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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第三部

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111/206

会議は踊らず、されど戻らず

「だ、だから、正々堂々戦いなさ〜い!」

 さっきよりも更にどでかい声を張り上げる鉄子。

「ええ!?何か言ったかのぅ?」

 魚族の老婆は、耳に手を当てて身を乗り出した。

「だーかーらー!こっちきて戦いなさいってば!ってゆーか、聞こえないんだったら、もっと近付きなさいよぉ〜!」

 くあ〜。耳元でデカイ声出されると、こっちがキンキンする。

「お若いの。何かお困りのようじゃのう。ほれ、この婆に話してみなさらんか」

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!キィ〜っ!」

 鉄子はイライラして、ガンガンと竹竿を床に打ち付けた。

「おい待てよ、鉄子。このばーさん、本当に耳が悪そうだぜ」

 ネズミ君がやってきた。ということは、攻撃される恐れはないということか?

「ほれ、遠慮せんと、この婆に話してみい」

 老婆は、こちらの状況などいっさいお構いなしで、マイペースである。

 僕らは集まって、簡単なパーティ会議を開いた。

「どうする?」

「なんなのよぉ!あのばーさん」

「お、オトモダチ・モンスターっていうやつでしょうか?」

「だったら蛙が攻撃してこないら?」

 といっても、急にいい案が浮かぶものでもないわけで。

「ほれ、ほれ、何を恥ずかしがっておる。ほれ、ほれ、ほれ、ほれ」

 老婆は相変わらずプールの中央から動かずに、ほれほれ催促した。

「もう、ほれほれ、鬱陶しいわね!」

「罠だって可能性もまだ残ってるよね」

「剣を落としたっつったら、拾ってきてくれるのかもよ」

「勇者さん、火の玉出してちょうだいよ。ケンジ・ジョージマ、メジャーリーグ打法をお見舞いしてやるわ」

「まあ待てよ。相手は攻撃して来ないんだから、一応正攻法で行ってみたらどうだ?」

「ミャ〜ン」

「ゲンちゃん!?金魚は食べないって、約束だよ!?」

 一応、方針が決まって、老婆に向き直る。どういう結果になるかはわからないけど。

 すーっと息を吸い込んで、ありったけの力で吐き出す。

「僕は、ナマケモノの剣を落としちゃったんだよぉ〜!」

 老婆は一瞬の沈黙、そして。

「ええ!??」

 だあああ〜〜〜〜っ!やっぱりぃぃ。

「ナマケモノの剣を落としたんだぁ〜〜!」

 ネズミ君も大声を張り上げた。

「えええ!!??」

 だあ〜っ!

「ナマケモノの剣を落としたのぉ〜〜!!」

「ナマケモノの剣を落としたんですよぉ〜〜!」

 鉄子も妙子も、声を合わせて叫んでくれた。

「え、ええっ!?貰い物の金魚の靴下?」

 誰だよ、そんなの贈ったの。でも、少し通じてきたのか?

「ニャンニャニャンニャ、ニャニャニャニャニャア〜〜!!」

「コラ、短足猫!黙ってろ!」

 金魚というワードにゲンちゃんが反応したようだ。

「せーのっで、みんなで行くよっ。せーのっ!」

「「「「ナマケモノの剣を、落としたんだあ〜〜〜!!!!」」」」

 ダンジョンの石壁に僕らの大合唱が鳴り響いた。タイミングバッチリ、今のはキーも合ってたんじゃない?

「そうかぇ、そうかぇ。なんじゃ、そういうことなら、早く婆にそう言えば良かったんじゃ。ほな、ちょいっと待っとってたもれや」

 そう言うと、老婆はゴボゴボと水の中に沈んでいった。

 あ、あれ?うまくいったとか?

