会議は踊らず、されど戻らず
「だ、だから、正々堂々戦いなさ〜い!」
さっきよりも更にどでかい声を張り上げる鉄子。
「ええ!?何か言ったかのぅ?」
魚族の老婆は、耳に手を当てて身を乗り出した。
「だーかーらー!こっちきて戦いなさいってば!ってゆーか、聞こえないんだったら、もっと近付きなさいよぉ〜!」
くあ〜。耳元でデカイ声出されると、こっちがキンキンする。
「お若いの。何かお困りのようじゃのう。ほれ、この婆に話してみなさらんか」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!キィ〜っ!」
鉄子はイライラして、ガンガンと竹竿を床に打ち付けた。
「おい待てよ、鉄子。このばーさん、本当に耳が悪そうだぜ」
ネズミ君がやってきた。ということは、攻撃される恐れはないということか?
「ほれ、遠慮せんと、この婆に話してみい」
老婆は、こちらの状況などいっさいお構いなしで、マイペースである。
僕らは集まって、簡単なパーティ会議を開いた。
「どうする?」
「なんなのよぉ!あのばーさん」
「お、オトモダチ・モンスターっていうやつでしょうか?」
「だったら蛙が攻撃してこないら?」
といっても、急にいい案が浮かぶものでもないわけで。
「ほれ、ほれ、何を恥ずかしがっておる。ほれ、ほれ、ほれ、ほれ」
老婆は相変わらずプールの中央から動かずに、ほれほれ催促した。
「もう、ほれほれ、鬱陶しいわね!」
「罠だって可能性もまだ残ってるよね」
「剣を落としたっつったら、拾ってきてくれるのかもよ」
「勇者さん、火の玉出してちょうだいよ。ケンジ・ジョージマ、メジャーリーグ打法をお見舞いしてやるわ」
「まあ待てよ。相手は攻撃して来ないんだから、一応正攻法で行ってみたらどうだ?」
「ミャ〜ン」
「ゲンちゃん!?金魚は食べないって、約束だよ!?」
一応、方針が決まって、老婆に向き直る。どういう結果になるかはわからないけど。
すーっと息を吸い込んで、ありったけの力で吐き出す。
「僕は、ナマケモノの剣を落としちゃったんだよぉ〜!」
老婆は一瞬の沈黙、そして。
「ええ!??」
だあああ〜〜〜〜っ!やっぱりぃぃ。
「ナマケモノの剣を落としたんだぁ〜〜!」
ネズミ君も大声を張り上げた。
「えええ!!??」
だあ〜っ!
「ナマケモノの剣を落としたのぉ〜〜!!」
「ナマケモノの剣を落としたんですよぉ〜〜!」
鉄子も妙子も、声を合わせて叫んでくれた。
「え、ええっ!?貰い物の金魚の靴下?」
誰だよ、そんなの贈ったの。でも、少し通じてきたのか?
「ニャンニャニャンニャ、ニャニャニャニャニャア〜〜!!」
「コラ、短足猫!黙ってろ!」
金魚というワードにゲンちゃんが反応したようだ。
「せーのっで、みんなで行くよっ。せーのっ!」
「「「「ナマケモノの剣を、落としたんだあ〜〜〜!!!!」」」」
ダンジョンの石壁に僕らの大合唱が鳴り響いた。タイミングバッチリ、今のはキーも合ってたんじゃない?
「そうかぇ、そうかぇ。なんじゃ、そういうことなら、早く婆にそう言えば良かったんじゃ。ほな、ちょいっと待っとってたもれや」
そう言うと、老婆はゴボゴボと水の中に沈んでいった。
あ、あれ?うまくいったとか?
