家計は助かり、魚は硬い
ネズミ君はいつも宝箱、宝箱と言っているけど、その割にお金のことはあまり語らない。実はお金に余裕のない僕と鉄子は、パーティでとる夕食のときだけなのだが、今まで宝箱から得たお金を使わせてもらっているのだ。それはいつもネズミ君が出してくれてるんだけど。
大型連休中の滞在費にと、一時期財布を預けてもらったから、後どれだけ残っているか、大体の見当はつく。
きっともうそろそろなくなる、いや、まさかもうなくなってるとか?
「ネズミ君、パーティのお金どうなって…」
そう聞こうとしたときだった。
ザザザザザバァ!
「うわっ!」
急にまた魚族の老婆が現れた。
「ほっほっほっ。お主らは正直者よのう。気に入ったぞぇ。これもついでに持っていくがいい」
と、何かを床に置いて、またすぐにザブンと潜っていってしまった。
「ちょ、ちょっとおばあさん!」
聞こえるわけないか。
なんだろう、金の斧銀の斧とか?
少し期待してしまったが、なんだこれ。
陶器製の金魚のオブジェ。背中にスリットが入っている。
「うちにもあったわ、この貯金箱」
鉄子がそいつを持ち上げて、ひっくり返した。スリットからチョロチョロと水が出てくる。
わっしゃわっしゃと振ってみると、なにやらカランカランというくぐもった音がした。
「おおおおおっ!?入ってんじゃないか、それ。ちょっと貸してみ」
耳ざとい盗賊がやってきて鉄子から貯金箱をひったくると、腹の底を探ってゴム栓を外した。
ジョロジョロっと残りの水と共に出てきたのは、3枚のコイン。
「おわーっ!やっりぃ!」
ウヒョーと彼が喜んだときにやる、ガガンボが羽ばたくときのような踊りを踊った。
「へっへー、儲かったぜ。なーんだ、このフロアはこういう仕掛けになってたんだなあ〜」
と、にやけた顔でコインを懐にしまった。
いつも3ゴールドだと文句を言うネズミ君だけど、こんなに喜んでいるということは、パーティの財布はおそらく既に赤字だったのだろう。その分の補填はさりげなく彼がしてくれていたのかもしれない。ううむ、だとすると頭が下がる。
「よしっ、帰ろうぜぇ!」
ヒャッホーウと、命からがら蜘蛛の巣から抜け出したガガンボのようなネズミ君。ランプを持っているのは彼だけだから、僕らも暗闇の中に取り残されるわけにはいかない。今日の課外活動はこれまでだ。
学園に帰った後、夕食前に僕とネズミ君で、ちんぶり商店という名の購買部に寄ってみた。さっき貰った棒を鑑定するためである。すると、とある事実が判明した。
「で、デメキンのハンマー?」
「ほら見ろ。やっぱりハンマーだっただろう」
たまに正解すると大袈裟に得意がるネズミ君。ハンマーとは、現実世界の工具の中にも存在しているが、トンカチを大きくしたような形状の打撃武器である。まっすぐな棒の先に攻撃するための錘が付いているのが一般的だ。
実はこのデメキンのオブジェが付いた棒は、れっきとした武器だったのだ。どうやら先っぽのデメキンの部分で叩くようになっているらしい。確かに二つの目は大きくデフォルメされていて、トンカチみたいに見えなくはない。尾鰭の部分は尖っていて、違う刺激を与えられそうだ。何故かスリットまで入っているんだが、ということは、釘抜きができるということか?ダンジョンにいるときはよく見えなかったが、柄の部分はグラスファイバー製で、持つところにはちゃんとグリップが付いていた。
他にもハンマーの種類を色々と見せてもらったのだが、ここの購買部で扱っているハンマーは全て魚のお頭つきだった。
一番安いメダカのハンマーに始まり、ニジマス、ナマズ、タイ、カツオと、ランクが分かれている。錘の大きさは実際の魚の大きさとは比例していないようで、デメキンはニジマスとナマズの中間に位置していた。ちなみにデメキンのハンマーの価格は1500ゴールドである。
「そんなにするの。こんな冗談みたいなものが」
確かにトンカチの頭の部分なんて、どんな形であっても重量と硬ささえあればダメージを与えられるから、魚の形であっても問題はないのかもしれない。
「どうする、勇者?そのハンマー、100ゴールドで買ってくれるって言ってるぜ。程度のいいやつならもっと出せるそうだけど、水に浸かってたからな。それが精一杯なんだと」
微妙な金額だった。100ゴールド。それだけあればだいぶ生活は楽になる。でも武器はなくなってしまったし、ナマケモノの剣を買うと150ゴールドする。仮にこいつを売ったとしても手が届かない。それならばこれを武器として使う方がいいか。ナマケモノの剣と引き換えに1500ゴールドの武器が手に入ったと考えれば儲けものかもしれない。
「これを使おうか」
「んだな」
なんか格好は不細工だけど、武器は見た目よりも威力である。




