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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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113/206

運は乏しく、野菜はダサい

 金魚の貯金箱は、結局僕の部屋の飾りとなった。

 ネズミ君は、お前の部屋は味気ないからこれでも飾っておけ、と言ったが、単に誰も引き取り手のいないものが僕に回ってきただけという気がする。そもそも中身の入っていない貯金箱に何か意味はあるのだろうか?

 特に置くようなところもないので床に置く。ヒポポタマスに貰ったカバの置物と並べてみたが、そんなに部屋に()()が備わったようには見えなかった。床に直置きがまずいのだろうか?

 こういうことをすると運が逃げると聞いたことがある。特に貯金箱なんかを直置きにするのは金運にとっていいことではないそうだ。

 でも台かなにかを買うようなお金もない。つまり運を買うにもお金がいるのだ。

 そうして富める者はますます富み、持たざるものはますます奪われる。まさにキリストの言った通りなのだが、それが真実なら、どこに希望を持てばいいのだろう?

 お金なんて、持ったところでロクな人間にはならないよ、と真実とも負け惜しみともとれる陳腐なクリシェを思い浮かべる。

 それに貧乏人は競争に参加すらさせてもらえないんだから、全然負け惜しみじゃない。という真実とも負け惜しみともとれる負け惜しみ。

 結局、負け惜しむものはますます負け惜しむのである。


 次の日、ザビエル暦五月第三週三日目。勇者科の教室には持てるロクでなしがいた。

「な、何を、何を装備しているんだ君は!」

 何をって、君の親父が理事を務める学園の購買部にちゃんと売っている武器なのだが。

 玉音銀次郎は僕がデメキンのハンマーを装備しているのを見つけると、急に顔色を変えた。

 僕のこと嫌いなんだったらいちいち絡んで来なくたっていいのに。こちらは君のことを無視する態勢は完全に整っている。

「冗談か!?そんなもの、勇者が装備する武器ではない」

 と、吐き捨てるように言った。

 玉音が大声を出すものだから、他の生徒もやってきた。

「無学君、何それ。ウケる」

 板東組代さんに気に入ってもらえて、心なしかデメキンもニンマリしているように見えた。

「ハンマーだよ。ちんぶり商店で扱っているハンマーはみんな魚の頭を持っているんだ」

 玉音と話したくない僕は露骨に板東さんにだけ答えてあげたのだが、金持ち空気読まずである。お邪魔虫が強引に割り込んできた。

「勇者の武器は剣だと相場が決まっている。それに、寄りにも寄ってわざわざデメキンを選ぶことはないだろう。君も、なんだ?剣はどうしたんだ、剣は」

 と、鉾先を板東さんにも向けた。

 彼女の装備は革製の鞭である。ナマケモノの剣は扱いにくいということで、ゴールド小僧を倒したときにこちらに変えたのであった。

「鞭の何が悪いのよ。ナマケモノの剣なんて重くって使いにくいんだから。玉音君はいいわよね。最初っからいい剣を持っていて」

「この剣か。ふふ、この剣はオニオンセイバーといってね、ちんぶり商店で売っている剣の中でも最上位に位置する逸品なんだ」

 完全な皮肉を言われたというのに都合良く曲解して、玉音は剣自慢を始めた。馬鹿と金持ちは非論理性によって結び付いている。だがそれはロック少女にはウケなかった。

「オニオンセイバー…。だっさい」

「な、なんだと!?君はこのオニオンセイバーの美しさがわからないのかっ!?」

 玉音は顔を歪めてロック少女のセンスを疑ったが、まともなセンスの持ち主であれば、オニオンセイバーとは玉ねぎを切るための専用の包丁だと思うであろう。

「アイヤー、玉音君、持てるの剣だけじゃないアルな。言てること矛盾してるアルヨ」

 王援歌さんもやってきて、目ざとく何かを見つけたようだ。

「これか」

 玉音はもう一つの武器を取り出した。

 短い棒の先に短い鎖が付いていて、その先にはつるんとした鉄球がある。

「勇者たるもの、命を預けるのは剣しかない。だが、冒険には不測の事態というものが付きものだ。だからもし万が一、剣が使えない状況になったときのことを考えて備えをしておくのが一人前の勇者というものだ。昔の侍が大刀と小刀を腰に差したように、冒険者も主武器と副武器を持つのが一般的だ。これはオニオンフレイルと言って、初心者にも扱いやすく上級者の副武器にも最適という、優れものなんだ」

 ジャラッと鎖を鳴らしてみせた。

 フレイルというのは、元々は脱穀用の連接棍棒が進化したもので、棒と棒や、棒と鉄球などを、リングや鎖で結んだ打撃武器の一種だ。普通に棒で叩くように攻撃すれば、遠心力を利用した強い打撃ができるため、初心者でも簡単に大ダメージを与えられる。柄や鎖が長いものほど遠心力が大きくなってダメージも上がるが、その分扱うのに技術がいる。

 玉音が見せびらかしているものは、柄も鎖も短く、初心者でも扱いやすいタイプだ。

「百歩譲って剣でないというのなら、このオニオンフレイルを使うべきだ。ちんぶり商店でたったの2500ゴールドだぞ?」

 高っけえ〜。

「ダサい」

 やっぱりウケなかった。だって、鉄球は玉ねぎの形そのものだったから。玉ねぎの先っぽの尖ったところから鎖が出ている。

「何を言うか!君にはこの曲線の美が分からぬのかね!?」

 きっとこいつの家では、玉ねぎを額に入れて飾っているのだろう。

「ワタシ、玉ねぎ嫌いアル。野菜はザーサイが一番アル」

「玉ねぎを食べないと、背が伸びないぞ!?」

 なんかわちゃわちゃやっているうちに、マタドール先生が教室に入ってきた。

「ブエノスディアス、アミーゴス。なんディアスか、玉ねぎですか。フレイルはもろこしフレイルが一番です。あれなら一撃でジャイアントを倒せます。にんじんのフレイルも好きですけど、あれは女性用ですね」

 この学園のハンマーは魚だが、どうやらフレイルは野菜を模しているらしい。

「先生!オニオンフレイルだって、使いようによってはマンティコアを倒せます!」

 玉ねぎのアホは放っておいて、とっとと授業に集中しよう。

 ちなみにこのフレイルという武器、僧侶科の生徒たちに人気が高いという。それはこの学園に入ってくる生徒は、ゲームを通じて異世界への憧れを募らせてきた人が多いからで、ゲームではよく僧侶は刃物を使ってはいけないという縛りがあるからなんだそうだ。

 なんでもゲームの設定上、そういう宗教的な戒律があるそうである。

 ただ実際の僧侶は料理のときには包丁を使うわけで、ここの学園にもそういった戒律はない。現に入学式のときにもいたが、突突法師つくつくほうしという僧侶科の指導を請け負っているお坊さんが、槍術も教えている。それでもフレイルを選ぶ僧侶科の生徒が後をたたないようであるが。

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