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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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115/206

電車はゴットン、勇者は不幸

 ひとまず、今いるフロアの探索できるところから先に探索する。ダークゾーンに入らなければそれに越したことはないと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 南壁に沿って西に移動してみたが、入り口から3ブロック進めただけだった。そこで壁に当たり、その間、右側(北)にはずっと黒い壁が続いていた。

「どうしてもダークゾーンを通らなきゃならないようにできてるみたいだな」

 盗賊が出っ歯に手をやって、あ、いや、顎に手をやって神妙な顔つきで言った。

「なんかいたりするのかしら?」

 無敵の女戦士も、オバケとイケメンには弱い。どうせ出てくるのならイケメンの方がいい。違うな、オバケの方がいいな、僕は、ウン。

「ダークゾーンの闇ってのは、光の不在じゃなくて、魔法で闇を発生させているわけだからな。中には物好きがいるかもしれんが、モンスターだってこの中では見えないはずだぜ」

 と、ネズミ君。だからさっきは無鉄砲にも、この臆病な盗賊が暗闇の中に入れたわけだ。しかし実在する闇か。異世界の物理法則が現実世界のものとは異なるところだろう。

 とは言え、闇雲に突っ切るわけにはいかない。僕らは現在与えられている手掛かりを頼りに、なるべく確実に進むことにした。

 つまり、ダークゾーンの東側は今通ってきた通路の壁である。だから、一旦、入り口まで戻って、右側(東)の壁に手をついて北進することにした。

「鉄子、竹竿貸してくれよ」

 他にネズミ君はリュックからロープを出した。長いロープの端と端とを結び合わせる。

「暗闇で離れ離れになるといけないからな」

 と、輪っかになったロープをくぐった。

「正気?冗談じゃないわよ」

 鉄子は拒否反応を示したが。

 はて、ネズミ君は何をする気だ?僕はちっとも意味がわからなかったが、妙子が行動をもって教えてくれた。

「電車ごっこですねぇ。ほら、ゲンちゃん、お電車乗りますよ〜」

 彼女はゲンちゃんを抱きかかえて、出っ歯の車掌の待つ輪の中に入った。

「あのねぇ、なんで地下迷宮まできて電車ごっこしなきゃなんないのかしら」

 渋々といった感じで鉄子も続く。

 そうか。これが俗に言う電車ごっこというやつか。噂に聞いたことはあったが、実際見るのは初めてだ。友達がいたことのない僕には、複数人必要な遊びは縁遠い。そもそも電車なんてものは、ブルジョワジーが乗るものだ。

「勇者も早くしろよ」

 ネズミ君が急かす。

「乗り遅れちゃいますよぉ」

 妙子もノリノリだな。

「どーでもいいから早く出発進行して」

 パーティでまともなのは一人だけみたいだ。彼女の精神が崩壊しないうちに、僕も電車に乗り込もう。良識発羞恥心行き、ただいま出発進行である。

「ミャアァオ〜〜ン!」

「短足猫、黙ってろ!」

 警笛を、いや、猫笛びょうてきを鳴らして、電車はゆっくりと走り出した。もはや故郷には戻れない。誰も見送りに来ていないことだけは救いである。

「いいか?右に壁があることを確認しながら進むんだぞ」

「はいはい。了解したわよ、車掌さん」

 隊列はそのまま、ネズミ君、僕、妙子&ゲンちゃん、鉄子の順だ。ネズミ君が竹竿を持つのは、床を叩いて落とし穴などをチェックしながら進むためである。

 先頭のネズミ君の背中が漆黒に消えてまもなく、僕の視界は完全に闇に包まれた。コツ、コツと、竹竿で足元を確認する音、ロープの引っ張り具合。もうパーティ全員が完全に闇の中だろう。

 右手を壁に付けて、そろりそろりと進む。本当に真っ暗。冷んやりとした固い感触を手の平に感じる。まるで僕たちの体が全て闇に溶け込んでしまって、形のあるものはこの固い壁だけのようだ。

 ここは完全に闇の世界、死の世界だ。この場所で生命の活動など有りっこない。僕らもこんなところにずっといたら…。

「うわっぷ!」

「どうした、勇者?」

「蜘蛛の巣が顔に引っかかった」

「そうか?俺はなんともなかったけどなぁ。後ろはいいか?」

「だ、大丈夫ですぅ」

「なんともないわよ」

 生命はたくましい。こんなところにも生き物が。ちなみに先頭を歩くのはネズミ君である。僕はその後ろ。彼の方が背が高い。

 …で、なんで僕の顔にかかる?

 なんか自分の上にだけ雨が降っている男みたいな。まあいつものことだけど。

 再び、コツ、コツと音を立てながら歩く。魔法で発生させた闇は、いつまで経っても目が慣れない。

 コツ、コツ、コツ、コツ。カチッ。コツ、コ…。

「なあ、今、カチッていったよな?」

 ネズミ君は足を止めた。右の壁に付けた僕の指先には、確かに何か丸いボタンのような感触があった。

「なんか、壁に豆粒みたいなボタンあるみたい」

 次の瞬間、ウイーーーン、という音がして、前方から風圧を感じた。

「ねえ、なんかあったでしょ」

 しんがりから声がかかる。風圧は蜘蛛の巣のように僕で止まらない。

「勇者、どこ押したんだよ」

「ここだよ」

 真っ暗な中、ネズミ君の手を取ってボタンらしきものまで誘導した。

「お前なぁ〜。よくこんな小さいものにヒットさせられるよな」

 そんなこと言われたってね。運が悪いのか、あるいは、この暗闇の中で押せるのは逆に運がいいのか。

「ちょっと待ってろよ」

 ネズミ君は念入りにコツコツやっていたが、やがてまた歩き出した。だが、すぐに止まる。

「むっ」

 コツコツという音と違う、コンッという高い音がしたのが、僕にも分かった。

 コン、コン、コンコン、ココココ、ココ。ネズミ君はいろんなところに竹竿を当てて調べているみたいだった。

「うん、どうやら木の壁かなんかで通せんぼされたみたいだな」

 ううむ、さっきのボタンを押したせいで罠かなんかが発動したのか。

「しょうがない。ここで直角に左に曲がるぞ」

 見えない中、ロープが左に引っ張られた。ちょこちょこと足を動かして、転ばないように曲がる。右手を伸ばしてみると、今までと違う、木の感触があった。

 コン、コツ、コン、コツ、コン、コツ。木の壁と石の床を、竹竿が交互に叩いていく。

 やがてそれが、コツコツコツコツと、石床を叩く音だけになった。

「おっ、終わったか」

 ネズミ君は立ち止まり、しばらく何かをやっていた。

「フムフム、なるほどな。ここに支柱があるわ。蝶番みたいにして木の壁が回転する仕組みになっているようだな。ってことは、グルッと回ればまた元の壁に戻れるな」

 それを聞いてホッとした。この暗闇の中で拠り所は東側の壁しかない。

 ネズミ君の言うようにグルッと回って進むことしばらく、僕らはようやく元の石壁の冷やっとした感触に戻ってこれた。

 ふう、これでまた先に進める。とにかく北へ、北へ向かおう。ダークゾーンに入る前に確認したマップによれば、僕らが今いるエリアは、一番北の部分に、東西3ブロック連なった長方形の出っ張りがある。その部分が行けるようになっているかはわからないが、突き当たりまでは進むのだ。

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