「も、もしかして、取りにいってくれたんでしょうか?」

「意外と言ってみるもんだな」

「良かったわね、勇者さん」

「う、うん」

 なあんだ。あのおばあさん、耳が遠いだけで、やっぱりオトモダチ・モンスターだったんだな。

 ふう。心配しちゃったけど、どうやらなんとかなったようだ。

 しばらくすると、またプールの中央にゴボゴボと泡が立ってきた。

「おっ、ばーさん戻ってきたようだぜ」

 よしよし。ついでに金の剣と銀の剣も持ってきてくれると嬉しいけど。

 僕は水際に近付いてスタンバイした。

「うわわわっ!」

 ザバァーッと上がってきたのは、目の前。老婆はニタニタと笑って、プールの淵に腰掛けた。

 急に上がってくるなよ、もう〜。中央の泡はなんだったんだ、と見たら、そこには蛙が顔を出していた。

「ひっひっひっひっ。驚いたかのう」

 このおばあさん、耳が遠い上に悪戯好きときたか。

「ほれ。お主が落としたのは、これじゃろう」

「あ、ありがとうございます」

 と、何かを渡された。

 あ、あれ?ナマケモノの剣じゃないぞ。もっとずっしり来ると言うか、形状が棒の先に固まりが付いている。

「ほな、婆は帰るぞぇ」

「あっ」

 ザバァンと、ゆっくりもせずに水に戻る老婆。

「あっ、ちょっと!」

 慌てて止めようとしたが、最早声の届かない水の中だった。

「どうしたよ」

 ネズミ君が様子を見にきた。

「これ、違うやつだよ。剣じゃない」

「何だこれ、魚か?」

 棒の先っぽの塊は、なんだか魚のような形をしていた。

「お、おーい!これ違うやつだよぉ〜!」

 水面に向かって、ありったけの大声を張り上げてみたが、それきり動きがある気配はなかった。

 う、嘘!?

「おーい、ばーさーん!これ違うぞー!」

「ばーさん、戻って来なさーい!」

「おばーさーん!」

 またみんなで呼んでくれたけど、うんともすんとも言わなかった。

「しゃあないなぁ。もう大声出すの疲れちゃったぜ。諦めて帰ろうや、勇者」

 せっかちなネズミ君は諦めも早いのだろう。

「あ〜、あたしも。大声出して疲れちゃった。今日はもう帰りましょうよ。なんかお刺身でも食べたい気分」

「ゲンちゃん、おいしいものあげるよ?金魚食べたらかわいそうだよ!?」

「ミャウ〜!?」

 妙子は床に落ちていた金魚を、せっせとプールに戻してやっていた。

 みんなもう切り替えたみたい。僕だけがまだショックを引きずっている。

 トホホ。せっかくの剣が。短い付き合いだったなあ。

「あんなのただの初期装備なんだからよ。どっちみち最初しか使わないんだから」

 ドライなネズミ君。それはそうなんだけど。

 なんか、ちゃんと卒業させてやりたかったというか、まだ時期じゃないって感じが強くする。

「ところで、それ何だ?」

 ネズミ君は棒を手に取ってしげしげと眺めた。盗賊のスキルを発揮して鑑定してくれるのだろうか。

「この魚のようなものは…、なんかデメキンみたいだな」

 言われてみるとそれはデメキンに見えた。棒の先にデメキンのオブジェがくっついている。

「ハンマーみたいに使えなくもないかもな」

「デメキンで殴るの?」

「結構いい武器になるかもよ」

 デメキン部分は鉄で出来ているようだった。水の中にあったせいで、少し錆び付いていたが、確かにこれで殴ればかなりのダメージを与えられるのではないか。

「ナマケモノの剣の代わりくらいにはなるかな?」

「そこまでは期待できんと思うがな」

 どっちなんだよ。はあ、やっぱりデメキンに期待する方がおかしいか。

「帰ったら一応購買部に持って行ってみようや。鑑定してくれるかもしれん」

 やっぱり盗賊のスキルは他人任せか。

「じゃ、行くべか。あ〜あ、宝箱なかったなぁ〜」

 大袈裟にため息をついて、盗賊は出口に向かって歩き出した。そういや、そろそろパーティのお金が底をつく頃なんじゃないだろうか?

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