「も、もしかして、取りにいってくれたんでしょうか?」
「意外と言ってみるもんだな」
「良かったわね、勇者さん」
「う、うん」
なあんだ。あのおばあさん、耳が遠いだけで、やっぱりオトモダチ・モンスターだったんだな。
ふう。心配しちゃったけど、どうやらなんとかなったようだ。
しばらくすると、またプールの中央にゴボゴボと泡が立ってきた。
「おっ、ばーさん戻ってきたようだぜ」
よしよし。ついでに金の剣と銀の剣も持ってきてくれると嬉しいけど。
僕は水際に近付いてスタンバイした。
「うわわわっ!」
ザバァーッと上がってきたのは、目の前。老婆はニタニタと笑って、プールの淵に腰掛けた。
急に上がってくるなよ、もう〜。中央の泡はなんだったんだ、と見たら、そこには蛙が顔を出していた。
「ひっひっひっひっ。驚いたかのう」
このおばあさん、耳が遠い上に悪戯好きときたか。
「ほれ。お主が落としたのは、これじゃろう」
「あ、ありがとうございます」
と、何かを渡された。
あ、あれ?ナマケモノの剣じゃないぞ。もっとずっしり来ると言うか、形状が棒の先に固まりが付いている。
「ほな、婆は帰るぞぇ」
「あっ」
ザバァンと、ゆっくりもせずに水に戻る老婆。
「あっ、ちょっと!」
慌てて止めようとしたが、最早声の届かない水の中だった。
「どうしたよ」
ネズミ君が様子を見にきた。
「これ、違うやつだよ。剣じゃない」
「何だこれ、魚か?」
棒の先っぽの塊は、なんだか魚のような形をしていた。
「お、おーい!これ違うやつだよぉ〜!」
水面に向かって、ありったけの大声を張り上げてみたが、それきり動きがある気配はなかった。
う、嘘!?
「おーい、ばーさーん!これ違うぞー!」
「ばーさん、戻って来なさーい!」
「おばーさーん!」
またみんなで呼んでくれたけど、うんともすんとも言わなかった。
「しゃあないなぁ。もう大声出すの疲れちゃったぜ。諦めて帰ろうや、勇者」
せっかちなネズミ君は諦めも早いのだろう。
「あ〜、あたしも。大声出して疲れちゃった。今日はもう帰りましょうよ。なんかお刺身でも食べたい気分」
「ゲンちゃん、おいしいものあげるよ?金魚食べたらかわいそうだよ!?」
「ミャウ〜!?」
妙子は床に落ちていた金魚を、せっせとプールに戻してやっていた。
みんなもう切り替えたみたい。僕だけがまだショックを引きずっている。
トホホ。せっかくの剣が。短い付き合いだったなあ。
「あんなのただの初期装備なんだからよ。どっちみち最初しか使わないんだから」
ドライなネズミ君。それはそうなんだけど。
なんか、ちゃんと卒業させてやりたかったというか、まだ時期じゃないって感じが強くする。
「ところで、それ何だ?」
ネズミ君は棒を手に取ってしげしげと眺めた。盗賊のスキルを発揮して鑑定してくれるのだろうか。
「この魚のようなものは…、なんかデメキンみたいだな」
言われてみるとそれはデメキンに見えた。棒の先にデメキンのオブジェがくっついている。
「ハンマーみたいに使えなくもないかもな」
「デメキンで殴るの?」
「結構いい武器になるかもよ」
デメキン部分は鉄で出来ているようだった。水の中にあったせいで、少し錆び付いていたが、確かにこれで殴ればかなりのダメージを与えられるのではないか。
「ナマケモノの剣の代わりくらいにはなるかな?」
「そこまでは期待できんと思うがな」
どっちなんだよ。はあ、やっぱりデメキンに期待する方がおかしいか。
「帰ったら一応購買部に持って行ってみようや。鑑定してくれるかもしれん」
やっぱり盗賊のスキルは他人任せか。
「じゃ、行くべか。あ〜あ、宝箱なかったなぁ〜」
大袈裟にため息をついて、盗賊は出口に向かって歩き出した。そういや、そろそろパーティのお金が底をつく頃なんじゃないだろうか?




