。ちんぶり商店ダンジョン支店とワープゾーン出口とを結ぶ通路。ここの真ん中やや東に、まだ僕たちが開けていない北向きの扉がある。ここから行った方が、目指すエリアへの近道ではないだろうかと見当をつけた。

 答えはまだわからないが、わからないなりに大体の予測を立てる。わからないものをXとおいて、わかるところを計算していく。学校で習った方程式が活きている。

 その方程式に従って僕らはちんぶり商店に入り、北東出口より抜けて、ワープ到着地点へと続く通路を目指すところまで進んだ。

 ここは通路の南北に向かい合わせに扉がある。南の扉を開ければ、地下一階南東エリア、富士山の富の字のウ冠の頂点に相当する部屋である。僕らは先日、この部屋に置いてある宝箱を取った後で、ここの扉から出てちんぶり商店経由で帰ったのであった。

 ちなみに扉を開ければまた宝箱があるだろうけど、中身はウールのニットキャップである。誰も興味を示さず、僕らは北側の扉を開いた。

 玄室の可能性は低いだろうということで、先頭を行くネズミ君が特に警戒もせずに開けてしまう。この盗賊、ビビるところは滅茶苦茶ビビるが、無警戒なところは完全無警戒である。要するにいい加減なのだろう。

 扉の向こうは1ブロック四方の部屋だった。

 幸いにもここには居住者がいないようで、中は何もないガランとした部屋だった。ただ、正面(北)と左(西)に扉がついていた。

「どっちにする?」

 と、盗賊は僕に聞いてきた。判断がつかないということである。迷ったら勇者に丸投げ。これが彼の冒険方針である。

「北から行こう」

 と、僕は答えた。妙子のマップを見ると、正面の壁を東に延長していったラインは、ダークゾーンの南端のラインと一致していた。

 問一。北に扉がありますが、作者(ダンジョン製作者)は何を考えているでしょう。

 ア、あ〜早くスタバ行きて〜。

 イ、ダークゾーンを延長

 ウ、ダークゾーンを延長しない

 エ、妙子また胸大きくなったんじゃない?

 先生「え〜っと、この問題わかる人?」

 生徒A「作者が何を考えているかなんて、わかるわけないじゃないですか」

 生徒B「他の選択肢じゃ駄目なんですか?オ、菊花賞の予想が気になる、というのはないんですか」

 フン、甘いな愚民共よ。生徒Aは物事を表面からしか見ていないエセ知識人。言葉の上っ面しか見ていない上に、勘違いまでしている。生徒Bは人と違うことをすれば目立てると思っているエセ文化人。それを面白いと思うのは自分だけだぜ。いずれにせよ、どちらも理性の誤用である。

 限定的に与えられた状況から発せられた問いであれば、その答えは限定的に導き出されるのだ。

 アとエは単なるダミー。答えはイかウのどちらか。

 西の扉は何があるかわからない。選択肢オもカもあり得る。それは可能性としては北だってそうだ。だが、()()()()()()においては、限定的に答えは一つになる。極めて限定的に。

 今僕らに与えられている状況から正しく理性を働かせれば、ダークゾーンが延長されているのかされていないのか、その二つに一つに限られる。

 扉を開けてみて暗かったらダークゾーン。ランプの光が伸びていけばそうではない。そのことがわかった上で、また次の推論が始まる。

「勇者、早く開けないか」

 ネズミ君から急かされた。

 理性を正しく使って、とにかく扉を開けるとする。

 ガチャリ。

 ランプの光は、恐る恐る向こう側へと足を伸ばした。

 見える。ダークゾーンではない。

 僕と鉄子は、武器を警戒的に構えながら、新たなエリアに侵入した。

「おっ、なんだ、こうなってたんだな」

 遅れて入って来た盗賊が、右側(東側)を見て軽く驚く。そこには、黒い壁がそびえ立っていた。

「ダークゾーンの裏っかわなんだね、ここは」

 つまり、おそらく長方形をしているであろうダークゾーンを、昨日は底辺側から、今は左辺側から見ている。

 ここから黒い壁に入って、南東方向へと突っ切れば、すぐに昨日僕らがダークゾーンへと侵入した側に出ることができるようだ。

 だとしたら昨日そこまで確かめておけば良かったのにとも思うが、昨日の時点でそれは無鉄砲というものである。

 僕らが一寸先は闇の世界にいることをお忘れなきよう。

 面倒くさいけど、一つ一つ計算式を解いていかなければ、見当違いの答えに辿り着いてしまう。

 ひとまず右手にダークゾーンを見ながら、北の端まで行ってみることに。4ブロックで行き止まりになったが、やはり右手(東)はずっとダークゾーンだった。そこから左折して2ブロックで壁。さらに左折して4ブロック南下。西側の壁には1ブロックおきに扉が二枚あった。入り口側(南)から言うと、扉、壁、扉、壁の順である。

 そこで三度みたび左折して2ブロックで、最初の地点に戻ってこれた。要するにここは壁とダークゾーンに囲まれた長方形のエリアだ。

「先に南か?やっぱ」

 ネズミ君が僕を見た。西側に二枚ある扉のうち、どちらかを開けて進むしかないが、どちらを先にすべきか。

 こういった場合、今まで僕は常に手堅い方を選んできている。だから手前の南の扉からアタックをするかと、ネズミ君は聞いている。彼も僕の考え方がわかってきたようだ。

 回りくどいといえば回りくどい方法だが、僕には数学的なひらめきがない。

 方程式だったら、たとえ計算式が百行に渡ってもミスなく計算することができる。でも、因数分解や図形の問題は苦手だ。

 一発であるべきものをあるべきところに整理する公式を当てはめることや、全ての関係を明らかにする補助線を引くことは、すぐにはできない。

 だから回りくどいし、必要以上に石橋を叩くことになっているかもしれない。その点、ネズミ君の性格とは合わないのかもしれないが。

「南から行こう」

 このパーティの勇者は僕だ。決断は僕がするのだ。

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